第90話「いつもの」

「団吉ぃ~、さっきのところさっぱり分かんねぇよぉ」


 ある日の昼休み、いつものように4人で昼ご飯を食べていると、火野が力のない声を出した。あれ? 前にも同じようなセリフを聞いた気がする。


「ああ、大西先生怒涛の説明だったな、ちょっとついていくのが大変だった」

「だろー? もうすぐ最後のテストがあるってのに、このままだとヤバいなぁ」

「うーん、あそこは今度のテストにも出そうな気がするな……そしたらまた放課後勉強していくか?」

「おお、頼む、部活はテスト前で休みになるからさ」

「たしかにさっきのとこ難しかったよねぇ、日車くん私にも教えてくれない?」

「うん、いいよ、絵菜はどうする?」

「わ、私も教えてほしい、今度も赤点とらないようにしないと」


 たしかに、1年最後のテストで赤点をとってしまうと課題とか追試とか短い期間で追われそうであまりよくないよなと思った。


「それはいいんだけど、どこで勉強しようか? 席がバラバラだから机をくっつけてというわけにもいかないような」

「放課後だから、残ってる奴も少ないんじゃねぇか? 優子と団吉は隣同士だから、その周りの机を借りるってのはどうだろ?」

「ああ、それもそうだな、周りの人に言っておくか」

「うんうん、私も前後の人に言っておくよー。それにしても数学ってなんであんなに難しいんだろ、私苦手だよーいつも日車くんに聞いてるもん。日車くんが隣でよかったよー」

「あはは、たしかにだんだん難しくなってきたね……あ、2年になったら文系か理系に分かれることになると思うけど、みんな考えてる?」

「うーん、俺は文系かなぁ、最近体育の先生になるのいいなって思っててさ、部活の顧問になったりして。文系でなれるのか分かんねぇけど」

「おーなるほど、うん、火野ならイケメンで人気のある先生になれるんじゃないかな」


 火野から将来の話が聞けるとは思わなかった。たしかに運動が好きな火野に体育の先生はぴったりのような気がする。


「私も文系かなぁ、数学についていけないと思うので。まぁ、将来はまだ分かんないけどね」

「そっか、まぁこれからやりたいものが見つかると思うよ。絵菜はどう?」

「私は理系かな、団吉に教えてもらって数学も嫌いじゃなくなってきたし、生物やってみたいなって思うし」

「なるほど、たしか2年になったら理系科目も選べたね。うん、いいんじゃないかな」

「団吉はどうなんだ? やっぱ理系か?」

「そうだなぁ、数学極めるにはやっぱり理系かなって思ってるよ。より高みを目指して」

「おお、さすが団吉、それ以上すごくなったら俺らが話しかけてはいけない神になってしまうんじゃねぇか」

「そだね、おお日車神よ~数学をもっと簡単にしてください~」

「な、なにそれ……僕は神でもなんでもないよ、一般人です」


 前回のテストが5位だったから、それより上に行けるだろうか。本当に上位はとんでもない奴が集まっているからなぁと思ったが、頑張ってみようと思った。


「団吉、神になるのか? まぁ私の中ではもう神だけど……」

「い、いや、絵菜、神のことは忘れようか……」



 * * *



 その日の放課後、僕と高梨さんの周りの机を借りて、勉強をしていくことにした。周りの人には一応聞いて承諾をもらっていた。


「なんか、テスト前にこうやって勉強するのも恒例になったな」

「そだね、最初は面白い組み合わせだなぁって思ってたけど、これが当たり前になったよねー」

「そうだね、それじゃあやろっか。まずは午前中のところの問題から……」

「日車お疲れー、お? 勉強してるのか?」


 ポンポンと肩を叩かれたので振り向くと、杉崎さんが立っていた。


「あ、うん、テストも近いからみんなで勉強しようと思って」

「そっかー、もうすぐテストあるもんなぁ、あ、あたしにも教えてくれないかー?」

「あ、うん、いいよ、分からないところあったら教えてあげる」

「サンキュー、あ、数学かーマジで意味分かんないよねあれ、あたし苦手だよー」

「杉崎さんは前回のテスト何位くらいだったの?」

「ふっふっふ、聞いて驚くなよー202位だよー、あたしバカだからさー赤点もとっちゃったみたいな?」

「お、おお、俺より勉強できない人がついに現れた……!」


 なぜか火野が嬉しそうな目で杉崎さんを見ていた。嬉しくなるのも違う気がするが。


「あははっ、火野、あたしのバカさをなめるなよー、赤点とると課題とかマジウザくてさー今回は避けたいみたいな?」

「あ、やっぱり課題とかあるんだね、たしかにめんどくさそう」

「そうなんだよーそれもヤバかったら追試もあるんだよー、マジやってられない。日車助けてよー」

「ま、まぁ一緒に頑張って赤点は回避しようか」

「あら? みんなで勉強?」

「ひ、日車先生のいつもの講習かな?」


 また声をかけられたので振り向くと、大島さんと木下くんが立っていた。


「あ、うん、みんな数学が分からないみたいだから。よかったら二人も勉強していく? みんなに教えてもらえるとありがたいけど」

「そうなのね、ま、まぁ、日車くんのお願いならば聞いてあげないこともないわね」

「う、うん、僕が教えてあげられるのは少しだけど、参加しようかな」

「おー大人数になったね。そうだ、黒板も使ってさー、日車くんと大島さんが解説しながら進めるのはどう?」

「そうだな、同じ問題をみんなで進めようぜ」


 みんなで数学の難しい問題を進めていく。途中杉崎さんと大島さんが僕にツンツンしたりして距離が近くて、絵菜が思いっきり面白くなさそうな顔をしていた。あ、あとで謝っておかないと……。

 しかし、やはり赤点をとると課題とか追試とかあるのか。今回もみんながなんとか赤点を回避できるといいなと思った。

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