第57話「女性の勘」
(あ、そういえば東城さんにライブのお礼言ってなかったな……)
ある日の夜、僕は勉強をしていたが、ふと東城さんにライブのお礼を言っていなかったことを思い出して、RINEを送ろうとスマホを手に取った。
(あれから東城さんからもRINE来ないな……ライブも何日かあったみたいだし、忙しいんだろうな)
僕はそんなことを考えながら、ポチポチと文字を打っていく。
『こんばんは、元気? ライブ誘ってくれて本当にありがとう。すごく楽しかった』
よし、こんなもんかと思って送ると、5分くらいして返事が来た。
『こんばんは! はい、元気です! いえいえ、私もみなさんが来てくれてすごく嬉しかったです!』
忙しい中でも普通に返事をしてくれてほっとしていると、東城さんからさらにRINEが送られてきた。
『あの、ちょっとだけ通話してもいいですか?』
その一文を見て、僕はドキッとしてしまった。通話に慣れてなさすぎだろ……と思いながら、
『うん、いいよ』
と送ると、すぐにかかってきた。僕はふーっと息を吐いて通話に出る。
「もしもし」
「もしもし、あ、東城です。こんばんは! すみません夜なのに電話しちゃって」
「こんばんは、ああ、大丈夫だよ、この前は本当にありがとう、すごく楽しかったよ」
「ありがとうございます! 私もすごく楽しかったです! 久しぶりにライブが出来て、みなさんが来てくれて……でも」
みなさんが来てくれてと言った後、東城さんは急に声のトーンが落ちた。あれ? と思っていると、
「あの……絵菜さん、握手会の時私のところに来てくれたのですが、あまり話せなくて……握手はしてくれたのですが、私、もしかして嫌われているのでしょうか……?」
と、少し悲しそうな声で東城さんは話した。絵菜の名前が出てきてちょっとドキッとしたが、なるほど、そういえば絵菜も握手会の時東城さんの列に並んでいたが、あまり話せなかったのか。
「ああ、大丈夫だよ、絵菜はちょっと話すのが苦手なところあるから。メロディスターズの曲もたくさん聴いていたみたいだし、嫌ってなんかいないよ」
「そ、そうですか……それを聞いてちょっと安心しました……それと」
東城さんは「あの、その……」と何か言いたそうにしている。なんか絵菜みたいだなと思って、僕は東城さんが言うまで待った。
「その、だ、団吉さんと絵菜さんは、本当にお付き合いしていないのですか……?」
その言葉を聞いて、僕はまたドキッとしてしまった。もしかして、日向と真菜ちゃんが何か言ったのだろうか。どう言おうかと一瞬迷ったが、嘘を言うのはよくないと思って、僕は話すことにした。
「そ、それが、ぼ、僕と絵菜は、今付き合っているんだ……まだそんなに時間は経ってないんだけどね」
「えっ」
少しの間、お互い無言の時間が流れた。やばい、何か言わなきゃと思っていると、東城さんが口を開いた。
「そ、そう……ですか……あー、私がもたもたしていたのがよくなかったのかなぁ」
「へ? もたもた?」
「はい、もたもたです。自分の気持ちに自信が持てなかったんです。でもでも、おめでとうございます! お付き合いされているなんて素敵です!」
「あ、ああ、ありがとう、なんだか恥ずかしいな」
「で、でも、団吉さんは私にとって大切な人なのは変わらないので、またお話してもいいですか……?」
「ああ、うん、大丈夫だよ、またいつでも話そう」
「やった! ありがとうございます! ……あ、また誰かからRINEが来たみたいです。もう、せっかく団吉さんとお話しているのに……」
「あ、うん、分かった、無理しないでね」
「ありがとうございます、それじゃあ、また……」
東城さんとの通話が終わって、僕はしばらくスマホの画面を見つめていた。
(東城さん、もたもたってどういう意味だったんだろう? もしかして東城さんも僕のこと気になっていたとか……そ、そんなまさかな)
そんなことを考えていたら、またスマホにRINEが来た。あれ? と思って見てみると、送り主は絵菜だった。
『こんばんは、今いい?』
『こんばんは、うん、大丈夫だよ、どうかした?』
『あ、その、ちょっとだけ通話してもいいか?』
通話という文字を見て、僕はまたドキッとした。これには慣れないのだろうか……そう思いながら、
『うん、いいよ』
と送ると、すぐに絵菜から通話がかかってきた。
「もしもし」
「もしもし……ごめん夜遅くに」
「ううん、大丈夫だよ、どうかした?」
「いや、なんとなく、団吉と東城が話してるような気がしたから、つい……」
その言葉を聞いて、僕はドキッとしてしまった。今日は何回ドキッとすればいいのだろうか……って、違う違う、なぜ東城さんと話していたのがバレたのだろうか? 盗聴されてる? それはないよな……こ、これが女性の勘ってやつだろうか?
「あ、ら、ライブのお礼言ってなかったなと思って、ちょっと話してた……ごめん」
「そっか、い、いや、謝らなくていいんだ、その……東城と話してるかもって思ったら急に寂しくなって、声が聞きたくなって……」
絵菜の言葉を聞いて、僕は一気に顔が熱くなった。絵菜がとても可愛いと思った。
「そ、そっか、うん、僕のこんな声でよければ、いつでも聞かせてあげたいというか」
「ありがと……あ、今度の日曜日、何か用事ある?」
「日曜日? バイトが4時まで入ってるけど、何かあった?」
「あ、いや、もしよかったらうちでご飯でも一緒にどうかなと思って……母さんも会いたがっているし、真菜も『お兄様を早く呼んで!』ってうるさかったので」
「そっか、うん、お邪魔でなければ、ぜひ行きたい。バイト終わったらそっち行っていい?」
「うん、ありがと、楽しみにしてる」
「うん。……あ、また日向がお風呂に入れって言ってる気がするので、このへんで……」
「うん、じゃあまた……おやすみ」
通話が終わって、僕はボーっとスマホを見つめていた。これもずっと変わらないな……いい加減通話にも慣れたいところだが、まだまだ難しいようだ。
(そうか、ついに絵菜のお母さんと会うのか。『あなたに絵菜は渡せない!』とか言われたらどうしよう……)
勝手に心配して、勝手に緊張している僕だった。
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