第47話「チケット」

「えっ!? ら、ライブ!?」


 次の日の昼休み、僕と火野と絵菜と高梨さんがまた一緒にご飯を食べている時に、東城さんからライブに誘われた話をした。


「ああ、今度の土曜日にメロディスターズのライブがあるから来てくれないかって……みんなで」

「そ、そっか……でもいいのかな、俺らも行って」

「みんなで来てもらえると嬉しいですって言ってたよ。土曜日の夕方5時かららしい。みんな空いてる?」

「お、おお、俺は大丈夫だけど」

「私は午前中は部活だけど、夕方なら行けるよー」

「そっか、絵菜はどう?」

「あ、私も大丈夫……午前中は用事あるけど、午後は何もないし」

「じゃあみんなで行こうか。隣町のライブハウスであるみたいだよ。電車で2駅隣だね。駅前に集まって、高梨さんは駅違うから直接その駅に行ってもらうってことで」


 僕はそう言ってライブハウスのページと、メロディスターズのホームページのリンクをグループRINEに送った。


「おお、ホームページがあるんだな。お、東城さんだ」

「ああ、東城さんはまりりんと呼ばれてるらしい」

「麻里奈だからまりりんだったよね、この写真も可愛いねぇ」

「曲も検索したら出てくるよ。全部じゃないみたいだけど、予習しておくのもいいかも。僕も日向と聴いてる」

「そういえば、真菜が昨日メロディスターズの曲聴こうよと言ってきたよ。真菜もハマってるのかも」

「あはは、日向も似たような感じだよ」

「ひ、日車くんも、メロディスターズのライブ行くの?」


 木下くんがそう言って僕たちのところにやって来た。


「あ、うん、みんなで行こうって話してたところだったよ。もしかして木下くんも?」

「う、うん、久しぶりのメロディスターズのライブだから行こうと思ってて。もうチケットも手に入れてる。そしたらライブって声が聞こえてきたから」

「そっかそっか、じゃあ木下も一緒に行くか? ライブハウスがある町の駅集合でもいいか?」

「う、うん、それでもいいなら」

「木下くんはまりりんのファンなんだよねー、たくさん歌ってくれるといいねぇ」

「はひ!? う、うん、楽しみにしてるよ」


 やっぱり木下くんは高梨さんの前だと挙動がおかしいなと思ったが、これでみんなでライブに行くことが決まった。だんだん楽しみになってきた。



 * * *



「ただいまー」


 9月になっても、まだ気温は高いようだ。8月ほどの暑さではないものの、家に帰ってくるまでに少し汗をかいていた。


「おかえりお兄ちゃん、朗報だよ!」


 日向がパタパタと足音を立ててやって来た。朗報って何だ?


「お、おう、朗報って?」

「ふっふーん、今日東城さんが私たちのクラスに来てくれて、今度のライブのチケットをくれました! じゃーん」


 そう言って日向はライブのチケットを僕に見せてきた。


「ええ!? 昨日話してたのに、もうくれたの?」

「うん、ちょうど人数分あったからって、持って来てくれたよー。絵菜さんと真菜ちゃんの分は真菜ちゃんが持って帰ったよ。あとは火野さんと高梨さんの分は私が持って帰ってきた!」


 日向がドヤ顔を見せる。いや、厳密に言うと君の手柄じゃないけどね……あんまり言うと怒りそうなので黙っておくことにした。


「そっか、チケットもなんだか凝ってるね、メンバーのイラストが描いてあるのか」

「うん、なんかすごいよね、あーワクワクしてきたよ」

「あら、二人ともライブに行くの?」


 母さんがニコニコしながら僕と日向を交互に見る。


「うん、お兄ちゃんがメンバーの子とお友達になって、ライブに来てくれないかって誘われたんだー」

「へぇー、すごいわね、どれどれ……メロディスターズっていうのね。あれ? 昨日テレビで見たような……」

「えっ、本当?」

「たしかこっちの方で放送しているバラエティ番組に出てたわよ。ちょっとだけだったけど、5人いたかなぁ」


 ホームページを見て知ったのだが、メロディスターズは5人のグループだった。なるほど、地方で活動しているというのは間違いないようだ。


「このチケットもらったの? お礼はちゃんと言った?」

「うん、私学校で会ったからちゃんと言ったよー」

「あ、僕まだ何も言ってないや、RINE送っておこうかな」


 僕はスマホを取り出して、東城さんにRINEを送る。


『こんにちは、日向からライブのチケット受け取りました。ありがとう』


 5分ほど経ってから、東城さんからRINEの返事が来た。


『こんにちは! いえいえ! 当日みなさんが来てくれるの楽しみにしてますね!』

『うん、でもよかったのかなぁ、タダでもらっちゃって……』

『ふふふ、いいんですよ、これも拾ってもらったお礼のひとつです』

『そ、そっか、じゃあ、お言葉に甘えて……』

『はい! あ、当日握手会もありますから、楽しみにしててくださいね!』


 僕はその一文を見て、「えっ!?」と口に出して言ってしまった。日向が不思議そうな目で見てくる。


「お兄ちゃん、どうしたの? 東城さん何か言ってたの?」

「あ、いや、当日握手会があるって東城さんが言ってて……」

「あ、握手会!? へぇーすごい、本当にアイドルって感じだね」

「ああ、たしかに……」


 アイドルのライブなんて行ったことがない、というかライブ自体が初めての経験だけど、握手会とかがあるのが普通なのだろうか。後で調べてみようと思った。

 しばらく東城さんとRINEのやりとりをした後、僕と日向はまた一緒にメロディスターズの曲をあれこれ言いながら聴いていた。

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