第11話「山登り」
山登りの日となった。
この日は制服ではなく、ジャージで一日を過ごすことになる。僕も朝からジャージを着て登校した。まぁ動きやすい恰好なのは当然か。
グラウンドに五組から八組のみんなが集まる。ここから四十分くらい歩いて、さらに一時間くらいかけて山を登ることになる。普段から歩くようにはしているけど、火野や高梨さんのようにスポーツをしているわけではないので、ちょっと自信がなかった。
僕は学級委員なので男子の列の先頭に出た。みんなを整列させないといけない。
「おはよう日車くん。相原くんもなんとか来てくれたわね」
「あ、おはよう大島さん。相原くんはどこ……?」
「何言ってるの、目の前にいるじゃない」
大島さんに言われて男子の列の先頭の子を見る。相原くんは一年生の時は別のクラスだった。僕より少し背が低く、ちょっとだけ猫背のその男の子は、めんどくさいことが嫌いのようで、学校も来たり来なかったりしているらしい。まぁ、一応進級はしているから出席日数は足りたのだろう。
「あ、相原くん、来てくれたんだね、今日はよろしく」
「……めんどくさいけど、大西先生に今日は絶対来いって言われたから。よろしく」
「おーい、揃ってるかー? そろそろ出発するぞー。班のメンバーで固まって行動しろよー」
大西先生が先生代表で声を上げる。僕たちは僕と相原くん、その後ろに大島さんと富岡さんとなって歩き始める。
「富岡さんは一年生の時何組だったの?」
「私は六組でした。大島さんは何組だったのですか?」
「私は三組よ。日車くんと一緒だったのよ。二年生でも一緒になれて嬉しいわ」
「そ、そうですか……その、日車さんと大島さんは付き合っているのですか?」
僕と大島さんが同じように「ブーッ!」と吹き出した。
「……? 日車くん、どうかした?」
「あ、相原くん、い、いや、なんでもない……」
「わ、私と日車くんは、その、あの……何て言えばいいのかしら……ら、ライバルよ」
「ら、ライバル……ですか、なんだか難しそうですね……」
慌ててライバルなんて口にした大島さんだが、顔がニヤニヤしているのを見てしまった。何が嬉しかったのだろうか。
「……日車くんは、こういう行事めんどくさくないの?」
「え、まぁ、僕も一年生の最初の頃は面倒だなぁって思っていたよ。友達少なかったからね……」
「そっか、俺も友達いなくて学校が面白くないんだ。とりあえず卒業はしたいけど、必要最小限でいい」
「うーん、まぁ話せる友達が出来たらまた変わると思うよ。僕も一人だったけど、友達のおかげで楽しくなった」
「……ふーん、そんなもんなのかな」
みんなで話しながら歩いて、山のハイキングコースに入る。ここからまた一時間くらい歩く……のだが、途中で大島さんと富岡さんが遅れていることに気がついた。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ……ひ、日車くんと相原くんはなんでそんなに元気なの……?」
「う、うーん、僕はなるべく普段から歩くようにしているからかなぁ、今日は自信がなかったけど、なんとかなるもんだね」
「……俺はよくウォーキングしてるから。これくらいなんてことない」
「そ、そうなのね、二人ともさすがね……わ、私ももっと歩くようにしようかな……」
「ひ、日車さんと相原さん、カッコいいです……山登りで仲良くなった二人はその後も……はっ、わ、私何考えてるんだろう」
「……?」
「あ、相原くん、気にしなくて大丈夫……」
富岡さんが軽くトリップしていたみたいだが、気にしないでおこう。
大島さんと富岡さんのペースに合わせて歩き、なんとか山頂に着いた。山頂は開けていて、ここでしばらく自由時間となる。
「なんとか着いたね、相原くんさすがだね、僕もなんとかついていけてよかったよ」
「……まぁ、これくらいなら大丈夫。日車くん勉強ができるって聞いたけど、運動もできるの?」
「うーん、運動の方は普通くらいで、あまり自信はないんだ。ずっと帰宅部だし」
「……そっか、俺も一緒だ。部活なんてめんどくさくて」
「ふ、二人とも元気ね……私は疲れたから座るわ……」
「わ、私もちょっと休憩します……日車さんと相原さん、すごい……」
「うん、ちょっと休憩したら昼ご飯食べようか、空気も気持ちいいし、きっと美味しいよ」
四人でまとまってその場に座り込む。高い所に来たからなのか空気が気持ちよく、僕はスーッと深呼吸をした。たまにはこういう所に来るのも悪くないなと思った。
「だ、団吉……!」
後ろから声をかけられたので振り向くと、絵菜と杉崎さんと木下くんがこちらに来ていた。
「あ、絵菜たちも着いたんだね」
「うん、疲れた……よかったら一緒に昼ご飯食べないか……?」
「うん、いいよ、みんなで食べよう……って、あれ? 絵菜たちの班一人少なくない?」
「日車お疲れー、友達はギャル仲間の方に走って行っちまったよー、まぁいいかと思ってなー、あたしは姐さんと一緒にいたいので」
「そっか、まぁいいか、木下くんは女性ばかりの班だけど大丈夫?」
「う、うん、まぁなんとかやってるよ。す、杉崎さんがなんか近いけど……」
「なんだよー、木下嬉しいだろ? 両手に花どころか三人だもんなー、あ、姐さんは狙ったらだめだぞー、あたしにしとけーなんちって」
「はひ!? だ、大丈夫だよ、沢井さんは日車くんの彼女だし……」
「あ、う、うん、そう言われるとちょっと恥ずかしいな……」
ふと絵菜を見ると、恥ずかしいのか少し俯いていた。
「……日車くんの彼女?」
相原くんが僕と絵菜を交互に見てぽつりとつぶやいた。
「あ、う、うん、そう……です」
「……そっか、仲が良い人がいるっていいな。俺も友達がいたら違うのかな」
「うん、よ、よかったら友達にならない? 僕もまだクラスで話せる人少なくて、相原くんと話せると嬉しいななんて……」
「えっ……ま、まぁ、こんな俺でもいいなら……」
相原くんが目をそらして顔をポリポリとかきながら言う。少し恥ずかしいのかもしれない。
「……まぁ、日車くんがいるならもうちょっと学校に来るようにしてみるよ」
「うん、それがいいよ、僕も嬉しい」
大島さんと富岡さんがなんとか復活したので、みんなで一緒に昼ご飯を食べた。外で食べるのも気持ちがいいものだ。
そしてしばらくみんなで談笑して、帰る時間となった。帰りも大島さんと富岡さんが遅れそうになっていたので、僕と相原くんはペースを合わせて歩いた。
相原くんも、話してみるといい人だった。これから学校に来てくれると嬉しいな。
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