第7話「復活」

 月曜日、昨日までゆっくりしていたおかげか、熱も下がりかなりスッキリした。これなら学校に行けそうだなと思った。

 昨日、絵菜や火野や高梨さん、さらに東城さんからRINEが来ていた。東城さんには日向がRINEで話している時に伝えたらしい。心配する文章が書かれていた。東城さんにまで心配をかけてしまった。

 いつも通り学校へ行き、午前中の授業を受ける。英語の先生のナチュラルな発音も、数学の大西先生の怒涛の説明もちゃんと聞き取ることができた。よし、聞き慣れない呪文のようには聞こえないようだ。

 昼休みになり、弁当を持って学食へ行く。火野と高梨さんと絵菜がこっちこっちと手招きしていた。


「おーっす、お疲れ、団吉体調はどうだ?」

「ああ、もう熱も下がったし大丈夫みたい。みんな心配かけてごめん、ありがとう」

「やっほー、そかそか、よかったよー、顔が真っ赤なの見た時はどうなることかと思ったよー」

「あはは、ボーっとしすぎて自分でもどうなるんだろうとちょっと不安になったよ」

「団吉、よかった……元気になって」


 そう言って絵菜が僕の左袖をつまんできた。


「絵菜もありがとう、心配かけてしまったね」

「ううん、いいんだ。弱ってる時に心配するのは当たり前だから」

「そそ、困った時はお互い様ってね、日車くんにはいつも助けられてるから、日車くんのピンチには私も力になるよー」

「おう、俺も助けられてばっかりだからな、団吉が困った時には力にならねぇとな」

「ありがとう、僕はもう一人じゃないってよく分かったよ。みんないてくれてよかった」

「だ、団吉さん!」


 急に声をかけられたので振り向くと、東城さんが立っていた。


「団吉さんが体調崩してきつそうって聞いて、心配してました……もう大丈夫なのですか?」

「ああ、うん、熱も下がったしもう大丈夫だよ、東城さんにも心配かけちゃったね、ごめんね」

「そんな、いえいえ、心配するのは普通です。でもよかった、長引かないで……」

「そそ、友達なら普通だよねぇ。それにしても東城さん、制服姿が似合ってるねぇ」

「あ、高梨さん絵菜さんお久しぶりです! ありがとうございます、女子高生デビューです」


 東城さんがまたくるんと回ってニコッと笑顔を見せた。くそぅ、何度見ても可愛い。


「くぁー可愛いねぇ、お姉さんみんなまとめて食べちゃいたいよ……ふふふふふ」

「た、高梨さん落ち着いて……って、なんかこっち見られてるような気が……?」


 ふと周りを見ると、何人か視線がこちらに向けられているように見えた。


「なぁ、あれメロディスターズの……違うかな」

「うそ、まりりんじゃない?」

「え、マジ? うちの高校だったの?」


 どうやら、東城さんがまりりんだということに気がついた人がいるみたいだ。さすが、テレビにもたまに出ているアイドルは違うなと思った。


「あら、気づかれたみたいですね。実はクラスでもサインを書いてほしいって言われたりしてるんです」

「おお……さすが東城さんだ、普通に接しているから忘れちまうけど、アイドルだ……」

「ふふふ、ちゃんとアイドルも頑張ってるんですよ! あ、友達が待ってるので行きますね、団吉さん、無理しないようにしてくださいね」

「うん、ありがとう、気をつけるよ」


 東城さんは手を振りながら友達のところへ行った。手を振る仕草もなんだか可愛い。


「東城、可愛いな……」


 絵菜がボソッと言った。も、もしかして取られるとか思っているのだろうか。


「う、うん、そうだね。あ、後で北川先生のところにもお礼言いに行こうかな」

「あ、私も行く」

「うん、じゃあお昼食べたら一緒に行こうか」


 みんなで話しながら昼ご飯を食べる。食欲も戻ったようでよかった。

 そんな僕たちを見ている人がいることに、僕はその時気がつかなかった。



 * * *



 コンコン。


 保健室の扉をノックする。中から「はい、どうぞ」と声が聞こえたので二人で中に入る。


「あら、日車くんと沢井さん、こんにちは。日車くんはもう大丈夫なの?」

「はい、何とか熱も下がって食欲も出てきました。もう大丈夫みたいです。すみません金曜日はありがとうございました」

「いえいえ、よくなったようでよかったわ。でも無理しちゃダメだからね」

「は、はい」

「それにしても……二人は仲が良いのね、お付き合いしているの?」

「え、あ、はい、そんな感じで……」


 ふと絵菜の方を見ると、コクリと頷いた後、少し顔が赤くなって俯いた。


「そう、青春っていいわね。私なんて数年彼氏なんていないのに……どうしてかしら……若い子にどんどん先越される……ブツブツ」


 あ、やっぱりそうなのか。って、突っ込むと怒られそうな気がしたのでやめておいた。


「……なんてね、私のことはどうでもいいわ。わざわざお礼まで言いに来てくれてありがとう」

「あ、いえ、お世話になったからちゃんと言っておいた方がいいと思って」

「ふふふ、日車くんは優しいのね。でも困った時にはちゃんと人に頼るのよ」

「は、はい、沢井さんや友達が心配してくれてると知って、僕も一人じゃないって思えました」

「そうよ、人は一人じゃ生きられないの。自分が困った時には誰かが手を差し伸べてくれるし、誰かが困った時には逆に手を差し伸べてあげないとね。そうやって人は助け合って生きていくのよ」

「は、はい……」

「おっと、ちょっと説教みたいになってしまったわね、ごめんなさい、先生たちの言葉がうつったのかしら。大人の戯れ言だと思ってさらっと流してね」

「いえ、僕もそう思うし、そうしたいなって思います。困った時はお互い様だと友達にも言われました」

「そうね、私もそう思うわ。ふふふ、沢井さんだけでなく、いい友達がいるのね、大事にしなきゃね」

「は、はい」

「また体調が悪くなったらいつでもいらっしゃい。無理しないのが一番大事だからね」

「はい、ありがとうございました」


 二人でお礼を言って、保健室を後にする。たぶん初めてこんなに話したけど、北川先生も優しくていい先生だった。ど、独身なのは絶対に突っ込まないでおこう。


「ほんと、団吉が元気になってよかった……」


 絵菜がぽつりとつぶやいた。絵菜にも心配をかけてしまったけど、こうやってお互い支え合っていけたらいいなと思った。

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