第89話「バレンタインデー」

 次の日、バレンタインデーの日となった。

 特別な日なのかもしれないが、月曜日なので普通に学校はあるので、いつも通り学校へ行く。クラスの中でもなんとなく男子がそわそわしているというか、普段とは違う雰囲気があるような気がする。


「おーっす、おはよ」


 火野が登校してきて僕の席に来る……のだが、手に何か持っていた。


「おはよう、ん? 火野の手にあるそれは……」

「ああ、さっき他のクラスの女子からもらったんだ。そういえば今日はバレンタインデーだったな」


 火野がケラケラと笑いながら言う。くそぅ、爽やかイケメンは彼女がいても関係ないのか……本当に羨ましい。


「さすが火野……僕は昨日大変だったよ、女子トークについていけなくて」

「ああ、優子から聞いたよ、みんなでチョコ作ってたんだって? 団吉もモテるようになったじゃねぇか」

「う、うーん、モテるって言えるのかな……」

「あはは、まぁ沢井がいればいいやって感じかもしれねぇけど、俺は嬉しいよ、団吉のこと好きな人が増えてくれて」

「お、おはよ」

「やっほー、おはよー、なになに、何の話してたの?」


 高梨さんと絵菜が登校してきて、僕の席の周りに集まった。


「あ、おはよう二人とも」

「おっす、おはよ、団吉がモテるようになって嬉しいなって話だよ」

「あ、もしかして昨日のことかな、日車くん昨日はありがとねー、楽しかったー」

「いえいえ、日向も楽しそうにしてたからよかったよ」

「うんうん、チョコもたくさんできたし……って、陽くんその手に持ってるのは……」

「あ! ああ、さっき他のクラスの女子からもらって……あはは」

「なぬー!? くそぅ先越された……陽くんモテるからなぁ、ちょっと悔しいなぁ」

「え、お、俺はその、優子が好きだから……」

「あ、ありがとー、私も陽くんが好き……」

「はいはい、朝からお熱い二人だね」


 僕がからかうと、火野と高梨さんが顔を赤くして俯いた。


「団吉、昨日おとといとありがと、楽しかった」

「あ、いえいえ、僕も楽しかった。え、絵菜の可愛い寝顔も見れたし……」

「だ、団吉も寝顔が可愛かった……しばらく見ちゃった」

「な、なんだお前ら……そうか、俺の知らない遠い世界へ行ってしまったんだな……」

「なんだそれ……お、おとといから絵菜と真菜ちゃんがうちに泊まってたんだよ」

「それ、昨日聞いていいなーって思ってたよー、あ、そうそう、今日の昼休みは男性陣集合ね!」

「しゅ、集合? なんだなんだ?」

「ふっふっふー、今日は特別に渡したいものがあるからねー忘れないように!」

「「は、はい……」」


 ま、まぁ、だいたいの予想はつくのだが、とりあえずここは従っておかないといけないと思った僕と火野だった。



 * * *



 昼休み、学食で昼ご飯を食べた後、僕と火野と木下くん、さらに中川くんまで僕の席の周りに集められた。


「よ、呼ばれて来てみたけど、なにが起きるんだい?」

「ひ、日車くん、これは何事……?」

「さ、さぁ……って、まぁだいたいは予想がつくけど、とりあえず従っておいた方がよさそうだよ」

「ふっふっふー、ではこれからバレンタインデーということで、私と絵菜からチョコを配りまーす!」


 高梨さんが「じゃーん」と言いながらチョコを取り出す。ま、まぁそうですよね。


「まずは私からねー、はい、4人ともどうぞー」

「お、おう、サンキュー」

「あ、ありがとう」

「あ、なるほど、ありがとう高梨さん!」

「はひ!? ぼ、僕にも!? あ、ありがとう」

「ふっふっふ、私の手作りだからねー、ありがたーく食べるようにー」

「「「「は、はい……」」」」


 昨日一生懸命作っていたチョコをいただいてしまった。初めて日向以外の女の子からチョコをもらうのか。


「次は絵菜だねー、ほらほら、恥ずかしがらないでー」

「あ、ああ、その……4人に……」


 続けて絵菜から4人にチョコが渡される。恥ずかしいのか絵菜はあまり顔を見ていなかった。


「お、おう、沢井もサンキュー」

「あ、ありがとう」

「ああ、ありがとう沢井さん!」

「はひ!? あ、ありがとう」

「わ、私も手作りだから、その、あの……食べて」


 絵菜が顔を赤くして俯いてしまった。それもまた可愛いなと思った。


「そしてそして! これは日向ちゃんと真菜ちゃんからだよー、預かってきたんだー」


 そう言って高梨さんが日向と真菜ちゃんが作ったチョコを4人に手渡した。


「そっか、今日はバレンタインデーか、やけに色々な人がくれるなと思っていたよ!」

「え、中川くん、気づいてなかったのか……」

「ぼ、僕ももらってしまった……よ、よかったのだろうか」

「うん、お返しが大変かもしれないけど、木下くんもありがたくいただこうよ」


 ん? お返しが大変? 実は今日は会えないかもしれないということで、東城さんからは昨日もらっていた。よく考えると、これで5人からもらったことになるのか。や、やばい、お返しどうしよう……。


「はい、私と絵菜からは以上でーす、解散!」

「「「「は、はい……」」」」


 な、なんか事務的だなと思ったが、言うと怒られそうなのでやめておいた。


「おー、日車モテモテだなぁ」


 隣の席から杉崎さんが話しかけてきた。


「あ、いや、そうなのかなぁ……」

「あははっ、モテるのはいいことじゃん。あ、あたしもチョコ用意してきたんだー、日車もらってくれよー」


 そう言って杉崎さんがチョコを渡してきた。え、杉崎さんもくれるの?


「え、あ、ありがとう」

「あははっ、日車固いぞ~、あ、チョコじゃなくて胸の方がよかったか?」

「え!? い、いや、それはない……」

「あら、日車くんたくさんチョコもらったのね」


 また話しかけられたので前を見ると、大島さんが立っていた。


「あ、う、うん、なぜかこんなことになってしまったようで……」

「ふーん、わ、私もチョコ用意してきたのよ、日車くんにあげる……」


 そう言って大島さんがチョコを渡してきた。え、大島さんも?


「え、あ、ありがとう」

「ま、まぁ、手作りはできなかったけど、美味しいって評判のとこのだから、味わって食べてね」

「う、うん……なんか、大島さんも女子なんだなって思ったよ」

「な、なによ失礼ね、私だって男の子にチョコくらいあげるわよ」

「大島ー、日車がチョコよりあたしの胸がいいって言う~」

「なっ、日車くんそんな目で見てたの? やっぱりチョコ返してもらおうかしら」

「え!? い、いや、そんなこと言ってないから!」


 この後杉崎さんに頬をツンツンされまくり、それを見ていた絵菜がお怒りモードになってしまったのは言うまでもない。

 それにしても、まさかこんなにチョコをもらえるとは思わなかった。火野の言うとおり、僕もモテ期がついに来てしまったのだろうか……い、いや、それはないよな。

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