第12話「ケンカ」

 とある金曜日、午前中の授業が終わり、僕は弁当を持って学食へ向かおうとしていた。

 あの山登りの日以降、相原くんは今までよりも学校に来ている気がする。見かけることが多くなり、そして僕のところによく来ていた。

 僕としてもクラスで話せる人が増えるのは嬉しかった。話を聞いていると相原くんはウォーキングが趣味で、よく音楽を聴きながら歩いているそうだ。やっぱり体力がつくのだろうか、見習いたいなと思った。


(相原くんも学校に来るようになってよかったな、今度メロディスターズの曲でも教えてみようかな……ん?)


 その時、僕のスマホが震えた。見るとRINEが来たようだ。送り主は火野だった。


『団吉わりぃ、今日は昼飯パスするわ』


 ん? 昼飯パス? あ、一緒に食べるのをパスするのかなと思った。なんだろう、体調でも悪いのだろうか。


『分かった、どうした? 体調悪いのか?』

『あ、いや、そうじゃねぇんだけど、わりぃ』


 いつもの火野らしくない、ハッキリしない返事が来た。うーん、僕が何かしたのだろうか。でも僕にRINE送って来てるしな……と思っていると、またスマホが震えた。今度は高梨さんから送られてきた。


『日車くんごめん、私今日はお昼ご飯一人で食べるね』


 ん? 高梨さんも一緒に食べるのをパスするらしい。どうしたんだろうと思って返事を送ってみる。


『分かった、でもどうかした? 体調悪い?』

『あ、いや、そうじゃないんだけど、ごめんね』


 こちらもいつもの高梨さんらしくない、ハッキリしない返事が来た。あ、あれ? 本当に僕が何かしてしまったのだろうか。気になるけどあまりしつこく聞くのも悪いな……と思っていると、火野からさらに送られてきた。


『団吉、今日の放課後空いてるか? ちょっと付き合ってほしいんだが』


 火野からのお誘いだった。付き合ってほしいって何だろうか? よく分からないけど、僕が嫌われているというわけではなさそうだ。

 うーんと考えながらとりあえず学食へ行くと、絵菜が一人で座っていた。


「あ、団吉、火野と優子が来ないけど……」

「ああ、なんか二人とも今日は一緒に食べないみたいだよ。よく分からないけど……」

「そ、そっか、何かあったのかな……」

「うーん、考えてるけどさっぱり分からなくてね……あ、ご飯食べようか」


 火野に『分かった、いいよ』とRINEを送って、僕と絵菜は二人で昼ご飯を食べた。あの二人はどうしたんだろうかと、ずっと考えていた。



 * * *



 放課後、帰る準備を済ませて廊下に出ると、火野と絵菜が待っていた。


「おっす、お疲れ、すまんな時間取らせちまって」

「いや、いいけど、何かあったのか?」

「あ、まぁ……これからハンバーガー屋にでも行かねぇか? そこで話すよ」

「分かった、あ、絵菜もいていいのかな?」

「あ、だ、大丈夫だ、じゃあ三人で行こうぜ」


 僕と絵菜が頭の上にハテナを浮かべながら、とりあえず駅前のハンバーガーショップへ行く。そういえばここは火野が高梨さんのことを好きだと僕に相談してきた場所だ。

 三人ともそれぞれ注文して席に着くと、火野が大きなため息をもらした。


「はぁ……すまんな急に昼飯パスして。今日は部活に行く気分になれなかったので、仮病使っちまった」

「いや、それはいいんだが、どうしたんだ? 悩み事か?」

「うーん、それが……どうも優子を怒らせてしまったようで……」


 なるほど、高梨さんのことか……って、ん? 怒らせてしまった?


「怒らせてしまった? 何かやったのか?」

「そ、それがよく分かんねぇんだ。急に怒って口をきいてくれなくなって……俺何かやっちまったのかと思ったけど、全然分からなくて、話しかけてもツンとされたから、俺も『もういい!』って強く言ってしまって……はぁぁ」

「う、うーん、高梨さんが何もないのに怒るってことはないよな……怒った最初のこと覚えてるか?」

「うーん……あ、そういえばうちのクラスに優子が遊びに来たのは覚えてる。そこが最初だったような」

「なるほど、その時火野は何してたんだ?」

「クラスの友達と話していたなぁ、で、優子を見つけて手を挙げたんだけど、もう怒っているような顔だった」

「……もしかして、火野、友達って、女子と話していた?」


 それまで黙って聞いていた絵菜がぽつりとつぶやいた。


「あ、ああ、サッカーの話聞かれて、たしかに女子たちと話していたけど……」

「やっぱり……優子はそれが面白くなかったんだ。火野はモテるから、優子も不安になってるのかもしれない」

「そ、そうなのか、いや、別に友達ってだけで、好きとかそういうのは全然ねぇんだけどな……」

「優子の気持ち分かる。私も団吉が女子と話しているの見て、拗ねたことがあるから……」


 そういえば去年の文化祭の時、メロディスターズのメンバーと僕が話しているのを見た絵菜が拗ねたなと思い出した。


「そ、そうか、うーん、でも女子と話さないっていうのは無理じゃねぇか?」

「そうなんだけど、火野が誰かにとられるんじゃないかって、優子はきっと思ってる。クラスも分かれちゃったから、その思いが強いんじゃないかな、私もよく思うから分かる」

「そうか……しかしどうすればいいんだろ……俺の話は聞いてくれないし……」


 火野と絵菜が話しているその時、僕のスマホが震えた。見ると高梨さんからRINEが来ていた。


『日車くんごめん、明日時間あるかな? ちょっと聞いてもらいたいことがあって』


「高梨さんからRINEが来たよ、明日僕が高梨さんの話を聞いてみるよ」

「お、おお、すまん、お願いできるか、お前らだけが頼りだ」

「うん、絵菜、明日空いてる? 僕は三時までバイトだけど、その後に高梨さんと会おうかと思って」

「あ、うん、大丈夫。私も行く」

「本当にすまん! ありがとう、この恩は一生忘れねぇ!」


 そんな大げさな、と思ったが、困った時はお互い様だとみんな言っていたのを思い出した。火野と高梨さんが仲直りできるように、僕と絵菜でできることはやってあげたいなと思った。

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