第73話「交換会」

 恥ずかしすぎるハグがあった後、僕たちはもう一度ババ抜きを楽しんだ。今度は賭け事はなく、純粋にゲームだけを楽しむ。

 しかし、二回目もまた僕は最後まで残ってしまった。なんだろう、本当に何も仕組まれてないよね? こんなに弱かったのか。


「しまった、今回も賭けておけばよかったですね、そしたら私が団吉さんにハグしてもらえたのに」


 一番に抜けた東城さんがニコニコしながらそんなことを言う。は、恥ずかしいので本当にもうやめてください……。

 ふと時計を見ると、もう夕飯を食べてもいいような時間になっていた。


「そろそろ夕飯食べようか、お腹空いてきた」

「あ、そうだね、じゃあ準備しまーす! ああおもてなしおもてなしー」


 そう言って日向がそそくさと動く。みんなも片付けたり夕食の準備を手伝ってくれた。

 今日の夕飯は、パン、シチュー、唐揚げ、照り焼きチキン、ローストビーフ、サラダとなっている。うん、日向と力を合わせてよく出来た方だと思う。


「おおー、すげぇな団吉、よく作れるなぁ」

「ほんとだねー、日車くんいいお嫁さんになるよ」

「ちょっと待って、僕は男だからね」


 僕が一応注意すると、みんな笑った。

 僕と日向が作った料理は大好評で、みんな美味しいと言いながら食べてくれた。火野と高梨さんが買ってきてくれたローストビーフも美味しい。

 いつもは三人で食べている夕飯も、今日は倍以上の人数がいるので賑やかで楽しかった。文化祭の時もそうだったが、やっぱり美味しいと言ってくれるのは嬉しいものだな。


「さてさて、美味しい夕飯もいただいたことだし、プレゼント交換してケーキいただきますか!」


 片付けが終わった後、高梨さんがケーキを持ってきた。お腹はいっぱいだが甘いものは別腹というやつだ。


「あ、でも東城さんがプレゼントの準備できなかったのでは……」

「ふふふ、甘いですよ団吉さん! 日向ちゃんから聞いていたので私も準備してきました! まぁ、家にあったものになってしまいましたが……」

「そ、そうなんだね、ごめん急に呼んだから……」

「いえいえ! 呼んでいただいて嬉しいからいいのです! プレゼントも喜んでもらえるといいのですが」

「よし、またあみだくじで決めようか、下に書いた名前の人のプレゼントをもらえるということで。今から書くねー」


 高梨さんがまたあみだくじを書いて、下にみんなの名前を書いた。順番に好きな場所を選んで一人ずつ名前を書いて、横線をみんなで増やしていった。


「これで分からないね、たまたま自分のものが当たる可能性もあるけど、その時はまた考えるってことで。さぁ、まずは東城さんから!」


 フンフーンと鼻歌を歌いながら高梨さんがあみだくじをたどっていく。


「あ、『団吉』に当たりました! 東城さんは日車くんのプレゼントだねー」

「え! やった! 開けてみていいですか?」

「どうぞどうぞ、気に入るといいけど」

「……あ、トラゾーのぬいぐるみだ! 可愛い! 大きいのと小さいのとある! ありがとうございます!」

「お兄ちゃん、ここでもトラゾーなんだね……」

「い、いいだろ、可愛いんだから仕方ないんだよ」


 たしかに一瞬喜ばれるかな? と心配になったが、東城さんが大事そうに抱きしめているのを見てほっとした。


「どんどんいくよー、次は日車くんだね、どれどれ……あ、『絵菜』に当たりました! 日車くんは絵菜のプレゼントだねー」

「おお、絵菜のプレゼントか、なんだろう……あ、フォトフレームか、犬と猫だ、可愛いね」

「うん、その犬と猫が可愛くて、それにした。よかったら何か入れて飾って」

「うん、ありがとう、何入れようか迷うな……」


 写真か、そういえば最近は写真を印刷したり現像したりしないなと思った。たまには形として残すのもありなのかもしれない。


「次は真菜ちゃんだね、さてさて……あ、『火野』に当たりました! 真菜ちゃんは陽くんのプレゼントだねー」

「はわっ、火野さんのプレゼント……! あ、タンブラーだ! ワンちゃんが可愛い!」

「あはは、沢井と似てるんだけどその犬が可愛いと思ってさ、よかったら使ってね」

「は、はい! ありがとうございます!」


 なんとなく真菜ちゃんが赤くなっている気がするけど、気のせいだろうか。


「次は絵菜だね、ふむふむ……あ、『高梨』に当たりました! 絵菜は私のプレゼントだねー、はいどうぞ!」

「あ、ありがとう、なんだろ……あ、これはアロマオイル……?」

「そそ、私も使ったことあるんだけどいいにおいだよー、ハンカチにつけたり、浴槽に入れてもいいかも。はっ、絵菜がいいにおいになって、日車くんがメロメロになっちゃうね」

「なっ!? ま、まぁ、いいにおいなのは大事かも……」


 絵菜が顔を赤くして俯いた。あの、僕も恥ずかしいんですけど……。


「次は私だねー、ふんふん……あ、『日向』に当たりました! 私は日向ちゃんのプレゼントか! なんだろー……おお? 可愛いシロクマの置物?」

「あ、はい、それ鍵をかけるところがあるんですよー」

「ああ、なるほどここに鍵をかけるのか! やったー鍵置いているところに飾ろう! ありがとー日向ちゃんの心のこもったプレゼントか……ふふふふふ」


 た、高梨さん、やっぱり怖い……。


「おっと、次は陽くんだね、さあさあ……あ、『真菜』に当たりました! 陽くんは真菜ちゃんのプレゼントだねー」

「お、ということは真菜ちゃんと俺は交換し合ったことになるのか! なんだろう……あ、トラゾーのハンドタオルだ、白と黒がある!」

「は、はい、お兄様とトラゾーがかぶりましたが、これならポケットにも入れやすいかなと思いまして」

「サンキュー、たしかにポケットにも入るな、さっそく明日から使おうかな」


 火野が爽やかイケメンスマイルを見せる。くそぅ、カッコいいって羨ましい。


「さぁ、最後は日向ちゃんだねー、分かっているけど一応たどって……日向ちゃんは東城さんのプレゼントだねー」

「わわっ、東城さんの! なんだろう……あ、メロディスターズの写真とキーホルダーだ! すごい、サインまで書いてある!」

「ふふふ、ごめんなさい、家にあるものがこれで……サインでごまかしちゃった」

「すごいすごい! ありがとうございます! あ、お兄ちゃんがもらったフォトフレームにこの写真入れて飾らない?」

「ああ、いいね、そうしようか」


 日向がニコニコで写真とキーホルダーを見つめている。もうすっかり東城さんのファンだな。


「これで全員だねー、よかった自分のものに当たらなかったね。よーしケーキ食べますか!」


 高梨さんが苺のケーキを切り分けてみんなに配ってくれた。うん、甘くて美味しい。これはやっぱり別腹だ。

 ケーキを食べながら談笑して楽しんだ。みんなで過ごす初めてのクリスマスイブはとても賑やかで楽しいものになった。今まで経験がなかったけど、いいものだなと思った。

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