第6話「心配」

 次の日の土曜日、目が覚めると外はすっかり明るかった。どのくらい寝ていたのだろうか、ふと時計を見ると十二時だった。そっか、午前中はずっと寝ていたのか。

 昨日絵菜に支えてもらいながら帰ると、日向が「おおおお兄ちゃん!? 大丈夫!? あわわわ……」と慌てていたのは覚えている。その後ベッドに横になって、その後のことはあまり覚えていない。あ、途中で薬を飲まなきゃいけないから少し食べたんだっけ。

 ゆっくりと起き上がってみる。まだ体は熱いみたいだ。でも動けないことはないので、リビングへ向かう。


「あ、お兄ちゃん起きた? 熱測ってみて。おかゆ作るからちょっと待っててね」


 日向は僕に体温計を渡すと、パタパタとキッチンへ向かった。とりあえず熱を測ってみる。

 ……三十七度四分か、まだ少し熱があるようだ。今日が休みの日でよかったとホッとする。いや、昨日も無理をするべきではなかったのだ。絵菜やみんなに迷惑をかけてしまった。そのことを思うと落ち込んでしまう。

 しばらくソファーに腰掛けていると、日向がやって来た。


「熱測った? ……あ、まだ少しあるね、食欲ないかもしれないけど少し食べてね。お薬飲まないといけないでしょ?」

「ああ、ありがとう……いただきます。日向、ごめんな……」

「そんな、いいんだよ気にしないで。今日お母さん休日出勤だから私が看病頑張るからね」


 日向はそう言って力こぶを作った。そういえばこのポーズ気に入ってたな。

 おかゆを食べて薬を飲んで、少しソファーに座ってボーっとしているとインターホンが鳴った。


「あれ? 誰だろう?」


 日向がパタパタと玄関に行く。何か宅配便かな? と思ったが、日向と誰かが話しているのが聞こえる。知り合いかな……。


「お兄ちゃん、絵菜さんと真菜ちゃんが来たよ」


 日向が絵菜と真菜ちゃんと一緒にリビングに戻ってきた。そうかこの二人だったのか。


「あ、いらっしゃい、絵菜、昨日はごめんね、遅くなったのに送ることもできなくて……」

「ううん、いいんだ、団吉起きてて大丈夫? 熱は下がった?」

「うん、でもまだ少し熱があるみたい。でも昨日よりはスッキリしてるかも」

「お兄様が風邪をひいたと聞いて、何かできないかと思って、バナナとヨーグルト持って来ました。食欲はどうですか?」

「ああ、ありがとう、おかゆくらいなら食べることができたよ。まだしっかりと食べるのは無理かも……」

「そうですか……早く元気になりますように。日向ちゃんに渡しておきますね」

「わあ、絵菜さん真菜ちゃんありがとう、お兄ちゃんが食べられそうなもの後で買いに行こうと思ってたとこでした」


 日向が真菜ちゃんからバナナとヨーグルトを受け取って、キッチンへ行く。絵菜が僕の横に来て、僕のおでこに手をつけた。


「……まだ熱いな、横になってた方がいいんじゃないか?」

「うーん、そうだなぁ、せっかく来てもらったのに悪いけど、部屋で横になっておこうかな……」

「うん、その方がいいよ。私ついてく」

「お兄様、無理はしないでくださいね、ゆっくり休んでくださいね」


 絵菜が僕の手をとってくれて、部屋まで連れて行ってくれた。起きた時はスッキリしていると思ったけど、まだ熱があるせいか少しフラフラする。うう、せっかく絵菜と真菜ちゃんが来てくれたのに……。

 部屋に入ると、絵菜がきゅっと僕に抱きついてきた。


「え、絵菜、ダメだよ、風邪がうつっちゃう……」

「団吉が弱ってるとこ初めて見たから、心配で……このままいなくなったらどうしようって……」

「だ、大丈夫だよ、風邪だからしばらく休んでたら治るよ、いなくなったりしないよ」


 そういえば初めてデートをした時、『ひぐる……団吉はいなくなったりしない……よな?』って聞かれたなと思い出した。あの時から名前で呼ぶようになったのだ。


「うん……いつも団吉に助けられてばかりだから、今は私が支えてあげたい」

「ありがとう、嬉しいよ。ちょっと横になろうかな……」


 僕はベッドで横になる。布団を絵菜がかぶせてくれた。絵菜が僕の右手をずっと握っている。絵菜に心配をかけてしまったが、優しさが嬉しかった。


「僕が元気になったら、またデートしよう……ね」

「うん、楽しみにしてる。今はゆっくり休んで」

「うん、ありがと……う、だんだん眠くなって……きた……」


 絵菜に手を握られたまま、僕は眠ってしまった。絵菜の手の温もりを感じていた。



 * * *



 目が覚めると、外はもう暗かった。やばい、けっこう寝てたのかな。寝たおかげか少しスッキリした。

 いつの間にか絵菜もいない。ふと時計を見る。さすがにこの時間なら帰ってるかと思った。

 リビングに行くと、母さんと日向がテレビを見ていた。母さんも帰ってきたのか。


「あ、お兄ちゃん起きたね、体調どう?」

「ああ、少しスッキリしたかな、けっこう寝てたみたいだなぁ」

「よかったわ、団吉が風邪ひくの久しぶりね、熱が下がったからって無理しちゃダメよ、明日もゆっくりしてなさい」

「うん、そうする。休みでよかったよ」


 熱を測ってみると、三十七度二分だった。ちょっとだけ高いが体はだいぶスッキリしている。明日もゆっくりしていれば月曜日は学校に行けるかなと思った。


「絵菜と真菜ちゃんは帰ったのか」

「うん、あれから少し話してて、夕方に帰ったよ。二人とも心配してたよ。あ、もらったバナナとヨーグルト食べる?」

「あ、うん、そうしようかな、何か食べておかないと」


 日向がパタパタとキッチンに行き、バナナとヨーグルトを持って来てくれた。食欲も少しずつ出てきたみたいだ。


「絵菜と真菜ちゃんにも心配かけちゃったな……あと火野と高梨さんにも」

「お兄ちゃん、弱った時くらい誰かに頼っていいんだよ、みんないるんだから」

「そうよ、後でありがとうって気持ちを伝えればいいのよ。団吉は何でも自分で何とかしようとするから」

「うん、そうだね、みんなに支えられているんだなってよく分かったよ」


 そうだ、僕はもう一人じゃないんだ。絵菜やみんながいる。次に会った時にちゃんと感謝の気持ちを伝えようと思った。

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