第91話「入学試験」
週末の金曜日、今日は学校で入学試験が行われるため、僕たちは休みだった。
そういえば、東城さんがうちの高校を受けると言っていた。ついに本番か、頑張ってほしいなと思いRINEを送ってみることにした。
『おはよう、今日試験だね、頑張ってね』
短いけどいいかと思って送ると、すぐに返事が来た。
『おはようございます! ありがとうございます、少し緊張してきました……』
『今日が本番だもんね、緊張するの分かるよ。リラックスしてね、力が発揮できますように』
『はい! あ、高校に行く前に団吉さんの家に寄ってもいいですか? どうしてもお会いしたくて』
『あ、うん、いいよ、直接会ってパワーを送るよ』
『ありがとうございます! 今から行きます!』
え、今から? と思ったが、たしかに家を出てもいいような時間だった。しばらく部屋でのんびりしていると、インターホンが鳴った。僕と日向が出ると東城さんがニコニコして立っていた。
「おはようございます! ついに本番の日になってしまいました……緊張します」
「おはよう、うん、僕も去年ドキドキだったのを覚えてるよ。でも大丈夫、今まで頑張ってきたこと忘れずにね」
「東城さん、おはようございます、頑張ってください! 合格できるように祈っておきます!」
「日向ちゃんありがとう、頑張ります! それで、その、あの……」
なぜか東城さんがもじもじしている。何か言いたいのだろうかと思って待つことにした。
「あの、団吉さん、よかったら私にハグしてもらえませんか……? 真菜ちゃんにした時みたいに」
「え!? い、いや、それは……」
「お願いします、団吉さんのパワーもらったら頑張れそうな気がするんです」
「お兄ちゃん、やってあげなよー、東城さんに頑張ってほしいんでしょ?」
日向がそう言ってツンツンと僕を突いてくる。ま、マジか……。
「じゃ、じゃあ、時間もないから……」
僕は東城さんに近づき、そっと抱きしめる。東城さんからふわっといいにおいがする……って、神様ごめんなさい、もう変態確定です。
東城さんもぎゅっと僕を抱きしめる。やばい、すごく恥ずかしい……。
「ありがとうございます、真菜ちゃんがハグしてほしかったの、分かる気がします……」
「そ、そっか、その、本当に頑張ってね」
「はい! あ、ちょっと寂しいですが行かないと」
「あ、私も学校行かなきゃ! 東城さん途中まで一緒に行きませんか?」
「あ、うん、行こう! では団吉さん、お邪魔しました!」
バタバタと日向が準備をして、二人が一緒に出かけて行った。は、ハグは恥ずかしいものがあるが、それで東城さんが頑張れるのならいいのかなと思った。
* * *
その日、僕はバイトを入れていたので、朝から3時まで頑張った。本当はテスト前なのでやめておきたかったのだが、店長からどうしても今日入ってほしいと言われたので、断れずに入ることにしたのだった。人の頼みを断れないあたり、僕も優しすぎるのかもしれない。
バイトが終わって帰ってからスマホを見ると、絵菜からRINEが来ていた。
『お疲れ様、大変だな』
『ありがとう、断れなくてね。今日は休みだったからいいけど』
『そっか、やっぱり団吉は優しいな』
『そ、そうかな、優しすぎるのもよくないかなぁって思うけど……』
『ううん、そんな団吉が大好きだよ』
大好きと言われて、ついニヤニヤしてしまった。い、いかん、今一人とはいえスマホを見てニヤニヤするのは気持ち悪すぎる。
返事をしようと思ったら、絵菜からさらにRINEが送られてきた。
『あ、今から通話してもいいか?』
何かあったんだろうかと思ったが、まあいいかと思って『うん、いいよ』と送ると、すぐに絵菜からかかってきた。
「も、もしもし」
「もしもし、ごめん急に電話して」
「ううん、大丈夫だよ、どうかした?」
「あ、なんか団吉が誰か女の子と会ってる気がして……その、寂しくなって声が聞きたくなって……」
女の子? 今日は誰とも会ってな――
「あ、そういえば朝、東城さんがうちに来たんだった。試験前にどうしても会いたいからって」
「そ、そっか、うん、別にいいんだ、私が気になっただけだから」
「う、うん……でもよく分かったね、何も言ってなかったのに」
「なんというか、勘かな……あ、私の中にある秘めた力なのかも」
「な、なんか中二みたいなこと言うね……」
そういえば今読んでいる『中二病でも戦っていいですか』でも、ヒロインが秘めた力に目覚めるシーンがあったなと思い出したが、今はどうでもよかった。
「そういや、東城はうちの高校受けてるんだったな」
「うん、そろそろ終わった頃かな、合格すれば後輩になるんだね」
「そうだな、でもこれ以上団吉のこと狙っている人が増えるのも面白くないかも……」
「え!? あ、まぁ、みんな狙ってるというわけでは……」
「ううん、みんな団吉のことが好きなんだ……でも、私の方がずっとずっと好きなんだから……」
「あ、う、うん、僕も、誰よりも絵菜のことが好きだから……」
電話越しに「えへへ……」という声が聞こえる。絵菜も嬉しくなっているのだろうか。でも絵菜を心配させるようなことはしたくないなと思った。
「そういえば、もうすぐ1年生も終わるね。あっという間だったなぁ」
「ああ、あっという間だった……団吉と一緒のクラスでよかった」
「僕も、絵菜と出会えてよかったよ。2年になるとたぶん文系か理系でクラスが分かれることになるよね」
「うん、団吉は理系だろうなって思ったから、私も理系で団吉と一緒のクラスになりたい」
「あ、なるほど、そういう理由だったのか……」
「でも、団吉のおかげで数学が楽しくなってきたというのはほんと。あと生物をやってみたいというのも」
「そっか、それなら理系のクラスでまた一緒になれるといいね。その前に1年生最後のテストがあるけど」
「そうだった……赤点とらないように今から勉強する……」
「うん、僕も勉強しようかな、それじゃあまた」
「うん、またRINE送る。それじゃあありがと」
通話を終了して、ふと絵菜の言葉を思い出す。そうか数学が楽しくなってきたのか、なんだか自分のことのように嬉しくなった。
気を取り直して、夕飯まで勉強することにした。みんな今頃頑張っているはず。僕も負けていられないなと思う。
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