第70話「計画」

「そういえばさ、もうすぐ冬休みだよなー」


 ある日の昼休み、いつものように4人で昼ご飯を食べていると、火野が急にそんなことを言い出した。


「ああ、あと一週間か。それがどうかした?」

「いや、冬休みといえばやっぱりアレだろ」

「アレ?」

「おいおい団吉よ、忘れてるのか? クリスマスだよ」


 火野に言われて、ああそういえばと思い出す。今年は12月24日が金曜日で、その日が2学期の終わりとなっている。

 しかしクリスマスか、小さい頃はサンタさんからのプレゼントを心待ちにしていたものだが、さすがに高校生になった今はプレゼントがどうこうという気分でもない。友達も少ないから遊ぶ予定もなく、いつも日向と母さんとちょっとしたご馳走を食べるくらいだ。自分で言ってて悲しくなってきたから僕の話はこれくらいにしておこう。


「ちょうど24日が終業式だな、何かあるのか?」

「そうそう、この前優子と話してたんだけどさ、今年はみんなでクリスマスパーティでもやらねぇか?」

「クリスマス……パーティ?」


 火野の口から似合うような似合わないような言葉が出てきたことで、僕は目を丸くする。


「そそ、陽くんと話してたんだけどね、みんなで集まってさー、美味しいもの食べたり、プレゼント交換したり、なんか楽しそうじゃない?」

「お、おお、なるほどね、みんなで過ごすのか……」

「あれ? 団吉は予定あるのか?」

「あ、いや、そういうわけじゃないけど、何も考えていなかったというか……」

「おいおい、沢井がいるのに何も考えてないのはダメだろー」

「そだよー、絵菜だって日車くんと一緒に過ごしたいでしょ?」

「えっ、あ、ああ、まぁ……うん」


 急に話を振られた絵菜は恥ずかしいのか、少し俯きながら答えた。


「うっ、たしかに何も考えてないのは絵菜に申し訳ない気がする……」

「だろ? だからさ、みんなで過ごせば楽しいんじゃないかと思ってな。せっかく俺たち仲良くなったんだし」

「そそ、みんなで過ごせば怖くない! どうかな?」


 クリスマスに何の恐怖があるんだと思ったが、ツッコミを入れるのはやめた。


「お、おう、それはいいんだけど、どこで過ごすんだ?」

「そう、それが決まらなくてなぁ。ファミレスやカラオケってわけにもいかないしなぁ」

「そっか、たしかに……あ、うちでやるか?」

「え? 団吉のとこ? いいのか?」

「一応母さんにも聞いてみないといけないけど、たぶん大丈夫だと思う。リビングだったら夏休みの時みたいにみんな集まれるだろうし」

「おお、サンキュー! じゃあ24日は学校終わったら団吉の家に集合だな」

「日車くんありがとー! じゃあさ、みんなプレゼントを一つ用意しない? それをみんなで交換するの。どうかな?」

「なるほど、誰が誰のプレゼントもらうか分からないやつか……面白そうだね。絵菜はどう?」

「あ、うん、面白そう……やってみたい」


 絵菜はまだ恥ずかしいのか、小さく頷いた。


「あ、そうだ、真菜ちゃんも一緒にどうかなぁ、日車くんの家だったら日向ちゃんもいるでしょ? 喜ぶと思うけどなぁ」

「ああ、分かった、真菜にも聞いてみる」

「よっしゃ! 日向ちゃんと真菜ちゃんにも会える……ふふふふふ」

「た、高梨さん目的が変わってない……?」


 いつもの高梨さんだったが、ついツッコミを入れてしまった。

 でも、みんなで過ごすクリスマスイブというのも悪くないなと思った。そうか、友達ができるとこういうことがあるのか……。



 * * *



 その日の夕食後、僕と絵菜はRINEで通話をしていた。

 あれだけ毎回ドキドキしていた通話も、段々と慣れてきたのか自然に話せるようになったと思う。絵菜はどう思っているか分からないけど。


「母さんに聞いてみたら、『いいわね、青春ねー』って言われてしまったよ。もしかしたら帰りが遅くなるかもしれないけど、家は自由にしていいって」

「そっか、よかった。私も真菜に聞いてみたら、『またお兄様の家に行ける』って喜んでたよ」

「あはは、そういえば真菜ちゃんとはうちで初めて会ったんだよなぁ、あの時はびっくりした」


 そう、まさか絵菜の妹さんだとは思いもしなかった。なんだか懐かしいな。


「そういえば、母さん遅くなるかもって言ってたから、僕と日向が何か料理を作ろうと思ってるよ」

「えっ、そ、そうなのか、大変そうだけど……」

「ううん、大丈夫、日向も『よーし頑張るぞー』って言ってたから、任せておいて」

「そ、そっか、団吉はすごいな、私も料理作れるようにならないと……」

「まぁ、少しずつ作ってみたらそのうち上手くなってると思うよ。慌てずに」

「そっか、うん、でも結婚してからじゃ遅いから、なんとかそれまでには……」


 絵菜の言葉を聞いて、僕は一気に顔が熱くなっていった。け、けけけ結婚って言った……?


「う、うん、い、一緒に少しずつ頑張ってみようか……」

「うん、団吉のためなら頑張れる……あ、そういえば25日は空いてる?」

「ん? バイトも入れてないから空いてるけど、どうかした?」

「あ、いや、24日はみんなで過ごすから、25日は二人で過ごしたいなって思って……」


 また僕の顔が熱くなっていった。そうか、たしかに二人で過ごす時間というのも大事なのかもしれない。


「あ、うん、分かった、僕も絵菜と一緒にいたい。どこか出かける?」

「それもいいんだけど、今度はうちに来てくれないか? その、家でまったりもいいかなって」


 な、なるほど、絵菜の家か……前に行った時のことを思い出してドキドキがおさまらなくなってきた。


「うん、分かった、それじゃあまたお邪魔しようかな」

「うん、ありがと、楽しみにしてる」


 こうして、今年のクリスマスはバッチリ予定が決まった。今までで一番充実しているクリスマスになるのではないかと思った。まぁ、一緒に過ごすような友達もいなかったからね……。

 しかし、自然に通話できるようになったとはいえ、相変わらずドキドキはおさまらないようで……たぶんこれは慣れることはないんだろうな。


(そうだ、プレゼントは何にしようかな)

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