第53話「ライブ」
ライブ開始の時間となった。
最初にメロディスターズの動画でよく見る、パーマのお兄さんが出てきて軽い説明をした後、「それでは、メロディスターズの登場でーす!」という掛け声とともに、デビュー曲『メロディライン』が流れて、5人が一斉に出てきた。
僕たちは真ん中くらいの位置にいた。あまり前過ぎるとコアなファンが多くて最初はきついかもしれないと木下くんが教えてくれたからだ。ここからでもステージは十分に見える。東城さんはセンターから一つ右隣にいた。『メロディライン』を熱唱する姿はとても可愛く見えた。
僕は木下くんから借りたペンライトを振って応援する。木下くんはサイリウムを何本も持って応援している。前に行ってもいいよと木下くんに言ったのだが、「き、今日はみんなで来たから」と僕たちに付き合ってくれた。
曲が終わったところで、センターの『ゆかりん』が元気よく、
「改めまして、今日は私たちメロディスターズのライブに来てくださって、ありがとうございます!」
と、挨拶した。すると他のメンバーが、
「「ありがとうございます!」」
と、続いて挨拶した。東城さん以外は生で見るのは初めてだが、みんな可愛かった。衣装もバッチリと決まっていて、アイドルってこんなにキラキラしているんだなと思った。
「ねえねえ、まりりん、今日なんかやけにニヤニヤしてたけど、どうしたの?」
少しの間フリートークが始まった。センターのゆかりんが、東城さんに向かって話しかける。
「ふふふ、秘密だよー、秘密」
「えー、教えてくれてもいいじゃない」
その時、東城さんがこっちを見てニコッと笑いかけたような気がした。まあ、人も多いしさすがに気のせいかもしれないけど……。
「ふふふ、久しぶりのライブがこうして行われて、嬉しいんだよ!」
東城さんがそう言うと、みんながワァッと歓声と拍手を送った。僕も慌てて拍手を送る。
「お兄ちゃん、東城さんすごくキラキラしてるね!」
「ああ、めっちゃ輝いてるな」
普段も可愛いけど、ステージに上がるとこんなにも可愛くなるのか。アイドルってすごいなと思った。
「ふふふ、今日のライブ、私たちみんな楽しみにしてました! 今日はたくさん楽しんでいってください!」
ゆかりんがそう言うと、またワァッと歓声があがった。
「それでは次は……『桜の散る頃に』、聴いてください!」
あっ、日向の好きな曲だ。隣で日向も「わー!」と声を出していた。
* * *
それから、楽しい時間があっという間に過ぎていった。
事前に聴いていた曲もたくさん歌ってくれたし、新曲も聴いた。メンバーみんな歌が上手く、生で聴くと元気の良さと迫力もあって、音源とはまた違う良さがあった。
ライブが終了し、握手会の時間となった。スタッフの方々が準備をして、メンバーがそれぞれ並ぶ。誰か一人に少しの間だけ握手と会話ができるというものだった。
「おー、みんな同じくらい人が並んでるな」
「う、うん、メロディスターズはみんな同じくらい人気だからかな」
「よーし、私たちも行こっか、ここは東城さんに行きたいけど、他のメンバーも可愛かったなぁ」
東城さんはステージの時と同じく、センターから一つ右隣にいた。僕は東城さんの列に並ぶ。
「あ、お兄ちゃんも東城さんのところに行くんだね」
「ああ、せっかくだからちょっとでもお話したいなと思って。日向も?」
「うん! ありがとうって言いたくて」
「そっか、先並んでいいぞ」
そう言って僕は日向を先に並ばせた。一人一人の時間はそんなに長くないので、あっという間に日向の番がやって来た。
「東城さんこんにちは! 今日はありがとうございました! すっごく楽しかったです!」
「あ、日向さん! いえいえ、今日は来てくれてありがとうございます! 楽しんでもらえたならよかった!」
東城さんが日向の手を握って喜んでいる。
「はい! お兄ちゃんとたくさん曲聴きました! 生で聴けて感動しました! また女子の秘密の話しましょうね!」
「ふふふ、はい、もちろん! また学校でも会いに行きますね、女子の秘密の話しましょう!」
ひ、秘密の話って何だ……? と思ったが、聞いても教えてくれそうにないと思ったので聞かないことにした。
日向の番が終わって、僕の番がやって来た。東城さんが僕の顔を見てパァッと表情が明るくなった。
「こ、こんにちは、今日はありがとう、とても輝いてて可愛かったよ」
「団吉さん! こちらこそありがとうございます! 今日のライブ、みなさんが来てくれると思ってすごく楽しみにしてました!」
東城さんが僕の手を握って、笑顔を見せる。とても可愛いなと思った。
「あ、日向とも仲良くしてくれてありがとうね、二人で曲聴いてたよ。みんな歌が上手くてすごいなぁって」
「ふふふ、ありがとうございます! 今日歌った新曲も配信されるので、またぜひ日向さんと聴いてください!」
「うん、また聴かせてもらうよ。今日はほんとに楽しかった」
スタッフさんに促されて、僕の番が終わった。東城さんは「あっ……」と少し寂しそうな表情を見せた。
結局、僕の後ろにみんな並んでいて、東城さんに感謝の言葉を伝えたみたいだった。東城さんの笑顔がまぶしかった。木下くんは憧れのまりりんとうまく話せたのだろうか。
外に出ると、辺りは暗くなっていた。帰り道もみんなでライブの話をした。
「東城さん、めっちゃ輝いてたなぁ。そしてみんなめっちゃ歌上手いなぁ」
「うんうん、すごく可愛かったよねー、アイドルってすごいなぁ」
「そうだね、木下くん今日はありがとう。まりりんと話せた?」
「う、うん、やっぱり緊張するけど、久しぶりに話せてよかったよ」
「そっかそっか、絵菜はどうだった?」
「えっ、う、うん、東城可愛かった……その、団吉が、す、好きになってしまわないかと、ちょっと心配にもなった……」
「えっ!? い、いや、僕は……その、絵菜だけだよ……?」
僕はそう言って、一気に顔が熱くなった。そんな僕をニヤニヤしながら日向と真菜ちゃんが見ていた。
「な、なんだよ……?」
「ふふふ、なんでもありませーん! ねー真菜ちゃん」
「ふふふ、そうだね日向ちゃん、また女子の秘密の話しようね」
二人で「ねー!」と顔を合わせて言っている。だ、だから女子の秘密の話って何だ……?
(それにしても、今日はライブに行けてよかったな。東城さんにはまたちゃんとお礼言わないとな)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます