第68話「結果」

 定期テスト当日がやって来た。

 今日は物理、英語、現代文、明日は地理、数学、古文、化学、明後日はその他副教科という日程でテストが行われる。

 あれから僕たちはしばらく放課後残って勉強をして帰っていた。木下くんや大島さんも参加してくれて、分からないところを教え合っていた。特に大島さんは成績優秀なので、僕と一緒にみんなに教えてくれて助かった。

 でも、やたらと僕と距離が近い大島さんがいて、さらに隣から強めにツンツンしてきてどこか面白くなさそうな絵菜もいて……僕は女の子二人に挟まれて冷や汗をかいていた。


「じゃあ、テスト始まるから荷物を廊下に出してくれー」


 大西先生の一言で、みんな荷物を廊下へ出す。さて僕はどこに置こうかな……と思っていると、同じように迷っている絵菜がいた。なんだ、一学期と同じだなと思って、少し笑ってしまった。


「あ、絵菜、このへんに置いておこうか」


 僕はそう言って二人分のスペースをとった。


「うん、色々教えてくれてありがと、が、頑張る……」


 あの時と同じように絵菜が頑張ると言ったので、僕は嬉しくなった。


「うん、頑張ろう」


 そう言って僕が右手を出すと、絵菜も右手を出してグータッチした。


「おーっす、あ、お前らだけグータッチしてる」

「やっほー、あ、ずるいずるい、私もー」


 火野と高梨さんに見つかって、結局みんなで一緒にグータッチした。いつもの光景だなと思って笑うと、みんなも笑った。

 みんながなんとか赤点だけは取らないようにと、心の中で祈った。



 * * *



 数日後、いつものようにテストの結果が全部出揃った。

 僕は学年で5位だった。夏休み明けのテストからさらに順位が上がった。このままいけばそのうち1位も……と思うが、上位は本当に化け物揃いなので、そこまでいけるかどうか。

 今回は数学が難しかった。平均点も低い。でも僕は100点……と言いたいところだが、単純な計算ミスをしてしまって98点だった。かなり悔しい。大西先生によると100点を取った人はいなかったそうなので、たぶん僕が一番できたのだと思う。


「団吉は何位だ……って、げっ、5位とかすげぇな! 俺は136位だったよ。ちょっと上がったけど、このへんうろうろしている気がする……」


 隣から覗き込んできた火野が大きな声を出した。


「お、おう、火野も数学は平均点よりだいぶ上じゃないか、頑張ったな」

「ああ、数学は団吉と大島のおかげで難しかったけど何とか。でも他の教科がイマイチでなー、そのバランスが課題かもしれねぇ」

「まぁ、一教科だけよくてもな。でも、赤点はなかったみたいでよかったな」

「なになに、日車くんまたすごいねぇ。私は110位だったよ。ちょっと下がっちゃった……」


 火野の後ろから高梨さんが少し悲しそうな声を出した。


「ええっ!? ま、また俺は負けたのか……」

「あらま、でも高梨さんも数学よかったんだね」

「うん、数学苦手なんだけど、日車くんと大島さんのおかげだねー、ありがとー」

「いやいや、頑張ったのは高梨さんだから。でも教えた甲斐があるよ」

「あはは、日車くん優しいねぇ。あ、ねえねえ絵菜はどうだったー? ……って、ええっ!? 101位!?」

「な、なんだってー!? ま、また俺が一番下なのか……」


 勝手に落ち込む二人の姿もなんだか見慣れた光景になりつつある。絵菜は順位こそ一つ落ちたものの、クラスのみんなが苦戦していた数学も一番よかったようだ。


「あっ、絵菜も数学よくできてるね、赤点もなくてよかった」

「うん、団吉が教えてくれたから、頑張れた……ありがと。団吉は5位なのか、すごい……」

「うん、僕も頑張ってたけど、順位はたまたまかな」

「た、たまたまですって……?」


 僕の右隣から恨みがましい声が聞こえてきた。ふと見ると大島さんがプルプルと震えているように見えた。


「たまたまで5位なんてありえないわよ……そんな、そんなバカな……」

「い、いや、順位はあんまり気にしてなかったというか……お、大島さんはどうだった?」

「私は12位よ……凡ミスが多すぎた……こんな、こんなはずじゃなかったのに……」

「えっ、で、でも、12位でもよくできてるし十分なのでは」

「何度も言わせないでよ、あなたに勝てないと意味がないのよ……次こそは、絶対に勝つんだから」


 あ、これは何言っても届かないやつだ。ここ数回で僕は学んだ。こういう時は刺激してはいけないのだと。


「ひ、日車くん5位なのか、す、すごいね」


 今度は前の席から木下くんが話しかけてきた。


「あ、うん、なんとかね。木下くんはどうだった?」

「ぼ、僕は68位だったよ。日車くんと大島さんに教えてもらって、数学はよくできた方だと思うよ」

「そっかそっか、お役に立てたみたいでよかったよ」

「あ、ねえねえ、テストも終わったしさー、またみんなであのカフェ行かない? 私今度はケーキかパフェ食べたいんだよねー。よかったら木下くんと大島さんも一緒に」


 高梨さんが急に提案してきた。あの新しくできたカフェか、前の時は東城さんのことがバレて大変なことになったな。


「おっ、そうだなぁ、じゃあ今度の土曜日とかどうだ? 部活も休みだし」

「うん、いいよ、僕もその日はバイト休みだし。絵菜は行ける?」

「うん、何も用事ないから、大丈夫」

「そっか、よかった。木下くんと大島さんはどう?」

「えっ、い、いいの? お、お邪魔じゃないかな?」

「いいのいいのー、せっかくみんなで頑張ったんだからさ、一緒に行こうよー」

「はひ!? じゃ、じゃあ、お言葉に甘えて……」


 木下くんは挙動不審になりながらも答えてくれたが、大島さんはブツブツと何か言っているようで、返事がなかった。


「お、大島さん……?」

「……はっ、な、何か言ったかしら?」

「あ、いや、今度の土曜日にみんなでカフェに行こうかって話してたんだけど、大島さんもどうかなって」

「わ、私も!? ま、まぁ、日車くんがそんなに行ってほしいのなら、行かないこともないわね」

「え!? あ、うん、来てくれたら嬉しいかな……あはは」


 ツンツン!

 後ろから強めに突かれた。振り向くと絵菜が頬をふくらませて面白くなさそうな顔をしている。


「あ、え、絵菜、さっきのは言葉のあやというかなんというか……あはは」


 ま、まずい、絵菜の機嫌が悪くなってそうだ。大島さんを呼んだのはまずかったのだろうか……。

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