第46話「女子の秘密」

「ただいまー」


 僕はバイトが終わって家に帰ってきた。そう、夏休み限定の短期バイトのはずだったのだが、店長から、


「日車くん! どうかこの後も続けてくれないか!? もちろん学業優先で、空いてる時でいいから!」


 と、必死にお願いされて、僕は断れなくてそのまま続けることにした。まあ、慣れてきたしみんな優しく接してくれるし、無理のない範囲で続けるのも悪くないなと思った。もちろん、学業が疎かになってはいけないけど。

 でも、誰かに必要とされることは、やっぱり嬉しいものだった。


(……あれ? だいたいいつも日向がおかえりって来るんだけど、今日は来ないな)


 リビングに行くと、日向がソファーに座っていた。部屋にいるわけじゃなかったのか。


「……お、おかえりお兄ちゃん」

「あ、ああ、ただいま。日向、どうかした?」

「べ、べべべ別に、なんでもないよ……」


 なぜか慌てたような素振りを見せる日向。なんだろう、何かあったのだろうか。


「そっか、まあいいや」

「う、うん、そ、そうだお兄ちゃん、お母さんがプリン買ってくれたけど食べる? 高梨さんが前に買ってきてくれたのと同じプリン」

「あ、食べようかな、あれおいしかった」


 日向がパタパタと台所へ行って、冷蔵庫からプリンを出してきてくれた。

 その時、僕のスマホが震えた。そうだマナーモードにしたままだった。画面を見るとRINEだった。送り主は東城さんだ。


『こんばんは! お元気ですか?』

『こんばんは、うん、今バイト終わって帰ったところ』

『そうでしたか、お疲れ様です! あ、今日日向さんと真菜さんと学校でお会いしました! 楽しかったー』


 ……へ? 日向と真菜ちゃんと、会った?

 まあ、同じ中学だというのは知っていたけど、どういうことだろう?


「日向、今日、東城さんと会ったの……?」

「え、え!? ななな何で!?」

「い、いや、今東城さんからRINEきて、日向と真菜ちゃんと会ったって……」

「あ、ああー……う、うん、今日昼休みに会いに行った……」


 そういえばカフェで、日向と真菜ちゃんが東城さんに会いに行こうと言っていたのを思い出した。


「そ、そっか、それはいいんだけど、何か話したのか?」

「え!? い、いや……その……秘密だよ! 女子の秘密!」

「え、あ、ああ、そっか……」


 三人で何を話したのかすごく気になったけど、日向は秘密と言って口を開いてくれなかった。

 その時、また僕のスマホに東城さんからRINEが送られてきた。しまった、東城さんに何も返信していなかった。


『あの、今度の土曜日、何か予定ありますか?』


 土曜日? バイトは日曜日に入っているし、特に予定はないなと思って返信する。


『ううん、特に予定はないよ。日向と真菜ちゃんと会ったって、何の話したの?』

『それは女子の秘密ですよ! 聞いちゃダメです』


 東城さんも教えてくれなかった。なんだろう、秘密って言われるとすごく気になるもんだな。でも仕方がない。

 そう思っていると、さらに東城さんからRINEが送られてきた。


『あの、今度の土曜日に、私たちメロディスターズのライブがあるのですが、ぜひ来てもらえませんか? 日向さんや真菜さん、この前ご一緒だったお友達も一緒に』


 ああなるほど、ライブのお誘いだったのですね。

 

 ……って、えええええ!?


『ええ!? そ、そんな簡単に、行けるものなの……?』

『大丈夫です! 私がチケットご用意して、学校で日向さんと真菜さんに渡しますので!』

『ええ!? なんか、申し訳ないというか……』

『ふふふ、気にしないでください! みなさんで来てもらえると私も嬉しいです!』

『そ、そっか、じゃあ、お言葉に甘えて……』

『はい! チケット用意できたら、学校に持っていきますね!』


「え? 東城さん、何か言ってたの?」

「あ、いや、今度の土曜日ライブに来てくれないかって……みんな一緒に」

「そっかー……って、えええ!? ら、ライブ!?」

「うん、チケット用意できたら、学校に持っていくから日向と真菜ちゃんに渡すって……」

「ええ!? い、いいのかな、そんな簡単に……」

「ああ、僕もいいのかなって言ったんだけど、みんなで来てもらえると嬉しいって」

「そ、そっか、じゃあ、行くしかない……のかな」

「う、うん……」


(そのうちライブにぜひ来てください~なんて呼ばれたりしてな)


 火野が言っていた言葉を思い出した。まさか本当にライブに呼ばれることになるとは……。

 でも、木下くんにメロディスターズの曲を聴かせてもらったけど、いい曲だったな。それが生で聴けるのか。


「そうだ日向、メロディスターズの曲、聴いてみないか?」

「あ、うん、聴きたい!」


 それから僕と日向はメロディスターズの曲を検索して、二人であれこれ言いながら聴いていた。

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