第63話「嫉妬」
日向と真菜ちゃんが帰って少し落ち着いたかなと思った時、接客担当の女子に、「ねえねえ、日車くんを呼んでいるお客さんがいるよ」と言われた。
呼んでいるお客さん? とちょっと不思議に思って行ってみると、そこには――
「あっ、団吉さん! お久しぶりです! みんなで来てみました!」
そう、東城さんがちょこんと座っていた。しかも一人ではない。周りには東城さんに負けないくらい可愛い女の子が4人……なんと、メロディスターズのメンバー全員が揃って座っていた。メンバーの顔と愛称は覚えている。左から、ゆかりん、まりりん、しおみん、あきりん、ゆきみんの順で座っていた。
「え!? と、東城さん!? よくここが分かったね」
「ふふふ、日向さんと真菜さんに文化祭があること聞いていました! でもクラスを聞き忘れて、色んな人に聞くことになっちゃいました」
東城さんがテヘッと舌を出した。
「あ、そうなんだね、でもありがとう来てくれて」
「はい! どうしても団吉さんにお会いしたくて!」
「へぇ、君が団吉くんだね? まりりんから話はよく聞いてるよ」
東城さんの隣でゆかりんがニコニコしながら僕に話しかけてきた。
「あ、はい、こ、この前のライブ、楽しませてもらいました」
「ふふふ、ありがとう、なんかあの時まりりんがニヤニヤしてると思ってたんだけど、そうか団吉くんが来てくれたからか」
「あら、団吉くん、可愛い顔してるじゃない?」
「ほんとだ、可愛いね~」
しおみんとあきりんとゆきみんが僕の顔を見て次々と可愛いと話す。は、はい? 可愛い……?
「おーい団吉、どうしたん……って、あれ!? め、メロディスターズのみんながいる!?」
「はひ!? ひ、日車くん、これどういうこと……!?」
僕のところにやって来た火野と木下くんが驚いた声を出す。ま、まぁ驚くよね……僕もまだちょっと信じられない。
「あら、団吉くんのお友達? こっちの子はすごいイケメンね、メガネの子もメガネ取ったら大化けしそうね」
「ほんとだ、三人とも可愛いね~」
「え!? あ、ど、どうも……ありがとうございます」
「はひ!? あ、あ、ありがとう……ご、ございます……」
男三人で固まってしまった。可愛い女の子たちに褒められると嬉しいのは三人とも同じようだ。
「もう! みんな、ほ、褒めるのはいいけど、団吉さんたち困ってるから!」
「あはは、まりりんごめんね、大事な団吉くんだもんね」
「えっ!? ま、まぁそうだけど……ご、ごめんなさい団吉さん、お気を悪くしないでくださいね」
「え、あ、うん、大丈夫だよ、みなさんが来てくれたことにちょっとびっくりしてただけで……はっ!?」
どこからか強烈に冷たい視線を感じたので、ふと振り向くと、絵菜と高梨さんがジトーっとした目でこちらを見ていた。
や、やばい、これは怒られそうだと思って火野をツンツンと突くと、火野も視線に気づいたようだった。
「あ、じゃ、じゃあ団吉はみなさんに作らないといけないだろ、お、俺も接客しないと、き、木下も手伝ってくれ……」
「そ、そうだな、みなさんご注文決まったらこちらの火野と木下くんに言ってください、ぼ、僕は作ってきます……」
絵菜と高梨さんの視線が突き刺さる……東城さんのことがバレた時と同じか、それ以上だ……。
* * *
午後になり、担当を交代する時間が来たので、僕は絵菜と一緒に他のクラスを見て回ることにした。
結局メロディスターズのみんなは、「あら、高校の文化祭をなめてたかしら……美味しいわね」とみんな満足して帰って行った。途中でクラスの人たちの中には、「ねぇ、あれメロディスターズじゃない?」と気づく人もいた。さすが、地方とはいえテレビにもたまに出ているアイドルグループだなと思った。
……それはいいのだが、僕には困ったことがあった。
「ご、ごめんね、まだ怒ってる……?」
「……別に」
そう、どうも絵菜の機嫌を損ねてしまったらしく、先程から謝ってるけどずっとこの調子だ。や、やばい、どうやったら機嫌よくなってくれるのだろうか、他の人はこういう時どうしているんだろうか。
その時、僕の視界にたこ焼きを売っているクラスが入ってきた。
「あ、たこ焼きだって、た、食べてみない?」
「……うん」
僕は自分と絵菜の分のたこ焼きとお茶を買ってきた。すると絵菜が「こっち来て」と言って僕を引っ張っていく。どこへ行くのだろうかと思っていたら、絵菜は僕を体育館裏へと連れて来た。あの昼休みに僕が一人でご飯を食べていた場所だ。体育館では演劇やライブが行われていて中は賑やかだが、この体育館裏に来る人はいなかった。
「あ、ここか、なんか、ふ、二人きりになれたね……」
体育館を背にして二人で座ると、絵菜が僕の左腕に抱きついて、僕の左肩に頭を乗せてきた。
「え、絵菜……?」
「……ごめん、私拗ねてた。最近おかしいんだ、団吉だって他の女の子と話すことあるのに、それ見ちゃうと面白くなくて……団吉優しくて可愛いから、他の子に取られてしまうんじゃないかってドキドキして……そんなこと思う自分も嫌で、どうしたらいいのか分からなくなって……」
絵菜の言葉を聞いて、僕は胸がドキドキした。これが嫉妬というやつだろうか。そんな絵菜が愛おしくて仕方がない。ぎゅっと抱きしめたいところだが、ここは学校だと言い聞かせて、そっと絵菜の頭をなでた。
「ごめんね、寂しい思いさせちゃったね。女の子と全く話さないのはさすがに無理だけど、僕は絵菜が大好きなのは変わらないから」
「うん、ありがと……私も団吉が大好き……」
「ありがとう……あ、たこ焼き食べようか、冷めちゃうね」
「うん」
二人で一緒にたこ焼きを食べる。うん、とても美味しい。
絵菜も少しは安心してくれたかな? 機嫌もよくなったようでよかった。絵菜に寂しい思いはさせたくないなと思った僕だった。
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