第8話「生物の授業」

 次の日、一時間目は生物だった。

 二年生からは理科の一科目が選択制となり、化学、生物から選んで受けることとなる。僕は生物を選んだ。

 なぜ生物にしたかというと、絵菜が生物を学びたいと言っていたので、五組と六組が合同で授業を受けることになるから、もしかしたら会えるのではないかというちょっとよこしまな気持ちがあった。

 生物は第一理科室で授業がある。始まる前に移動した。ちらほらと人がいる中で、絵菜の姿を見つけた。


「あ、やっぱり絵菜も生物にしたんだね」

「あ、団吉も? やった、一緒に授業が受けられる……」

「うん、絵菜と会えるかなーと思ってね。隣座っていい?」

「うん、嬉しい……団吉と一緒……」


 絵菜がそう言って僕の袖をつまんできた。だ、誰にも見られてないよな……机の下だし大丈夫か。


「あ、日車じゃーん、おひさー。日車も生物にしたのか、一緒だなー」


 声をかけられたので振り向くと、杉崎さんがニコニコ笑顔でこちらを見ていた。


「あ、杉崎さんも生物なんだね」

「うん、どんなもんか気になってさー、二年で初めて習うじゃん? 物理や化学より簡単だといいけどなーなんちって。あ、姐さんお疲れさまです! あたしも近くに座っていいですか!?」

「う、うん……」

「ありがとうございます! なんだか一年の時思い出すな―」

「あら、みんな生物にしたの?」


 また声をかけられたので見ると、なんと大島さんがいた。


「あ、大島さんも生物なのか、一緒だね」

「そうね、化学でもよかったんだけど、どんなことやるのか気になってね。一応化学も勉強するつもりよ。あれ? 沢井さんもいるのね、ちょっと日車くんにくっつきすぎじゃないかしら?」


 大島さんはそう言って僕の右腕をツンツンと突いてくる。


「そんなことない……大島こそ離れろよ……」

「あ、あのー、二人ともお願いだから仲良くしてほしいなーなんて……あはは」

「大島ー、日車があたしの胸とお尻見れないからつまんないって言う~」

「なっ、日車くん、杉崎さんの胸だけじゃなくてお尻まで見ようとしてるの? でもやっぱり杉崎さん大きいな……ブツブツ」

「なっ!? そ、そんなこと言ってないから!」

「ひ、日車くん、相変わらずモテモテだね」


 またまた声をかけられたので見ると、なんと木下くんがいた。


「あ、木下くんも生物にしたんだね」

「う、うん、目指している大学が生物でも大丈夫って知って、ど、どんなものか気になったので」

「そっか、たしかに大学を考えているなら受験科目も参考にしないといけないのか……」


 絵菜と一緒になりたいなんて邪な気持ちで選んだ自分がちょっと恥ずかしくなった。


「おっ、木下もかー、ていうか木下さ、やっぱメガネとった方が可愛いぞー、髪型もいつものに戻ってんじゃん、こうしてこっちに流してさー、うん、こっちの方が可愛い。あたし付き合うならこっちの方がいいな―なんちって」

「はひ!? い、いや、なんか落ち着かないなこの髪型……」

「なるほど、たしかに木下くん可愛い……私も髪型変えてみようかな……」

「はひ!? そ、そんなことはないよ……た、たぶん」


 いつものようにおもちゃにされる木下くんだった。


「はーい、授業始めるよー席についてー」


 生物の先生がやって来て授業が始まる。結局みんなで固まって座ることになった。なんだかこうして集まると一年生の時を思い出すな。



 * * *



「そういや、もうすぐ山登りがあるな、あれはクラスごとにまとまらなきゃいけないのかな……」


 生物の授業中、隣にいた絵菜がこっそりと小さな声で話しかけてきた。うちの高校は四月に山登りといって、ちょっとだけ離れたところにある山にみんなでハイキングをしに行く行事があった。学年とクラスで日程が分かれて、二年生は五組から八組までが合同で行われる。去年はクラスで四人の班を作らなければならず、友達がいない僕は火野に混ぜてもらってなんとか乗り切った。


「そういえばあったね、たぶんまたクラスでまとまって行動なんじゃないかなぁ」

「そっか……団吉と一緒になりたかった……大島代わってほしい」

「聞こえてるわよ、代わるわけないでしょ。あれはまたクラスごとに班を作って行動するのよ」

「……くそ、聞こえてたか、大島がいなければ……」


 絵菜がブツブツとつぶやいている。ちょっと怖い……。


「え、絵菜、落ち着いて……ま、まぁ、山頂で自由時間があるから、そこだったら大丈夫なんじゃないかな」

「うん……大島に負けたくない……」

「まぁ、私はもう誰と組むか決めてるけどね、ふふふふふ」

「え、大島さんもう決めてるのか、気が早いね、そんなに楽しみなの?」

「な、なんでそんなに他人事なのよ、日車くんと組むに決まってるでしょ」

「え、な、何も聞いてないけど……」

「学級委員だからね、一緒になる運命なのよ。沢井さん残念ねクラスが違って」

「……くそ、大島め、それが狙いなんだな……」

「えぇ、学級委員だからってそこも一緒なの……」

「な、なによ、嫌がらなくてもいいじゃない、それとも、誰か組む人がいるのかしら?」


 うっ、クラスが変わったばかりで、まだあまり話せる人がいないのだった。班を組む人なんていなかった。


「うう、友達が少ないと厳しい……」

「ふふふ、私がいるから安心しなさい、まぁそれでもあと二人決めないといけないけどね」


 たしかに、四人の班となるとあと二人決めないといけなかった。うーん誰がいいんだろうか。


「姐さん、安心してください、あたしと木下が一緒の班にならせてもらいます」

「はひ、え、僕も一緒なの……?」


 杉崎さんと木下くんがこっそりと会話に参加する。絵菜の方は三人が決まりそうだった。


「う、うん……あと一人が団吉だったらよかったのに……」

「こらー、そこおしゃべりしないのよー、授業に集中してー」


 うっ、先生に怒られてしまった。まぁこの人数で話してたらバレるか。


「はーい、すんませーん」

「まったく、続き説明するわよー」


 真っ先に杉崎さんが謝ってくれたことで、なんとかなったみたいだ。そうか山登りか、班のあと二人が問題だが、こちらはなんとかなるのだろうか……。

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