第9話「班決め」

「はい、では山登りに参加する時の四人の班を作ってもらいます。その中でリーダーを決めて、リーダーは私と日車くんに報告に来てください」


 みんなから「はーい」という声が上がる。火曜日の六時間目はホームルームで、今度行われる山登りの話し合いが開かれていた。僕と大島さんが前に出てみんなに説明する……のだが、僕はほとんど何もしていない。大島さんが仕切ってしまうのだ。まぁ、去年も学級委員をしていただけあって、テキパキとしている。そうか、大島さんが何でもやってしまうから、一年生の時の男子の学級委員を思い出せないのか。


「ん? 日車くんどうしたの?」

「あ、いや、大島さんって何でもできるすごい人なんだなぁって思って」

「な、何よ、褒めても何も出ないわよ。ま、まぁ嫌な気分ではないわね」


 強がっている大島さんだが、顔がニヤニヤしている。そんなに嬉しかったのだろうか。


「そ、そんなことより、私たちも班を作らないとね。私と日車くんは決まってるけど、あと二人どうしよう」

「あ、うん、僕はまだ話せる人が少ないから、大島さんの友達でもいいんだけど」

「うーん、そうね、話す人がいないこともないけど、他の班に行きそうなのよね……」


 みんなが自由にワイワイと班を決めている。学級委員になって気づいたのだが、みんな自由にやっているけど、学級委員など仕切る人の話はちゃんと聞いている。自由すぎないところがうちの高校の生徒のいいところなのかもしれない。

 リーダーが次々と僕と大島さんのところに来る。大島さんが話を聞き、僕がメンバーをメモしていく。やっと役に立ったような気がする。

 だいぶ決まってきたところでふと教室を見ると、ぽつんと一人になっている女の子がいることに気がついた。


「あ、大島さん、一人誘ってきてもいいかな?」

「あ、うん、分かったわ」


 大島さんに一言言って、僕は一人になっている女の子のところへ行った。


「富岡さん、班が決まってなかったら僕と大島さんのところに入らない?」

「え、え!? い、いいのですか……?」

「うん、僕たちもまだ二人しかいなくて。どうしようかと話してたところなんで」

「あ、ありがとうございます……! 私、こういうの苦手で、いつも浮いてしまうんです」


 そういえば僕も去年までは一人で浮いていたなと思い出した。火野がいてくれたからなんとかなったものの、こういう班決めなどは苦手だった。富岡さんの気持ちがよく分かる。


「大島さん、一人ゲットしてきたよ。あと一人どうしようか」

「な、なんか某モンスターゲームみたいに言うわね……うーん、あと一人か……あ、そういえば」


 大島さんが何かを思い出したように出席名簿を見始めた。


「一人いたわ、今日も昼休みで早退しちゃったんだけど、男の子。このままだと誰にも誘われない気がして」

「あ、なるほど……じゃあその子を入れればいいのか」

「まぁ、その子は出席日数もぎりぎりで進級しているみたいで、めんどくさい時はすぐ休んでしまうから、山登りの日も来ないかもしれないけど……学校に来た時に私から話しておくわ」


 大島さんからその子の名前を聞く。相原駿あいはらしゅん。全然顔が思い出せない。まぁ、まだ新しいクラスになったばかりだし、休みがちだったら分からないのも仕方がないのかもしれない。とりあえず僕たちの班が決まった。僕と大島さんと富岡さんが同じようにホッとした顔をしていた。



 * * *



 その日の放課後、僕は六組が終わるのを廊下で待っていた。絵菜と一緒に帰るためだ。

 なるほど、絵菜は真ん中あたりに座っているのか……と思っていると、こちらに気づいたのか終わった瞬間に慌てて廊下に出てきた絵菜がいた。


「ご、ごめん、待たせてしまった」

「ううん、大丈夫だよ、じゃあ帰ろうか」

「うん」


 いつものように一緒に帰る。絵菜がそっと手を握ってきた。


「そういえば山登りの班決めがあったよ。なんとか四人決まったよ」

「そっか、私たちも四人決まった。まぁ、私と杉崎と木下と、杉崎の友達のギャルなんだけど……」

「え、それって木下くんだけが男なのか、大丈夫かな……」


 木下くんの女性に対する挙動不審が強くならないといいなと思ったが、なんとなく杉崎さんとは話しやすいみたいだし、なんとかなるかと思った。


「団吉の班は、誰がいるんだ?」

「僕と大島さんと、富岡さんっていう隣の席の女の子と、相原くんっていう休みがちな男の子の4人になったよ」

「そ、そっか、やっぱり大島がいるのか……ん? 富岡っていうのも女の子……?」

「う、うん、どこの班にも入れなくて一人でいたから、かわいそうだなって思って誘ったよ」

「そっか、団吉はやっぱり優しいな」

「そ、そうかな、こういう班決めって僕も一人で浮いていたから、なんか気持ちが分かってしまってね……」

「ああ、私も去年の最初は浮いてた。優子がいてくれたからなんとかなったけど」

「僕も火野がいてくれたからなんとかなってたよ。まぁ、もうクラスが違うから火野に頼らず、他にも話せる人を増やさないとって思うけど、なかなかうまくいかないね」

「うん……でも、富岡っていうのも女の子か……どんな子なんだろ、もしかして密かに団吉のこと……ブツブツ」

「え、あ、本が好きなおとなしい子だよ。なぜか敬語で話されるけど、悪い子ではないと思うよ」


 BL作品が好きだということは、たぶん絵菜は分からないと思うので言わないことにした。ん? 逆に説明した方が安心するのかな?


「そっか、まぁ、誰が来ても団吉は渡さないんだから……」


 絵菜がそう言って、僕の左腕にぴたっとくっついてくる。誰にも渡さないという意思の表れだろうか。


「だ、大丈夫だよ、僕は絵菜が一番大事だから……」

「うん、ありがと。でも分かってても心配になっちゃうんだ、団吉優しくて可愛いから、好きな人が多い……」


 たしかに、絵菜のことを好きな男の子が現れたりしたら、僕はどうなるだろうかと思ったが、うまく想像できなかった。でもやっぱり絵菜をとられたくないという気持ちは生まれるだろうなと思った。

 それでも、僕は絵菜の一番でいたいし、絵菜は僕の一番でいてほしい。お互い考えていることは一緒なのだろう。今日も手をつないでゆっくりと帰っていた。

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