第45話「面会」

 昼休みになった。

 私は今日、とある計画を実行しようと思っている。それは――


「日向ちゃん、一緒にご飯食べよ」

「あ、うん、真菜ちゃんそこに座って」


 私の前の席が空いていたので、真菜ちゃんにそこに座ってもらった。


「いただきまーす、あ、真菜ちゃんのお弁当今日も可愛い! 作ったの?」

「うん、今日は作ってみたよ。お姉ちゃんの分も」

「すごいなー、真菜ちゃん器用だよねー、私も作ってこようかなぁ」

「日向ちゃんもできるんじゃない?」

「うーん、でも簡単なものしか作れないからなぁ」

「簡単なものでいいんだよー、私もそんなもんだよ」


 とても簡単なものとは思えないくらい、真菜ちゃんのお弁当は色とりどりで凝っていた。どれも美味しそうだ。


「そっかー、あ、真菜ちゃん、お昼食べ終わったらさ、ちょっと付き合ってくれない?」

「ん? 何かあるの?」

「うん、その……東城さんに会いに行ってみようと思って」

「ああ! お兄様のお友達の……! うん、行こう行こう」


 そう、計画とは、東城さんに会いに行くということだった。

 同じ中学の三年生ということをお兄ちゃんから聞いたし、ちょっとだけでもお話してみたいなと思った。

 私たちはお昼ご飯を食べて、三年生の教室へ向かった。三年生の教室は渡り廊下をはさんで向こう側にある。


「な、なんか三年生のところってドキドキするね」

「そ、そうだね……でも日向ちゃん、東城さんは何組なのか知ってる?」

「あっ……」


 そうだった、同じ中学というだけで、東城さんが何組なのか知らなかった。三年生は5クラスある。一クラスずつ聞いて回ってもいいが、ちょっと恥ずかしい。


「だ、誰かに聞いてみようか」


 とりあえず私は、廊下を歩いていた三年生に声をかける。


「す、すみません、三年生に東城さんっていると思うんですが、何組か知りませんか?」

「東城さん? ああ、たしか2組だったと思うよ」

「あ、ありがとうございます!」


 よかった、一発で分かる人に話しかけることができた。私はペコリとお辞儀をして、2組の教室を目指す。


「こ、ここだね……」

「う、うん……東城さんいるかな……」


 そう言って二人で教室をそっと覗き込む。いないのかな……と思っていたその時だった。


「あれ? 二年生の子?」


 後ろから一人の女子に声をかけられた。しまった、教室の入り口にいたから邪魔だったのだろうか。


「あ、す、すみません、あの、東城さんっていますか……?」

「東城さん? ああ、あそこにいるよ、おーい麻里奈、お客さんだよー」


 女子の呼びかけに気づいた東城さんがこちらにやって来る。東城さんは私より背が少し高く、髪はセミロングくらいの長さだったが学校では後ろでまとめてあり、とても可愛らしい人だった。


「お客さん? あ、こんにちは。……あれ? どこかで……」

「あ、あの! 私、お兄ちゃ……日車団吉の妹で、日車日向といいます!」

「わ、私は日向ちゃんの友達の、沢井真菜と申します。お兄様がお世話になっております」

「……ああ! 団吉さんの! 妹さんがいらっしゃるって言ってたけど、同じ中学だったんですね!」


 そう言って東城さんは私の手を取った。ちょっとぴょんぴょんしている姿が可愛いなと思った。


「そうか、日向さんと真菜さんは二年生なのですね」

「は、はい……あの、い、いきなり聞きますが、お、お兄ちゃんのことどう思っているんですか!?」

「ひ、日向ちゃん……!?」


 私がそう言うと、東城さんはきょとんとした顔をした後、「うーん……」と考えるような仕草を見せて、こう言った。


「団吉さんは、とても大切な人ですよ。私の大事なもの拾ってくださいました」

「……そ、それは、すすす好きということですか!?」

「うーん……まだよく分かりませんが、好きになるかもしれないですね」


 東城さんはふふふっと笑った。笑った顔も可愛いなと思った……って、違う違う、そうじゃない。


「お、お兄ちゃんには、大切な人がいます! こちらの真菜ちゃんのお姉さんで、絵菜さんです!」

「えっ?」


 東城さんは驚いた顔で私と真菜ちゃんの顔を見る。


「そうですか……団吉さんと絵菜さんは、お付き合いされているのですか?」

「え、い、いや、そういうわけではないのですが……」

「そうですか、じゃあまだ私にもチャンスがあるということですね」

「えっ!?」


 驚いた私の顔を見て、東城さんはまたふふふっと笑った。


「……なんて、本当にまだよく分からないんですよ。好きになっちゃうかもしれないし、そうはならないかもしれない。でも、団吉さんはとても優しくて、カッコいい人ですね」

「は、はい、お兄様はとても優しくて、カッコいいです……」

「ふふふっ、そうですね。すみません、私の気持ちが曖昧で、ちゃんとお答えできていませんね」

「あ、い、いえ、そんなことは……」

「そして、日向さんも真菜さんも、団吉さんのことが好きなんですね。だから心配して来てくれたんですよね」

「えっ!? い、いや、その……」

「隠さなくても大丈夫ですよ。私、日向さんと真菜さんともお友達になりたいです」


 そう言って東城さんは私と真菜ちゃんの手を取った。


「えっ、あ、はい……こちらこそ……」

「ふふふっ、可愛い妹ができたみたいで、私も嬉しいです。それと、今日話した内容は団吉さんには内緒にしておきましょうか。女子の秘密ってことで。私も恥ずかしいので」

「あ、はい、分かりました……」

「私からもお二人に会いに行きますね。……あっ、ちょっと呼ばれてるみたいなので、このへんで失礼しますね。じゃあ、また……」


 そう言って東城さんは手を振りながら教室の中に戻って行った。


「な、なんか、可愛らしくて、丁寧な人だったね……」

「…………」

「……日向ちゃん?」

「あっ、う、うん、そうだね、なんかとてもいい人……」


 カフェで会った時に言葉が丁寧だなとは思っていたけど、実際に話してもやっぱり丁寧だった。

 東城さんは気持ちが曖昧だと言っていたけど、お兄ちゃんはどう思っているんだろうかと、気になった私だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る