第88話「チョコ作り」

 次の日の朝、僕が目を覚ますと、横にいたはずの絵菜がいなかった。

 あれ? と思って起き上がると、ベッドに寄りかかるように座っている絵菜がいた。


「あ、おはよ、起きた?」

「お、おはよう、うん、いつの間にか寝てて、絵菜が起きたのも気が付かなかった」

「ふふっ、団吉の寝顔が見れた……可愛い」

「は、恥ずかしいな……あ、絵菜の寝顔も見たよ、可愛かった」

「う、うん、私いつの間にか寝ちゃってた……寝言言ってなかったかな」

「大丈夫だよ、ぐっすり寝てたみたい。よかった眠れなかったらどうしようかと思ったよ」


 絵菜の隣に行くと、絵菜がきゅっと抱きついてきた。僕も抱きしめるが、そういえばパジャマ姿だった。着替えないといけないのだが、一緒に着替えるわけにもいかないので、先に絵菜に着替えてもらおうと思った。


「あ、絵菜、ここで着替えていいよ、僕部屋の外にいるから」

「そ、そっか、そうだな、でも団吉になら見られても……いいよ?」

「え!? い、いや、さすがにまずいのでやめておくよ……」

「そっか、じゃあ向こうを向くだけでいいから」


 僕が向こうを向く前に絵菜が脱ごうとするので、慌てて僕は部屋の入口の方に移動して見ないようにした。うう、刺激が強すぎる……日向の着替えなら見たことがあるけど、絵菜は破壊力が違った。


「着替えたよ、大丈夫」

「あ、うん、分かった、じゃあ今度は僕が……」

「団吉が着替えるところ見てようかな……」

「え!? だ、ダメだよ、向こう向いてて」


 絵菜がこっちを見ていないことを確認してから、僕も着替える。何がとは言わないけど、男は朝が大変なんだから見られるわけにはいかなかった。

 二人でリビングに行くと、みんな起きていて朝食の準備をしていた。


「おはよう、二人ともよく眠れた?」

「おはようございます、はい、ぐっすり眠れたみたい……です」

「お兄ちゃん、絵菜さんおはよー、お兄ちゃん襲ったりしてないでしょうね?」

「お兄様、お姉ちゃんおはよう、お兄様が襲ったんじゃないかと思ってドキドキでした」

「お、おはよう、そんなことしてないから大丈夫」


 実は一緒にくっついて寝てたとか口がさけても言えない。

 朝食は自分たちでパンを焼いたりすることが多いのだが、今日は母さんが和食を作っていた。ほんと頑張るなぁ。


「い、いただきます……あ、美味しい」

「ほんとだ、お味噌汁も鮭も美味しいです」

「ふふふ、よかった~、美味しいって言ってもらえて嬉しいわ」

「はいはい! 今日はみんなでチョコ作りですが、高梨さんと東城さんも呼ぶことにしました!」

「え、高梨さんはともかく、東城さんは受験勉強で忙しいんじゃないか?」

「さっき聞いたら、『勉強の息抜きに行きたいです!』って言ってたよ、大丈夫だよー」


 ほ、ほんとに大丈夫かな……と少し心配になった僕だった。



 * * *



 朝食を食べ終わって、しばらくみんなで談笑していると、インターホンが鳴った。出ると高梨さんと東城さんが来ていた。


「いらっしゃい……って、二人で来たの?」

「やっほー、そこで東城さんとバッタリ会ってねー」

「そうなんです、こんにちは! 今日はありがとうございます、呼んでもらえて嬉しいです!」


 二人をリビングに案内する。いつものように高梨さんは日向と真菜ちゃんに抱きついていた。


「そうだ、よく考えたら東城さんも年下だ……ということは私のもの……ふふふふふ」

「た、高梨さん落ち着いて……東城さんごめんね、勉強で忙しいよね、大丈夫?」

「はい、来週試験ですが、もうあとは体調を整えることかなって思うので! あ、私団吉さんたちと同じ高校受けるつもりなんです」

「あ、そうなんだね、そしたら後輩になるかもしれないのか」

「はい! 絶対に合格して、団吉さんと毎日会うのを楽しみにしています!」

「いいなー東城さん、私もお兄ちゃんと同じ高校受けようかなぁ」

「青桜高校は人気だよね、日向ちゃん、頑張ろうね!」

「うん! よーし、まずはチョコ作り頑張ろーっと!」


 女性陣がみんなで「おー!」と言っている。高梨さんと東城さんが増えたことで、ますます僕は肩身が狭くなったような気がする。火野も呼べばよかったかな……。


「あ、お兄ちゃんはここから先はキッチンに立入禁止ね!」

「えぇ!? なんでだよ……」

「男子はダメだよーここは女子の秘密の楽園なのだ!」

「なんだそれ……わ、分かったよ」


 突然立入禁止となってしまった。仕方がないのでリビングでのんびりとテレビを見ることにする。


「ふふふ、日向も楽しそうねー、団吉も日向も素敵なお友達が増えたのね」

「あ、うん、まぁ学校が楽しくなったのは間違いないかな、みんなのおかげだと思う」

「日向ちゃん、ここにこれ混ぜればいいの?」

「うん、こうやってこうやって……あれ? これでいいんだっけ?」

「大丈夫大丈夫、なんとかなるでしょー、それにしても日車くんって、家では……で、……なの?」

「はい、……で、……です!」

「あはは、そーなんだね、なんか学校と違うなぁ、学校だと……で、……で、ねー絵菜」

「ああ、そんな感じだな」

「まあまあ、お兄様ってそんな感じなんですね、でもイメージ通りかも」


 キャッキャッと女子たちが盛り上がる声が聞こえてくる。くそ、肝心なところが聞こえなくて気になってしまう。これが女子の秘密の話なのだろうか。

 しばらくチョコレートと格闘していた5人だったが、ある程度できてきたみたいだ。


「お兄ちゃん、はいあーん」

「え? な、なんだ?」

「ちょこっとだけチョコレートが余ったから、おすそわけだよー、あーんして」

「お、おう……あ、美味しいな」

「ふふふ、作ったものは冷やしてあるから、出来上がりを楽しみにしててね」

「あっ、団吉さんにあーんしてた、いいなぁ……」

「私もお兄様に食べさせてあげたかった……」

「え!? う、うん、嬉しいような、恥ずかしいような……あはは」


 うう、女子5人に押されっぱなしだ。やっぱり火野を呼ぶべきだった。一人では荷が重すぎる……。


「絵菜もチョコ作れた?」

「うん、初めてだったけど、楽しかった。団吉が喜んでくれるといいなって思って」

「う、うん、ありがとう……日向以外の子からもらったことないから、ちょっと恥ずかしいな」


 その後、みんなでゲームをしたり談笑したりして盛り上がっていた。みんな楽しそうでよかった。

 それにしても、東城さんはうちの高校を受けるつもりなのか。そういえば来週試験の日は僕たちは休みとなっている。東城さんが無事合格するように祈るばかりだ。

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