第80話「試合」
日曜日。火野の試合の日となった。
僕と日向と絵菜と真菜ちゃんは一緒に駅前へ向かう。高梨さんと駅前で合流する予定となっている。
「お兄様、私サッカーの試合って見るの初めてでドキドキしてしまいます」
「うん、僕も初めてだから楽しみだよ」
駅前に着くと、先に着いていた高梨さんがこちらに気づいて手を振っていた。
「やっほー、陽くんは準備やミーティングがあるから先に行くって。私たちも行こっか」
「そっか、じゃあ行こうか、もうすぐ電車も来るみたいだし」
隣町の陸上競技場は駅前から5駅隣にある。大きな試合はよくここで行われているみたいだ。
電車の中で高梨さんから聞いたのだが、今日の試合はこのあたりの高校6校が集まって行われる大会のようなものらしい。昨日今日と来週の日曜日も試合が行われるとのこと。高梨さんは昨日も観に行ったそうだ。
みんなで話をしているうちに最寄り駅に着いた。駅から10分くらい歩いたところに陸上競技場はある。中学高校と部活に縁のない僕はここに来るのが初めてだった。
「けっこう人いるねー。あのへんに座ろっか」
僕たちは2階の観客席の真ん中あたりに座った。たしかにそこそこ人が多い。まぁ6校が集まるわけだから関係者や観客もそれなりにいるよなと思った。
その時、グラウンドに選手が出てきた。どうやらうちの高校のようだ。
「あっ、みんな出てきたね、火野はどこにいるかな……」
「陽くんは11番で、中川くんが12番だったよー。二人とも昨日も出てたよ。2年の先輩もいるのに試合に出てるってすごいねぇ」
「お兄ちゃん、火野さんはサッカー上手なの?」
「うん、中学の頃からよくレギュラーで試合に出てたみたいだよ。3年の時の大会で足を怪我して、すごく悔しそうにしてたのは覚えてるなぁ」
「ほんと、足が治ってまたサッカーできるようになってよかったねぇ……」
高梨さんがニコニコしながらうんうんと頷いている。なるほど、恋する乙女とはこういうことか。
「キャーッ! 中川くーん! 火野くーん!」
観客席の前の方にいた女子たちが黄色い歓声を上げる。どうやらうちの高校の女子みたいだ。火野と中川くんが手を上げるのが見えた。イケメンってほんと羨ましい。
「あっ、あれうちの女子だよね、くそぅ悔しいなぁ……そうだ」
高梨さんがそう言ってスッと立ち上がった。何をするんだろうと思ったら、
「陽くーーん! 中川くーーん! 頑張ってーーーー!!」
と、大きな声を出した。火野と中川くんにも聞こえたようでこちらを見て右手を大きく上げた。さすがに僕や絵菜は大きな声を出せないので手を振って応援した。うん、火野も中川くんも活躍して勝てるといいな。
* * *
試合は40分ハーフの80分で行われる。今日はうちの高校は午前に1試合、午後に1試合あるそうだ。
ポジションを見てみると火野はMF(ミッドフィルダー)、中川くんはFW(フォワード)のようだ。たしかに素人目線だけど、球技大会を見てもパスが上手い火野と突破力のある中川くんにぴったりのポジションなんだろうなと思う。
試合は一進一退の攻防が続く。火野が右サイドから上がって中央にクロスを上げ、中川くんがそれに反応してヘディングをするも相手キーパーに阻まれてしまった。逆にパスカットからのカウンターで危ない場面もあったが、みんなでなんとか失点は阻止した。
「な、なんだかハラハラするな……でも面白い」
「あ、絵菜もそう思った? 僕もいつ点が入るのかとドキドキしっぱなしだよ」
試合が動いたのは後半10分だった。火野がパスカットをして先輩にすぐパスを出し、その先輩が中央から上がって前線に走った中川くんにパス。中川くんが一人をかわして右足でシュート。ボールはゴール左隅に決まった。
「おお! 中川くんすごい!」
「ほんとだねー、サッカーってすごいね、一瞬のスキを見逃さないもんだねぇ」
「キャーッ! 中川くーーん!」
女子たちの黄色い歓声が上がる。くそぅイケメンでサッカーが上手いって反則だろ……。
試合はその1点を守りきったうちの高校の勝利となった。勝利を喜ぶみんなの姿が見える。
「はー、ドキドキしたけど勝ててよかったねぇ」
「うん、よかった、サッカーってこんなに面白いんだなぁ」
「お兄ちゃん、昼休みみたいだけど火野さんに会えるかな?」
「あ、どうだろ、下に行けば会えるかもしれないな」
「そうそう、私お昼ご飯持ってきたから、陽くんも一緒にみんなで食べよー」
高梨さんがそう言ってスマホで火野に連絡をしている。なるほど、大きな荷物を持っているなと思っていたけど昼ご飯だったのか。
観客席を離れて1階へ行く。ちょうど火野と中川くんが出てきてこちらに気づいた。
「おーっす、みんな来てくれてありがとな」
「いやいや、サッカーって見てても面白いんだな、中川くんもナイスシュートだったよ」
「ははは、日車くんありがとう! みんなに応援してもらっていつも以上の力が出せた気がするよ」
「こんにちは、はじめまして、日車日向といいます」
「はじめまして、沢井真菜と申します。姉がお世話になっております」
「おお、こちらは日車くんと沢井さんの妹さんかい? はじめまして、中川です。可愛い妹さんがいるんだな」
「そそ、中川くんとっちゃだめだよー、二人は私のものなんだから……じゅるり」
「た、高梨さん心の声が……火野はこれから時間あるのか?」
「ああ、昼休みは自由だから大丈夫だ、優子に聞いてみんなでご飯食べるとかなんとか」
「そうだ、中川くんも一緒にどう? 私お昼ご飯作ってきたんだー。みんなで食べよー」
「えっ、いいのかな? お邪魔になりそうだが……」
「いいのいいの、みんなで食べたほうが楽しいじゃん? たくさん作ってきたから大丈夫だよー」
「そっか、じゃあお言葉に甘えてご一緒させてもらおうかな」
日向と真菜ちゃんがサッカーに興味を持ったらしく、火野と中川くんに色々聞いていた。素人の質問にも嫌な顔は全くすることなく、笑顔で答える二人が眩しい……くそぅイケメンってなんでこんなに絵になるのだろうか。
その後、午後の試合も観た。その試合もうちの高校は2対1で勝つことができた。けっこう強い方なのだろうか。これからも火野と中川くんがチームを引っ張る存在になってくれると嬉しい。
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