第4話「後輩」

 青桜高校の入学式があった次の日、昼休みにいつもの四人で昼ご飯を食べた後、僕は教室に戻ろうとしていた。


(今日も富岡さんは本を読んでいるのかな。僕も戻ったら本を読もうかな)


 そんなことを考えていたその時だった。


「団吉さん!」


 急に自分の名前を呼ばれたので振り向くと、なんと東城さんがニコニコしながらこちらに来ていた。

 東城麻里奈とうじょうまりな。落とし物を僕が拾ったことで出会った可愛い女の子。アイドルグループ『メロディスターズ』のメンバーで、『まりりん』と呼ばれている。この春から青桜高校に通うことになったのだった。


「あ、東城さん、こんにちは。ついに学校で会っちゃったね」

「はい! 団吉さんに会いに行こうと思ったのですが、何組か知らなくて色々な人に聞いちゃいました。でも教室にいなかったので」

「ああ、昼は学食でみんなと一緒に食べてるんだよ。ごめんねわざわざ来てもらったのに」

「いえ! こうして会えたからいいのです! それよりも、どうですか私の制服姿! 女子高生デビューです」


 東城さんがくるんとその場で回ってニコッと笑った。くそぅ、仕草が可愛い。


「うん、か、可愛いね……って、直接言うのは恥ずかしいな……」

「ふふふ、ついに団吉さんと同じ学校に通う夢が叶いました! 嬉しいなー」

「あはは、そうだね、東城さんが後輩になったんだよなぁ、なんか不思議な感じだよ」

「はっ、そうでした! もう『団吉さん』じゃなくて『団吉先輩』ですね! どちらがいいですか?」

「え、あ、それは東城さんが呼びやすい方で大丈夫だよ、でも団吉先輩ってなんだか恥ずかしいかも」

「ふふふ、じゃあこれまで通り『団吉さん』って呼びますね!」


 東城さんが僕の目を見てまたニコッと笑った。くそぅ、やっぱり可愛い。


「でも、高校生って大変ですね、入学したばかりなのに今日はテストなんです」

「ああ、よく分からないけどこの高校の伝統らしいよ、入学してすぐと、夏休み明けにもテストがあるよ。僕も去年受けてたよ」

「えーそうなんですね、夏休みは遊びたいのになぁ」

「おーい団吉、そんなとこで何してるんだ……あ、東城さん! おっす、こんにちは」

「はひ!? ま、まりりん!? ど、どうしてこんなところに!?」


 後ろから声をかけられたので振り向くと、火野と木下くんがこちらに来ていた。そうか、木下くんは東城さんが入学したの知らなかったのか。


「ああ、木下くん、東城さんはうちの高校に入学したんだよ」

「あ、こんにちは! 団吉さんのお友達の火野さんと木下さん! 見てください、女子高生デビューです」


 そう言って東城さんはまたくるんと回った。何回見ても可愛い。


「あはは、めっちゃ似合ってるね、可愛いよ。そうかー後輩になったかぁ」

「はい! あ、もう火野先輩と木下先輩ですね! でも団吉さんと一緒で火野さんと木下さんって呼ぼうかなぁ」

「はひ!? ま、まりりんが僕の名前を……!」

「ふふふ、木下さんはよくライブに来てくれますよね! いつもありがとうございます」

「はひ!? い、いえ、まりりんのファンなので、当たり前というかなんというか……」

「ふふふ、ありがとうございます! またみなさんでライブに来てくれると嬉しいです! あ、もうすぐ午後が始まりますね、それでは失礼します!」


 東城さんはそう言って、手を振りながら一年生の教室の方へ行った。


「話には聞いてたけど、東城さんが後輩なんてなんか不思議な感じだな」

「ああ、僕もちょっと信じられないけど、また学校が賑やかになりそうだよ」

「ま、まりりんが僕のこと知ってた……僕のこと……夢みたい……」


 木下くんが軽くトリップしそうになっていたので、慌てて「落ち着いて」とフォローした。まぁ、憧れのまりりんが覚えててくれたらそうなるよなぁと思った。



 * * *



 午後の授業が始まった。この時間は数学だ。いつもの大西先生の怒涛の説明があるのかもしれないなと思った。

 さて、二年で新しく学ぶこともあるし、気合い入れていくかと思っていたら、


「あ、あの……」


 と、隣から声をかけられた。見ると富岡さんがこちらを見ている。


「す、すみません、数学の教科書忘れてしまって……見せてもらってもいいですか……?」

「あ、うん、いいよ、じゃあ机くっつけようか」


 僕はそう言うと、富岡さんが机ごと僕に近づいてきた。杉崎さんほどではないものの、自然と距離が近くなって僕はドキッとしてしまう。うう、僕も男なんだな。

 大西先生の説明があった後、大島さんが問題の答えを黒板に書いている。


「な、なんだか難しいですね……ついていけるかな……」

「あはは、そうだね、大西先生授業も熱く突っ走るからなぁ。分からないところあったら教えるよ」

「あ、ありがとうございます……その、関係ないんですけど、日車さんは仲の良い男の子とかいるんですか?」

「あ、うん、そんなに多くないけど、一組の火野とは中学の時からずっと仲が良いなぁ」

「ああ、サッカー部の火野さん……カッコいい人ですよね」

「うん、昔からカッコよくてモテるんだよなぁ、羨ましいよ」

「そうですか……日車さんと火野さんは仲良くて、あんなことやこんなことしちゃうのかな……」


 あ、あれ? なんだか雲行きが怪しくなってきた。あんなことやこんなことってなんだろう? も、もしかしてBL作品に影響されているのだろうか。


「ま、まぁ、一緒に遊んだりはしてる……かな、あはは」

「そうですか……一緒に遊んで、帰りが遅くなって、送るよって言いながら二人は……はっ!? 私何を考えていたんだろう」


 富岡さんが顔に手を当ててあわあわと慌てている。なんだろう、妄想しちゃう系の女子なのだろうか。


「よし、大島ありがとう。この問題を解説していくぞー」


 大島さんの板書が終わり、授業に集中することにする。な、なんか変な空気が流れたような気がするが、気にしないことにした。

 大西先生の怒涛の説明は相変わらずで、富岡さんがちょっと分からないと言うので、少しフォローしながら授業を受けた。そうか、みんなこれについていけなかったんだなと思った。絵菜のクラスも数学は大西先生と言っていたが、絵菜は大丈夫だろうかとちょっと心配になった。

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