第93話「ホワイトデー」
1年生最後のテストが終わってしばらく経つ。今日は3月14日。そう、ホワイトデーだ。
バレンタインデーで女の子からチョコをもらった者は、この日にお返しをしなければならない。よく考えてみるとすごいシステムだなと思う。世の中の噂によるとホワイトデーでのお返しは何倍かにしないといけないとか。さすがにそれを守っていると破産してしまうので、身の丈に合ったものにしようと思った。
僕はお返しを何にしようかと迷ったが、クッキーを作ることにした。昨日は日曜日だったので、材料を買ってきて家で作ったのだ。でもラッピングがよく分からなかったので日向に聞いたら、『私も手伝うー!』とノリノリだった。日向にもあげるつもりだったのになと思ったが、まぁ細かいことはいいだろう。
僕はバレンタインデーに7人の女の子からチョコをもらっていた。どれもおいしくて、ありがたくいただいたのだが、僕がこんなにもらえるなんて夢みたいだった。前までは女の子と話すことも少なかったのにな。
「おーっす、昼飯食いに行くか」
昼休みになり、火野が僕の席にやって来た。火野は僕よりもたくさんチョコをもらっていたような気がするが、お返しは考えているのだろうか。
「ああ、ちょっと待って、女性陣に渡したいものがあるから」
「お? あ、もしかしてホワイトデーってやつか?」
「ああ、持ってきたから渡そうと思って。火野はたくさんもらってたけどお返しちゃんと渡したのか?」
「ああ、みんなに朝渡したぞ。さすがに他のクラスの女の子は分かんねぇから、申し訳ないけどなしになっちまった」
「そっか、たしかに他のクラスの子までは分かんないよな……」
「やっほー、そろそろ学食行く?」
隣の席から高梨さんが話しかけてきた。気がつくと後ろに絵菜も立っていた。
「あ、その前に、二人に渡したいものがあってね……はい、これ。今日はホワイトデーだから」
「おおー、日車くんありがとー! なになに、なんか手作りっぽいけど、もしかして作ったの!?」
「うん、クッキー作ってみたよ。味はそんなに悪くないと思うけど、まぁ食べて」
「へぇー日車くんお菓子まで作れるのかー、いいお嫁さんになるよー」
「い、いや、僕は男だからね?」
僕がぽつりとつぶやくと、みんな笑った。さすがにお嫁さんにはなれないよ。
「はい、絵菜もどうぞ、よかったら食べて」
「あ、ありがと、団吉すごいな、クッキー作れるなんて」
「あはは、結局日向も一緒に作ったんだけどね。僕じゃラッピングとかよく分からなかったから」
「そっか、でもありがと、大事にする……」
「い、いや、早めに食べてね、食べられなくなったらもったいないから……あと、真菜ちゃんにも渡しておいてくれるかな?」
「あ、うん、ありがと、真菜も喜ぶと思う」
「真菜ちゃんにも早く食べるように言っておいて。あ、学食先に行ってていいよ、他の人にも渡してくる」
僕は3人が学食に行くのを見送ると、隣の席の杉崎さんに声をかけた。
「杉崎さん、これ、今日ホワイトデーだから。よかったら食べてくれるかな」
「え! あたしに? サンキュー! 日車さすがだなー忘れてなかったなんて! あれ? なんか手作りっぽいけど?」
「ああ、クッキーを作ってみたよ、味はそこそこだと思うけど」
「マジかー! すごいな日車、いいお嫁さんになるんじゃないかーなんちって」
「い、いや、だから僕は男だからね?」
「あははっ、じゃあお礼にあたしの胸見てもいいぞー、あ、触ってみる? ほれほれ」
「え!? い、いや、そんな見せつけてこないで……って、お返しにさらにお礼ってなんかおかしいような」
「あら? なんか盛り上がってるわね」
ふと声をかけられたので前を見ると、大島さんがニコニコしながら立っていた。
「あ、大島さんいいところに。これ、クッキーなんだけど食べてくれる?」
「え、あ、もしかしてホワイトデーかしら? あ、ありがとう……あれ? もしかして日車くん作ったの?」
「うん、お店のとは違うと思うけど、食べられるはずだから」
「そ、そうなのね、すごいわね、クッキーも作れるなんて……あなた何者なの?」
「え? やだなぁ僕は僕だよ、まぁ、大したことはしてないけどね」
「ふ、ふーん、あ、ありがたくいただいておくわ」
クッキーを受け取った大島さんが、『日車くんからもらっちゃった……ふふふふふ』と、やっぱり高梨さんみたいな雰囲気を出していたような気がする。
「大島ー、日車があたしの胸触りたいんだってー」
「なっ、日車くん見るだけじゃ満足できなくて、ついに犯罪行為までしようとしているの?」
「え!? い、いや、そんなこと言ってないから!」
「たしかに杉崎さんの胸大きいから触ってみたいわね……じゃなくて、に、2年になったら絶対に日車くんにはテスト負けないわよ! 覚悟しておきなさいよ」
「えぇ、まだそのこと言ってるの……あれはたまたまだって」
「たまたまであんなにいい成績が残せるものですか……と、とにかく、絶対に勝つんだからね! 見てておきなさい!」
大島さんは強い口調でそれだけ言うと、『フン!』という感じで自分の席に戻っていった。しかし顔がどうも緩んでいることに気がついてしまった。嬉しいのか、強がりたいのか、よく分からないな。
「なー、日車と大島はライバルなのか?」
「う、うーん、なんというか、一方的にライバル視されてるというか……」
「そっかー、頭いい奴らは大変なんだなー、あたしバカだからさーちょっと羨ましいみたいな?」
「うーん、そんなにいいものじゃないと思うよ、ならない方がいいと思う」
「あははっ、そっかそっか、あ、火野たちどっか行ったみたいだけど、行かなくていいのか?」
「あ、そうだった、ごめん学食行ってくる」
杉崎さんに見送られて僕は学食へと向かう。よし、これで全員に渡せたはず。東城さんの分は日向にお願いしてある。て、テストの順位はどうでもいいとして、みんながクッキーを美味しくいただいてくれるといいなと思った。
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