第40話「悔しい」
次の日、夏休み明けのテストが始まった。
朝から夕方までみっちりとテストで埋まっている。現代文、古文、数学、物理、化学、地理、英語を一日でやるから生徒としてはたまったものではない。テストの出題範囲は夏休みの課題が中心だが、それ以外に一学期に習った内容も含まれる。夏休みの課題を真面目にやっていれば何とかなりそうだなと思った。
「はー、やっと午前中が終わったな、もうやばいかもしれない……」
「私も、もうダメかもしれない……」
昼休みになり、火野と高梨さんが弱々しい声を出した。
「おいおい、まだ午後3教科あるよ」
「いやー、どれも難しくてさ……とりあえず昼飯で回復しようかな」
「そだねー、あ、せっかく4人近い席になったんだからさ、一緒に食べない?」
「おっ、そうだな、机くっつけて食おうぜ」
そう言って火野と高梨さんは机を動かす。
「ああ、絵菜も一緒にどう?」
「う、うん」
僕と絵菜も机を動かして、4人で向かい合った。僕の隣が絵菜になる。この4人でいることはクラスのみんなにも知られたようで、最初はみんな不思議な目で見てきていたが、最近は見られることも少なくなった。
それにしても、昼休みはダッシュで教室からいなくなっていた僕が、まさか友達と一緒に食べるなんて、信じられないなと思った。
「お、今日はみんな弁当か、俺はたまに売店で買ったり学食行ったりしてるけど」
「ああ、絵菜はお母さんが作ってくれたの?」
「いや、今日は真菜が作ってくれた。母さんめずらしく寝坊しちゃって」
「え!? 真菜ちゃんが作ってるのか、すげぇな」
そういえば絵菜と体育館裏でご飯食べた時も、お母さんか真菜ちゃんが作ってくれるって言ってたな。
「そういや、高梨さんは部活どう? 楽しい?」
「うん、楽しいよー、二学期は新人戦があるんだけど、どうにかベンチ入りできそうだよ」
「えっ、すごいね、二年の先輩もいるんだよね?」
「うん、もちろんレギュラー争いはあるけど、先輩も優しいし、私のスピードと高さが必要だって言ってくれてるよ」
「いいなー、俺もサッカー部入りたいなぁ、でもあの中川とは仲良くできなさそうだなぁ」
「陽くんは無理しないの! 足はどうなの?」
「ああ、だいぶ調子はいいよ、体育も普通にできるし。さすがに部活で毎日走り回るのはまだ無理かもしれねぇけど」
なるほど、火野は名前が陽一郎だから、高梨さんは陽くんと呼んでいるのか。ちなみにこの二人が付き合っていることは特に公言していないので、まだ気づいていない人の方が多そうだ。
「やっぱりサッカーが好きなんだなって、球技大会の時思ったよ。もう少し足がよくなったら、その時にでも部活入ろうかなぁと」
「まあ、球技大会ではカッコよかったからなぁ、火野は」
「う、うん、すごかった……」
「あはは、二人ともサンキュー、今もトレーニングはやってるからな、いつでも復帰できるように」
「もー、無理しちゃダメだって!」
高梨さんが怒ると、火野は「はーい、気をつけます」と返事をした。うん、火野がそのうちサッカーできるようになるといいなと思った。
* * *
数日後、テストの結果が全部出揃った。
僕は今回は学年で6位だった。定期テストよりひとつ順位が上がった。数学はもちろん100点だったが、物理が思ったより難しくちょっと苦戦した。平均点も低かったので怖い先生が難しい問題を出したのかもしれない。
「げっ、団吉6位ってすげぇな! 俺は140位だった……前回より落ちてしまったよ……」
隣から覗き込んできた火野が悲しそうな声を出した。
「今回物理が難しかったからなぁ、でもやっぱり半分よりは上じゃないか」
「そうなんだけど、物理難しかったよなぁ、手も足も出なかったぜ……」
「なになに、日車くん6位なの? さすがだねー、私は105位だったよ。ちょっと上がったかな」
後ろから高梨さんが嬉しそうに話しかけてきた。
「ええっ!? ガーン、また負けた……くそぅ、この戦、俺は勝てないのか……」
「いやいや、だから戦ってなんだよ……」
「絵菜はどうだったー? ……って、ええっ!? また100位!?」
「な、なんだってー!? ま、また俺が一番下なのか……」
また二人が勝手に落ち込み始めた。絵菜も物理には苦戦したようだったが、前回課題だった英語の点数が上がっていた。
「あ、絵菜、英語頑張ったね、よくできてる」
「う、うん、団吉に分かりやすく教えてもらったから……その、ありがと」
「ろ、6位ですって……?」
僕の右隣から何やら震えた声が聞こえてきた。見ると大島さんがプルプルと震えていた。
「え、あ、うん、そうだけど……」
「なんで……なんであなたに勝てないの……」
「え、お、大島さんはどうだったの?」
「私はまた10位よ……物理が、物理が足を引っ張った……」
「い、いや、物理は今回難しかったから仕方ないよ、それに10位でも立派なのでは……」
「このクラスで一番のあなたに勝てないと意味がないのよ……こんなはずじゃなかったのに……次こそは……」
僕の精一杯のフォローも全く意味がなかった。ダメだこりゃ、今は色々言わずそっとしておくのがよさそうだ。
「なんか……大島震えてないか?」
「あ、いや、大丈夫、今はそっとしておこう……」
「あ、そだそだ、今度の土曜にみんなでここ行かない? テストお疲れさま会ということで。私も部活休みだしさー」
そう言って高梨さんがスマホを見せてくる。そこには駅前から歩いて5分くらいのところに新しくできたカフェのページが映っていた。
「おー、新しくできたのか、駅から歩いて行けるな、行こう行こう」
「カフェか、なんかオシャレだね。絵菜は行ける?」
「あ、うん、特に予定ないから大丈夫」
「よし、決まりだね! あ、よかったら日向ちゃんと真菜ちゃんも呼んだらどうかなぁ? 女の子は喜ぶと思うよー」
「それって……一番喜んでるの高梨さんなのでは……」
「あ、バレた?」
高梨さんがテヘッと舌を出した。まあ、たしかに喜びそうだし、一応日向にも聞いてみるか。
その日大島さんは僕と口を利いてくれなかった。そんなに悔しかったのかな……。
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