第95話「終わりの日」
少しずつ暖かい日も増えてきた3月末。今日は修了式の日だ。
1、2学期と同じように、今日も午前中で学校は終わる。全校集会があって、その後ホームルーム。このクラスも最後かと思うと、ちょっと寂しい気持ちになった。みんなそんなものなのかもしれない。
「みんな一年間よく頑張ったな。これから先も努力を忘れず、勉強も遊びも全力で頑張るんだぞー」
ホームルームで大西先生のありがたいお言葉をいただく。本当に一年間あっという間だった。入学してしばらくは学校もそんなに面白いと思えず、よく一人になってたなと思い出した。そして偶然絵菜と話すようになって、それからは毎日が楽しくなった。友達も増えて、笑われてばかりの僕からは想像できないような毎日だった。
「おーっす、お疲れ、終わったなー、なんかちょっと寂しいというか」
放課後、火野と高梨さんと絵菜が僕の席に集まる。いつもの光景だが、この『いつもの』が僕は嬉しかった。
「ああ、なんか終わりと思うと寂しいな。楽しかったなぁ。みんなありがとうね」
「ふふふ、私も楽しかったよー、このクラスになってよかったよー。さすがに2年になったら同じクラスにはなれないかもしれないけど、またみんなで集まろうねぇ」
「おう、俺ら友達だからな、クラスなんて関係ないさ。また色々遊ぼうぜ」
前にも話していた通り、進路希望調査で火野と高梨さんは文系を、僕と絵菜は理系を選んでいたので、2年になったら分かれてしまう可能性が高い。でもそれでも関係ない、僕たちには強い絆があるのだ。
「絵菜もお疲れ様、色々ありがとうね」
「うん、私こそありがと、ほんとに楽しかった」
「うん、絵菜と出会えてよかったなぁ、最初は怖い人かと思っていたよ」
「……もう、怖くないから。でも最初はびっくりしたな、まさか見られてるなんて思わなかった」
「ん? 見られてるって何の話だ?」
「え、あ、最初は絵菜が上級生に絡まれているところを見てしまってね……その、ここだけの話なんだけど」
「ああ、なるほどな、運命の出会いってやつか!」
「ふむふむ、日車くんと絵菜の馴れ初めだねー、いやーいいもんだねー」
「あ、う、うん、なんかそう言われると恥ずかしいな……」
僕と絵菜が同じように俯くので、火野と高梨さんは笑った。
「さーて、今日も部活だー、そろそろ行かないと中川に怒られそうだ」
「私も部活だよー、今日くらいみんなでワイワイやりたいけど、そうもいかないねぇ」
「そっか、二人とも頑張ってね。絵菜はどうする? 一緒に帰る?」
「あ、ちょっと寄りたいところがあるんだけど、いいか?」
「うん、いいよ、じゃあ行こうか」
火野と高梨さんと別れて、僕は絵菜についていくことにした。僕を引っ張るようにして絵菜がどこかへと歩いていく。どこに行くのだろうかと思ったら――
「ここに来たかったんだ」
「あ、あれ? ここ?」
僕が連れて来られた場所は、体育館裏だった。そう、あの日絵菜が上級生に絡まれているところを偶然見てしまった場所。僕と絵菜の始まりの場所と言ってもいいかもしれない。そして、僕が絵菜に告白した場所でもある。
絵菜が体育館を背にして座ったので、僕も隣に座る。コンクリートの地面が少しだけ冷たかった。
「なんだか懐かしいな、あの時はごめん、名前聞いて笑ったりしてしまって」
「いやいや、大丈夫だよ、それくらい慣れてるからね……って、それもまた寂しい気持ちになってしまった……」
「ふふっ、でも私いっぱいいっぱいだった。どうにかして黙っててもらおうと思って」
「そっか、ほんとに勉強したかったの?」
「うん、学校は真面目にしておかなきゃいけないって思って。中学の時はサボってたから、自分を変えたかったのかもしれない」
「なるほど、でもとっさのこととはいえ、まさか家に呼んじゃうなんて、僕も思い切ったことしてたなぁ」
「ふふっ、でも嬉しかったよ、こんな私でもちゃんと見てくれて、真面目に考えてくれて」
絵菜が僕の手をそっと握って、頭を左肩に乗せてきた。僕は右手で絵菜の綺麗な金色の髪をなでてあげた。
「私、その時から少しずつ団吉のことが気になって、どんどん好きになっていって……真面目で可愛くて優しい団吉のことばかり考えてた」
「そっか、告白した時にも話したけど、僕は自分の気持ちに気がつくのが遅かったなぁ、それもまた僕らしいのかな」
「うん、私をかばってくれて、告白してくれた時はすごく嬉しかった。夢なんじゃないかって思った」
「あはは、僕も信じられなかったなぁ、でも、あの時ちゃんとここで絵菜に告白できてよかったよ」
「また、絡まれたら助けてくれる?」
「え!? い、いや、絡まれない方がいいけど……うん、絵菜も、そして真菜ちゃんも僕が守るよ。真菜ちゃんがいじめられた時に思ったんだ、僕にしかできないことがあるはずだって」
「そっか、うん、真菜も私も嬉しい。誰かを好きになるってこんなにいいものだったんだなって」
「うん、僕もそう思うよ。今まで避けてたけど、こんなにいいものだって気づけてよかった」
絵菜がぎゅっと僕の左腕に抱きついてきた。だ、誰も来ませんようにと祈る。まぁ、ここに来る人はいないか。
「あ、お腹が鳴った……僕ちょっとお腹空いてきたかも。どこかに寄って帰らない?」
「うん、あ、よかったらそのままデートしよ?」
「うん、じゃあ行こうか、何食べようかな」
僕たちは立ち上がり、体育館裏を後にする。心の中で『ありがとう』と、この場所に感謝した。
笑われてばかりだった僕が変われたのも、絵菜やみんなのおかげだ。本当に感謝している。
そして、これからも何があっても、絵菜のそばにいて絵菜を守るって決めたんだ。
――笑われても、君が好きだ。
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作者のりおんです。
これにて、第一部の一年生編が終了です。
ここまで長いこと読んでくださってありがとうございます。
団吉くんと絵菜さん、それぞれ理由は違いますが孤立していた二人が、ここまで仲良くなれて、優しい友達にも囲まれて、本当に良かったなと思います。
第二部は二年生編になります。これから先は毎日一話ずつ更新という形にさせていただきます。
これからも、何卒よろしくお願いします。
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