第74話「ブレスレット」

 みんなで楽しく過ごしたクリスマスイブの次の日。そう、今日はクリスマスだ。

 僕は絵菜の家に向かうために歩いている。外は寒い。朝から雪がちらちらと降っていた。積もるほどではないが、今年はホワイトクリスマスになったのかと少しだけ嬉しくなった。でも僕は寒いのは苦手なので早く春にならないかなと思っている。

 昨日は楽しくて、ついつい夜までみんなで盛り上がってしまった。遅くなったので火野が高梨さんを、僕が絵菜と真菜ちゃんと東城さんを送って行った。東城さんの家もうちからそんなに遠くなくて、東城さんは「また遊びに行かせてください!」と嬉しそうに言っていた。

 今日は母さんも仕事はお休みで、日向が昨日の話をすると、「いいわねー、私も参加したかったわ」とちょっとだけ羨ましそうにしていた。母さんは昨日クッキーを買って来たらしく、今日絵菜の家に行くことを伝えると、「じゃあ持って行って」と持たせてくれた。このクッキーは僕も知っている。駅前で売っている美味しいやつだ。

 昨日のことを思い出しながら歩いていると、あっという間に絵菜の家の前まで来た。そっとインターホンを押す。すぐに「はい」と声がしたので、「こんにちは、日車です」と言うと、「ああ、団吉くんね、ちょっと待ってねー」と声がした。お母さんだったのか。

 ほんの少しだけ待っていると、玄関が開いた。絵菜と真菜ちゃんとお母さんが三人で出迎えてくれた。


「まあまあ、いらっしゃい、寒かったでしょう。入って入って」

「おじゃまします、すいません突然来たりして」

「いえいえ、昨日は絵菜も真菜もお世話になりました。楽しかったって聞かせてもらいましたよ」

「あ、いえいえ、僕も楽しかったです。友達とクリスマスイブを過ごすなんて初めてで……あ、これクッキーです。よかったらみなさんで食べてください」

「まあまあ、ありがとうございます、じゃあ後でみんなで食べましょうか」

「なぁ、玄関で話さず中に入ってもらおうよ……」


 絵菜がぽつりと言うと、お母さんは「まあまあ、そうでした!」と慌てて僕をリビングへ案内する。お母さんは本当に真菜ちゃんと似ているなと思った。いや逆か、真菜ちゃんがお母さんの話し方を真似しているのかもしれない。


「お兄様、昨日はありがとうございました、とっても楽しかったです」


 真菜ちゃんがそう言いながらあたたかいお茶を出してくれた。


「いえいえ、こちらこそありがとう。あ、火野からもらったタンブラー使ってるんだね」

「はい、使わないともったいないと思って! ああ、お兄様にハグしてもらえたのが幸せ過ぎて昨日はなかなか寝付けませんでした」

「え!? そ、そっか、眠くない?」

「ちょっと今日は朝寝坊してしまいました。でも休みの日だからいいのです。またそのうちハグしてくださいね」

「あ、う、うん、分かった……って、さすがにみんなの前だと恥ずかしいというか……あはは」

「真菜、団吉困ってるから……ご、ごめん」


 キッチンの方から戻ってきた絵菜がお菓子の入った器を出してくれた。僕が持ってきたクッキーと、おせんべいが入っていた。


「せっかく団吉くんが持って来てくれたので、みんなで食べましょう」


 お菓子を囲んで、みんなでしばらく談笑した。昨日の話になって、僕がどうもババ抜きが弱いことを真菜ちゃんが楽しそうに話していた。おかしいな、自分では負けるつもりはなかったんだけどな。

 しばらく話していると、急に絵菜が、


「団吉、ちょっと渡したいものあるから、こっちきて」


 と言った。渡したいものってなんだろう……と思っていると、絵菜の部屋に招かれた。前に来た時と変わらず綺麗に片付けられている。

 絵菜は机の上にあった小さな紙袋を取って、僕に差し出す。


「これ、クリスマスプレゼント。気に入ってもらえるといいけど」

「え、え!? プレゼント!? どうしよう僕何も用意してないんだけど……」

「いや、いいんだ、この前誕生日にプレゼントもらったし、今日は私がプレゼントしたいと思っただけだから。よかったら開けてみて」

「い、いや、でも……うん、分かった、開けてみるね」


 ゆっくりと包みを開けてみると、そこには――


「……え!? ブレスレット!?」

「う、うん、私のもあるんだ……ほら」


 そう言って絵菜が左腕を見せる。たしかに同じ革製のブレスレットが絵菜の左腕にあった。


「そ、そっか、お揃いか……嬉しいよ、ありがとう」

「うん、よかったらつけてもらえると嬉しい」


 僕も左腕にブレスレットをつけてみる。重さもそんなに感じず、デザインもシンプルでいいなと思った。


「ちょうどいいみたいだね、本当にありがとう、何かお礼しないとな……」

「あ、じゃあ、お礼はモノじゃなくて……」


 そう言って絵菜は僕の横に来て、きゅっと抱きついてきた。


「昨日真菜がハグしてもらってるの見て、羨ましくなって」

「あはは、かなり恥ずかしかったけどね、そっか絵菜も羨ましくなったのか……」


 絵菜の背中にそっと手を回す。あははなんて笑っているが、心臓はかなりバクバクである。や、やばい、絵菜もドキドキしているのだろうか、それとも僕だけなのだろうか。


「……キス、しよ?」


 耳元で絵菜がささやいた。僕の心臓が口から出るかと思った。だ、ダメだ、破壊力が半端ない……けど、ここで負けてはいけない!

 僕は絵菜の目を見た後、目を閉じて絵菜の唇にそっと自分の唇を重ねた。ここだけ時間が止まったような感覚になった。


「ふふふ、嬉しい……」

「僕も嬉しいよ、ドキドキする……」


 しばらく二人でくっついて色々話していた。どれくらい時間が経ったか分からなかったが、途中で真菜ちゃんも絵菜の部屋に来て、三人で話したりゲームをして楽しんだ。

 ああ、楽しいなぁ……彼女がいるとこんなに楽しいクリスマスになるのか。この時間がずっと続けばいいのにと思った。

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