第76話「初詣」

 お正月。新年の始まり。

 昼におせちをいただいた。今年は母さんと日向が頑張って作っていた。小さい頃はおせちがあまり好きになれなかったが、だんだんと美味しいと感じるようになってきた。みんなそんなものなのかもしれない。

 日向は「かずのこー、大好きー」と言いながらパクパクとたくさん食べていた。小さい頃からかずのこが大好きな日向は、「なぜお正月以外であまり食べないんだろう?」と毎年口にする。たしかにお正月以外でかずのこってあまり見かけないな。


「か、かずのこ食べ過ぎた……お兄ちゃん、絵菜さんと真菜ちゃん来るの?」

「おいおい大丈夫か……うん、もうすぐ来ると思うけど」


 ソファーにコロンと横になってお腹をさすっている日向。おいおい本当に大丈夫か?

 今日はこれから4人で初詣に行くことになっている。『今から行く』と絵菜からRINEが来てから20分くらい経つので、もうすぐかな……と思っていたら、インターホンが鳴った。


「あ、あけましておめでとう」

「お兄様、あけましておめでとうございます! 今年もよろしくお願いします」


 二人が新年の挨拶をする。この二人姉妹だけど話し方は全然似てないよなぁ。


「あけましておめでとう、ちょっと日向が苦しそうにしているけど、それじゃあ行ってみようか」

「え、どうかした?」

「おせちでかずのこ食べ過ぎてね……まぁ、自業自得なんだけど」

「じゃーん! 元気になりました! 絵菜さん、真菜ちゃん、あけましておめでとうございます!」


 そう言って日向がペコリとお辞儀をする。ほ、本当かな……。


「ま、まぁいいや、それじゃあ行こうか」


 4人で家を出て駅前まで歩く。目的の神社は6駅隣にある。学問の神様が祀られていることで有名な神社で、この時期は受験生が多く訪れる。そういえば僕も去年高校受験だったので、その神社に合格祈願に行ったことを思い出した。


「そういえば去年その神社行った……どうしても高校には合格したかったので」

「あ、同じだね、僕も行ったよ。あとは神頼みかなって思って」

「そっか、団吉のように勉強ができるといいんだけどな……」

「いやいや、絵菜もテストでは火野や高梨さんよりもできてるし、頑張ってるよ……って、そんなこと言ったらあの二人に失礼だな」

「ふふふ、今年も団吉は優しいな」


 絵菜がクスクス笑いながら僕を見て言う。そ、そうかな? あまり自覚はないのだが。


「ああー、今年は受験生かぁ……遊びたくても遊べないんだろうなぁ」

「日向ちゃん、メリハリが大事なんじゃない? 勉強も遊びもどっちも楽しめばいいんだよ」

「ああ、そうだね! それに勉強ならお兄ちゃんいるし何とかなりそうな気がしてきた!」


 後ろで日向と真菜ちゃんが何やら盛り上がっている。おいおい、頼ってもいいけど頑張るのは君たちだからね?

 駅前に着くと、ちょうど電車が来て乗ることができた。お正月から駅前も電車の中も人が多い。もしかしたら初詣やセールに行く人たちなのかもしれないなと思った。

 しばらく電車に揺られ、目的の駅に着く。その駅から歩いて10分くらいのところに神社がある。途中に出店が並んでいて、去年の花火大会を少し思い出した。


「あっ、お兄ちゃん! 美味しそうなイカ焼きがある!」

「ええ……さっき苦しそうにしてたの忘れたのか?」

「もうすっかり元気だもんね! ねぇ、お兄ちゃん……買って?」


 日向が僕の右腕に絡みながら甘えた声を出す。こ、こいつ、今年もこうやって甘えてくるつもりなのか……。


「わ、分かったから、まずはお参りしてからな」

「やったー! お兄ちゃん大好き!」


 日向と僕のやりとりを見て、絵菜と真菜ちゃんがクスクスと笑っている。相変わらずだなと思われてるんだろうな……しかし日向はいつまでこんなに兄にべったりするつもりなのだろうか。日向もそろそろ他の男子に恋心を……あれ? ちょっとだけ寂しいと思った自分がいるぞ?

 手水で手と口を清めて、社殿に行く。そういえばネットで『お賽銭に一円玉はご遠慮ください』というようなニュースを見たけど、本当なのだろうか。

 みんなでお賽銭を入れて、お参りする。せっかくなので願い事を考えてみる。そうだな、ここは学問の神様だから学校の成績が三学期もよいものでありますように、そして、絵菜やみんなと仲良くできますように。


「お兄様、どんな願い事をお願いしたのですか?」

「え!? それ言うの? まぁ、学校の成績が落ちないようにと、あとみんなと仲良くできるように、って。真菜ちゃんは?」

「私は、みなさんと仲良くできますように、そしてお兄様にまたハグしてもらえますように、ってお願いしました」

「え!? そ、そうだね、たぶん叶うと思うよ……あはは。日向は?」

「私は、美味しいものがたくさん食べられますように! ってお願いしたよ」

「おいおい、また食い物かよ……絵菜は?」

「私は、だ、団吉と仲良くずっと一緒にいられますように……って」

「あ、そ、そうだね、それも叶うから大丈夫……うん」


 顔が熱くなっていると、日向と真菜ちゃんがニヤニヤしながら僕と絵菜を見ていた。うう、恥ずかしい……。


「お兄ちゃん、おみくじ引こうよ!」


 みんなでおみくじを引いてみることにした。どれどれ……あ、僕は中吉だった。学問は『目標を定め全力を尽くせ』、恋愛は『今の人が最上、迷うな』と書いてある。なるほど、今の人が最上……か。


「私も中吉だった。恋愛に『愛情を告げ結婚せよ』って書いてあった……」

「そ、そうなんだね、け、けけけ結婚……か」


 二人で顔が赤くなっていると、また日向と真菜ちゃんがニヤニヤしていた。もうやめてくれ……。

 おみくじを結んでから、日向がイカ焼きとうるさいのでみんなで買って食べた。こいつ本当によく食べるよな……太るぞと思ったが、怒られそうなので言うのはやめた。

 楽しい時間はあっという間に過ぎていく。今年もみんなで楽しいことがたくさんできるといいな。

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