第87話「おやすみ」
「よし、それじゃあじゃんけんでお風呂の順番決めましょう!」
日向の一言でじゃんけんが始まる。結果、絵菜、僕、真菜ちゃん、日向の順番でお風呂に入ることになった。
「お風呂湧いてるから、絵菜ちゃんが最初なのかな、入っちゃって。日向、タオルとか色々教えてあげて」
「はーい、お兄ちゃん、覗いちゃダメだからね!」
「なっ!? あ、当たり前だろ、覗かないよ……」
さっさとお風呂に行くように二人を追い出す。覗いてしまったら変態確定ではないか。
「お兄様は、やっぱりお姉ちゃんと一緒にお風呂に入りたいのですか?」
「え!? い、いや、それはないから大丈夫だよ、うん、それはない……」
「そうなんですか? 男の人はみんな一緒にお風呂に入りたいのだと思っていました」
「い、いや、それはさすがにないんじゃないかな……あ、お、男として興味がないというわけではなくてね……って、僕は何を言っているんだろう」
「そうですか、その、私はお兄様になら見られても大丈夫ですよ……?」
「え!? だ、ダメだよ真菜ちゃん、あ、音楽番組にJEWELS出てるね……あはは」
「あー、お兄ちゃん今変なこと考えてたでしょ? いけないんだー」
いつの間にか戻ってきた日向に頬をツンツンと突かれる。な、なんだろう、この場にいることがすごく恥ずかしくなってきた……。
しばらくして、絵菜がお風呂から上がってきた。金色の綺麗な髪が少しだけしっとりしていて、パジャマ姿の絵菜が可愛くてドキドキしてしまった。
「次お兄ちゃんだよ、あ、絵菜さんに見惚れてる~」
「なっ!? い、いや、お風呂入ってくる……」
なぜ日向にバレたのだろうか、顔に出ていたのだろうかと思いながらお風呂に入る。しかし僕はとんでもないことに気がついてしまう。
(さ、さっきまで絵菜がここにいたんだよな……シャンプーの香りとかはうちのだけど、え、絵菜と同じお風呂に入ってるのか……)
湯船に浸かりながら思いっきり恥ずかしくなってしまう。うう、僕も男なんだなと思った瞬間だった。
* * *
全員お風呂から上がり、またしばらくみんなでテレビを見ながら談笑した。しかし女の子3人の女子トークについていくのが大変で、世の中の男の子はどうやってこんな場面を乗り越えているのか気になってしまった。あ、普通はこんな経験をしないものなのかな……火野に聞いても笑われて終わりそうだな。
「うーん、そろそろテレビもつまんなくなってきたね……部屋で寝る準備しよっか」
「ああ、そうだな、でも絵菜と真菜ちゃんはどこで寝るんだ?」
「え? 私の部屋で真菜ちゃんが寝て、お兄ちゃんの部屋で絵菜さんが寝るに決まってるじゃん」
は? 決まってるじゃんではないのだよ。お兄ちゃんの部屋で絵菜さんが寝る?
「え、いや待て待て、さすがにそれは……」
「だって他に寝るところないから、そうするしかないんだよ。私は真菜ちゃんともう少し部屋で話そうかなって!」
「うん、なんか学校のお泊まり会みたいでワクワクするね!」
日向と真菜ちゃんが顔を合わせて「ねー」と言っている。え、マジでそうなっちゃうの?
「絵菜さんのお布団はもうお兄ちゃんの部屋に運んであるからね、あ、襲っちゃダメだからね!」
「なっ!? そ、そんなことするわけないだろ……」
「お兄ちゃんも男だからね、絵菜さん、気をつけてくださいねー、じゃあおやすみなさーい」
「いつかお兄様と一緒に寝れるといいなと思いながら……お兄様、お姉ちゃん、お母さん、おやすみなさい」
そう言って二人は日向の部屋に入っていった。僕と絵菜が残される。
「じゃ、じゃあ、僕たちも行こっか……」
「うん……」
「団吉、襲っちゃダメよ、優しくね~おやすみ」
「か、母さんまで何言ってるの……」
とりあえず僕たちも部屋に行く。日向が言っていたとおり布団が置かれていた。い、いつの間に……。
「あ、どっちで寝ようか、なんか僕がベッドで絵菜が床ってのもあれだな……絵菜がベッドで寝てくれる?」
「う、うん、私はどっちでも……それよりも」
絵菜はそう言って、僕にきゅっと抱きついてきた。
「え、絵菜……?」
「最近あまりくっつけなかったから、寂しくて……でも嬉しい、団吉と一緒にいれるなんて」
「そ、そうだね、僕もなんか不思議な感じがする……絵菜と寝る時まで一緒だなんて」
そっと絵菜の背中に手を回す。ぎゅっと抱きしめ合った後、お互いの顔を見る。パジャマ姿の絵菜が妙に色っぽくて僕はドキドキが止まらない。頭がおかしくなってしまいそうだ。
「一緒に暮らしたら、毎日こんな感じなのかな」
「うん、そうかもしれないね」
「なぁ、団吉もベッドで一緒に寝てくれないか?」
「え!? い、いや、それは……」
「お願い、団吉のそばで寝たいんだ」
「そ、そっか、じゃあ一緒に……」
二人でベッドに入り、向き合うような体勢になる。当たり前だがシングルベッドなので、体があちこち絵菜に触れてしまう。や、やばすぎる、危うく胸が見えるところだった。顔も体もかつてないほど熱くなり、ドキドキが全然おさまらない。
「ふふっ、団吉のにおいがする……」
「あ、うん、僕がいつも寝てるからね……え?」
突然、僕の唇に柔らかいものが当たった。絵菜がキスをしてきたということを理解するのに数秒かかった。
「え、絵菜……?」
「ふふっ、びっくりした?」
「う、うん、どうしよう、ドキドキしてやばい……」
「私もドキドキする……団吉のぬくもり感じて、団吉のそばで寝れるなんて……もうおかしくな……り……」
絵菜が急に話さなくなったなと思ったら、すうすうと小さな寝息が聞こえてきた。もしかしたら眠かったのかもしれない。
(あ、ね、寝たのか……まずいな、僕はドキドキしすぎて全然眠くならない……)
僕は眠くなるまで、そっと絵菜の金色の髪をなでてあげた。寝ているところを見れるなんて、僕はなんて幸せ者なのだろう。しばらく絵菜の可愛い寝顔を見つめていた。
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