第94話「合格発表」
ホワイトデーも過ぎ、もうすぐ終業式を迎えようとしていたある日、家に帰ってからのんびりしていると、インターホンが鳴った。
何か宅配便かな? と思って出てみると、なんと東城さんがいた。
「こんにちは! 今日卒業式でした! 帰りに団吉さんにお会いしたいと思って」
「こんにちは、ああ、そういえば日向も在校生として今日行くって言ってたなぁ。卒業おめでとう、中学生活はどうだった?」
「はい、とっても楽しかったです! アイドルの仕事もしながら、勉強も頑張りました! そして日向ちゃんや真菜ちゃんとも仲良くなって、学校で話すようになって嬉しかったです」
「そっかそっか、日向も東城さんのことよく話してくれるよ。仲良くしてくれてありがとうね」
「はい! そしてそして、私、青桜高校に合格しました! 春から団吉さんの後輩になります!」
東城さんがぴょんぴょん飛んで喜んでいる。その仕草が可愛いなと思った。
「おおー、おめでとう! ダブルでおめでたいね、そうかー後輩になるのかぁ」
「はい! もう嬉しくて嬉しくて……どうしても団吉さんにお伝えしたいと思って!」
「お兄ちゃん、長いけどどうしたの……あ、東城さん! こんにちは!」
「あ、日向ちゃんこんにちは! 卒業式の帰りに寄ってみたの!」
「東城さん、青桜高校に合格したんだって。春から女子高生だよ」
「ええー! おめでとうございます! って、お兄ちゃんが女子高生って言うとなんか変態くさいね」
「え!? そ、そうかな、普通だと思ったんだが……」
「ふふふ、団吉さん、ピッチピチの女子高生ですよ! 毎日団吉さんを誘惑しに行きますね」
「え!? う、うん、誘惑はしなくてもいいかな……あはは」
僕がそう言うと、東城さんは「えー」と言いながらちょっと頬を膨らませた。東城さんみたいな可愛い子に誘惑されたら心臓がいくつあっても足りない。
「ま、まぁ、みんなにも伝えておこうかな、東城さんが後輩になるって」
「はい! ありがとうございます、みなさんと会えるのも楽しみです!」
「いいなー東城さんいいなー、私も青桜高校受けたいなぁ、そしてお兄ちゃんや東城さんの後輩になりたい!」
「いいねいいね、また学校で女子の秘密の話したいなー」
「うん、また真菜ちゃんも一緒に女子の秘密の話しましょうね!」
日向と東城さんが顔を合わせて「ねー」と言っている。や、やはり女子の秘密の話というのが分からなかった。
「試験の日、団吉さんにハグしてもらったから、頑張れたと思うんです。本当にありがとうございました」
「いえいえ、東城さんのためなら……と思ったけど、や、やっぱり恥ずかしいね」
「ふふふ、またハグしてもらえるように頑張ろっと!」
東城さんがぐっと拳を握った。くそぅ、東城さんがやると全部可愛く見える。
「あ、そろそろ帰らないと、すみませんお邪魔しました!」
「いえいえ、本当におめでとう、春から楽しみにしてるよ」
「東城さん、またねー!」
二人で東城さんを見送った。そうか後輩になるのか。学校で『団吉さん!』と呼ばれるのが想像できてちょっと恥ずかしくなりそうだった。
* * *
その日の夜、僕は東城さんがうちの高校に合格したことをみんなに報告しようと思って、久しぶりにグループ通話をしてみた。
「お疲れ様、今日東城さんが来て、うちの高校に合格したって言ってたよ」
「おーっす、おおー、それはめでたい!」
「やっほー、東城さんおめでとー! ということは後輩になるのかー」
「うん、みんなと学校で会うのも楽しみにしてるって言ってたよ」
「そかそかー、そして東城さんも年下……可愛いしいつ食べちゃおうかな……じゅるり」
「た、高梨さん心の声が……まぁ、春からもなんだか学校が賑やかになりそうだよ」
そこまで言って、絵菜が一言も話してないのが気になった。
「絵菜? どうかした?」
「あ、いや、また団吉のこと好きな人が増えて、ちょっと怖いというか……東城はアイドルだし」
「え!? ま、まぁ、大丈夫だよ、僕は絵菜のことが大事だし……」
「う、うん、でもどうしても不安になってしまって……」
「絵菜、大丈夫だよ、日車くんは絵菜一直線だから。そりゃあ男の子だからちょっとはドキッとするかもしれないけど、絵菜のことを一番よく想ってくれてるよー」
高梨さんが言いたいことを全部言ってくれた。でも絵菜が不安になる気持ちも分かるかもしれない。逆の立場だったら……と思うと怖いものがある。
「まぁ、団吉はコロコロと人に流される奴じゃねぇ。俺が保証するぜ。沢井のことを一番に考えてる」
「そだよー、絵菜も日車くんを信じてあげよ?」
「う、うん、信じてる。誰が来ても負けないんだから……」
絵菜から負けないオーラみたいなものを感じた。う、うん、大丈夫だよ、僕は絵菜のことが一番大事だから。
「それにしても、1年生が終わるなぁ。あっという間だったなー」
「そうだなぁ、もう夏休みが懐かしく感じる。花火大会にも行ったよね」
「そ、そだねー、まさか陽くんが告白してくるとは思わなかったけど……」
「お、おう……めっちゃ緊張したぜ、心臓飛び出るかと思った……」
「ふふっ、火野も優子も赤くなってた。懐かしいな」
絵菜がそう言うと、火野と高梨さんから「お、おおー……」とちょっと恥ずかしそうな声が聞こえてきた。
「まぁ、仲が良いのはいいことだよ。これからもよろしく」
「おぅ、こちらこそよろしく。また遊ぼうぜ」
「こちらこそよろしくー、2年生も楽しくなりそうだなー」
「うん、私もよろしく。学校が楽しくなった。また遊びたいな」
しばらくみんなで話した後、『おやすみ』と言い合って通話を切った。正確にはまだ1年も経っていないのに、こんなに懐かしい気持ちになるなんて。僕は色々なことを思い出しながら寝ることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます