第65話「プレゼント」

 文化祭は大成功で終わった。

 用意していた食材もほぼ全て使い切り、ちょっと早く3組は店じまいとなった。みんなで「よかったねー」と言い合う。クラスが一つになって、そしてその中に自分もいるなんてちょっと不思議な感じだったが、悪くないなと思った。

 僕は厨房担当として料理を作った。クラスのみんなに「日車くんって料理もできるのか、すごいね」と褒められるのは嬉しかった。なんだ、僕も単純な奴なんだな。

 火野や絵菜や高梨さんはそれぞれウェイター姿やメイド姿で人気が出ていた。絵菜は接客なんてできるのだろうかと心配だったが、「なんか、沢井さんって可愛いね」と褒められているのを聞いた時には自分のことのように嬉しくなった。

 そんな文化祭が終わって、次の日は日曜日で学校は休みだが、僕は新たな問題と対面していた。それは――


(絵菜の誕生日が近いから、何かプレゼントを渡したいけど、何がいいんだろう……)


 僕はそう思いながら、スマホでぐるぐるとショッピングサイトを見ていた。そう、もうすぐ絵菜の誕生日なのだ。以前聞いたところによると誕生日は11月10日。今年は水曜日だった。


「お兄ちゃん、朝から難しそうな顔して、どうしたの?」


 スマホとにらめっこしていた僕の顔を、日向が覗き込むようにして見てきた。


「ああ、絵菜の誕生日が近いから、何かプレゼントしようかと思うんだけど、何がいいのか分からなくてな……」

「ああ! そうなんだね、それはちゃんとプレゼントしないと!」

「そうなんだけど、女の子にプレゼントなんてあげたことないから、全然分からなくて」

「えー、私にたまにプレゼントくれるじゃん」

「それはそうだけど、妹と彼女じゃちょっと違うというか……難しいな」

「むー、私にくれる時と同じ感じでいいと思うんだけど……はっ、そうだ!」


 日向は何かを思いついたのか、ポンと手を叩いた。


「お兄ちゃん、今日の予定は?」

「え? 3時までバイトだけど、それが何か?」

「じゃあさ、バイト終わったら隣町のショッピングモールまで行かない? プレゼント一緒に考えてあげるよ」

「お、おう、まぁいいけど……そうだな、見に行ったら何かあるかもしれない」

「やった! お兄ちゃんと久しぶりにデートできるー」


 日向がそう言ってガッツポーズしている。いや、目的もう忘れてないか? と思ったけど言うと怒られそうなのでやめておいた。



 * * *



 バイトが終わって、日向と一緒に隣町のショッピングモールへ出かけた。

 そういえばここは絵菜と一緒にデートした場所だな。映画を観たり、名前で呼ぶようになったり、手をつないで色々見て回ったり、本当に楽しかった。

 ……なのに、なぜか今僕の左手を日向がニコニコで握っている。いつものことだが、本当に日向に好きな人なんてできるのかとちょっと心配になった。


「――ん? お兄ちゃんどうかした?」

「い、いや、なんでもない……」

「そう? 絵菜さんへのプレゼント何がいいんだろうねー……あ、アクセサリーが売ってあるみたいだよ」


 日向が指差す方向にアクセサリーショップがあった。とりあえず二人で入ってみる。


「へぇー、指輪とかイヤリングとか色々あるね、あ、ネックレスも可愛いね」


 日向が色々見ながら話しかけてくる。なるほど、こういうものもありかもしれないなと思った。


「いらっしゃいませー、お二人でデート中ですか?」


 店員の綺麗なお姉さんに話しかけられた。そういえば絵菜とデートする前に日向と服を見に行った時も同じように話しかけられたな……。


「はい! デート中です!」

「なっ!? い、いや、こちらは妹で、その、彼女にプレゼントを探しているのですが……」

「うふふ、そうでしたか、仲が良いんですねー。彼女さんは高校生くらいですか?」

「あ、はい、同い年で、高校生で……」

「そうですか、それだったらこのあたりのネックレスなどいかがでしょう? 可愛いデザインのものが多いですよ」


 店員さんはいくつかネックレスを見せてくれた。ハート型や丸型や星型など、どれもキラキラしていて可愛かった。


「あ、お兄ちゃん、この蝶のネックレス可愛い!」


 そう言って日向が一つのネックレスを指差した。小さな蝶が一つついたシンプルで可愛らしいものだった。


「そうですね、こちらのバタフライ型も可愛くてアクセントになってオシャレだと思いますよー」

「ほんとですね……これにしようかな、すみませんこれをください」

「はい、ありがとうございますー、サービスでプレゼント用にラッピングしておきますね」

「あ、ありがとうございます」


 可愛くラッピングされたネックレスを受け取って、僕たちはお店を出た。


「よかったねお兄ちゃん、絵菜さんもきっと喜ぶよ」

「ああ、喜んでくれるといいけど」

「大丈夫だよー、当日渡すの?」

「うん、さすがに学校には持って行けないから、帰りにうちに寄ってもらって、そこで渡そうかと」

「そっかそっか、絵菜さんまた来るんだね、あー私も楽しみになってきた!」


 なぜか日向がニコニコで楽しみになっているようだが、ま、まあいいや。ネックレスの包みを見て、絵菜が喜んでくれるといいなと思った。

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