第2話「一緒のクラス」

 始業式の日の放課後、帰ろうかと思って準備していると、どこからか視線を感じた。

 ふと廊下を見ると、絵菜がこちらをじーっと見ていた。放課後だし教室に入って来てもいいのだが、違うクラスに入るのは少し勇気がいる。入りたくても入れなかったんだろうなと思った。僕は慌てて帰る準備を済ませて廊下に出る。


「ごめん、もしかして待ってくれてた?」

「う、うん、ちょっとだけ。一緒に帰りたくて」

「ありがとう、絵菜のクラスは誰か知り合いいた?」

「杉崎と、木下が一緒のクラスだった。知ってる人がいるのはありがたいんだけど、杉崎が飛び跳ねるように喜んでた……」

「あはは、杉崎さんは相変わらずだね」


 絵菜と一緒のクラスになったのは、杉崎花音すぎさきかのん。杉崎さんは茶髪の今どきのギャル……と言っても今どきがどんなものか分からないのだが、とにかく明るい。なぜか絵菜を『姐さん』と呼び慕っている。あれ? でも以前数学は苦手だと言っていた気がするが、なぜ理系にしたのだろうか。もしかして絵菜を追いかけて来たのだろうか。

 もう一人は、木下大悟きのしただいご。木下くんは僕と同じで読書が好きなオタクくん。アイドルにも詳しい。僕はよく木下くんと本の貸し借りをしていて、今も借りた小説を三巻まで読んでいる。趣味が合う友達だ。


「団吉のクラスは誰かいた?」

「ああ、大島さんがいたよ。また学級委員になってた。相変わらずだなぁ」

「お、大島がいたのか……くそ、大島と代わりたい……」


 そういえば、絵菜と大島さんはどうも合わないみたいで、いつも言い合っていたなと思い出した。僕としてはもう少し仲良くしてもらいたいのだが……。


「そして、大島さんに推薦されて僕も学級委員になってしまったよ……」

「え、そ、そうなのか、さすが団吉だな……いや、もしかして大島の奴、最初から狙ってたのでは……ブツブツ」

「そ、そうかな、まぁなってしまったのは仕方がないから、頑張ってみるよ」

「そっか、大島には絶対に負けないんだから……」


 絵菜はそう言って僕の手をきゅっと握ってきた。絵菜は見た目こそ派手っぽく見えてしまうが、怖がりで寂しがりやで負けず嫌いだということを僕はよく知っている。そんな絵菜が大好きだ。

 途中で絵菜と別れて、僕はまっすぐ家に帰る。玄関を開けると靴が二足あった。ひとつは妹のものだと思うが、もうひとつは友達だろうか。


「お兄ちゃんおかえりー、お昼あるよー温めてね」

「あ、お兄様おかえりなさい、おじゃましてます。なんだかお会いするのも久しぶりのような気がします」


 ソファーに仲良く二人が座っていた。一人は僕の妹の日車日向ひぐるまひなた。中学三年生になった。僕と違って明るく学校でも人気者らしい。兄のことが好きすぎるのかいつもくっついてくるのをどうにかしてほしいと思っている。

 もう一人は沢井真菜さわいまな。日向と同じ学校で中学三年生。絵菜の妹だ。可愛らしくて礼儀正しいのだが、たまにとんでもないことを言ってしまう癖がある。僕もいつも驚かされてしまう。


「ただいま、そっか真菜ちゃんが来てたのか、さっき絵菜と帰って来てたよ」

「まあまあ、お兄様とお姉ちゃんは仲良く帰ってきたのですね、手つないでましたか?」

「え、う、うん、まぁそんな感じで……って、言われるとすごい恥ずかしいね……」

「お兄ちゃん聞いて聞いて! また真菜ちゃんと同じクラスになったの! びっくりした!」

「そうそう、日向ちゃんが同じクラスだって知って嬉しくて……また女子の秘密の話ができるね!」


 日向と真菜ちゃんが顔を合わせて「ねー」と言っている。やはり女子の秘密の話というのが気になるが、教えてくれないようだ。


「そっか、いいなぁ二人は同じクラスで……僕は絵菜と一緒になれなかった……」

「え、そうなの? それは残念だね……」

「そっか、お兄様とお姉ちゃん分かれちゃったのですね……それは寂しいですね」

「うん、絵菜が思いっきり落ち込んでしまって、フォローするのに必死だったよ」

「火野さんと高梨さんは一緒じゃないの?」

「ああ、あの二人は文系だからクラスが違うんだよ。僕と絵菜は理系だから」

「そっか、高校生ってなんだか難しそうだね、文系とか理系とか」

「日向ちゃん、私たちも頑張って青桜高校に入ろうね!」

「うん! お兄ちゃんたちの後輩になりたい!」


 日向と真菜ちゃんが何やらやる気を見せている。そうだこの二人も受験生になったのだ。大変だろうけど頑張ってほしい。

 話に出てきた二人は友達だった。一人は火野陽一郎ひのよういちろう。サッカーをはじめスポーツが得意な爽やかイケメン。女子に人気なので羨ましい。僕と火野は中学からの知り合いで、僕が一人でいた頃もよく話しかけてくれた。

 もう一人は高梨優子たかなしゆうこ。美人で背が高くてスタイルもよく、バスケが得意な明るい女の子。絵菜とは幼稚園の頃からの知り合いらしく、絵菜が一人でいた頃もよく話しかけていた。二人とも大事な友達だ。ちなみにこの二人は付き合っている。二人が同じように僕に相談をしてきたのが懐かしく思えた。

 僕が昼ご飯を食べ終わって、三人で話していたその時、僕のスマホが鳴った。見ると絵菜からのRINE、メッセージが来たみたいだった。


『そっちに真菜行ってる?』

『あ、うん、うちに遊びに来てるよ』

『そっか、なかなか帰って来ないから、どこか行ったのかと思って』

『なるほど、すれ違ったんだね。よかったら絵菜もうちに来る?』

『あ、うん、行きたい。今から行く』


「RINE? もしかして絵菜さん?」

「うん、真菜ちゃんが帰って来ないから気になったんだって。今からうちに来るってさ」

「あ、学校からそのまま来ちゃって、お姉ちゃんに連絡するの忘れてました……」

「あはは、なるほど。でも絵菜も真菜ちゃんがここにいるってよく分かったな……」

「お姉ちゃん、昔からなんだか勘が鋭い時があるんです。だからお姉ちゃんにはいい嘘でもつけなくて」

「ああ、たしかに、僕も覚えがあるな……絵菜には秘めた力があるらしいよ」


 そういえば中二みたいなことも言ってたなと思い出しながら、しばらく三人で話していると絵菜がやって来た。うちと絵菜たちの家は歩いて二十分くらいなので、そんなに遠くない。歩くにはちょうどいい距離なのかもしれない。

 それからみんなでゲームをしたり談笑したりして楽しんだ。相変わらずゲームになるとみんな僕を狙ってきている気がするが、気にしないでおこう。楽しい時間があっという間に過ぎて行った。

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