第39話「席替え」
とても濃い夏休みが終わって、二学期が始まった。
学校に行くのもなんだか久しぶりだ。9月になったがまだまだ外は暑く、日差しも強い。
久しぶりに着る制服がどこかぎこちなく感じた。こんなものだったっけ……。
今日は全体の始業式と、クラスでのホームルームのみなので午前中で終わるが、うちの高校はなんと明日はテストがある。定期テストではなく、夏休み明けにはこのテストがあるのが伝統らしく、先生曰く夏休みサボった奴はここでバレるとのことだったが、課題は全部ちゃんと終わらせたし大丈夫だろう。
そういえば昨日火野がグループRINEで『ぎゃー、明日から学校だ!』なんて叫んでいたが、もしかして課題が終わらなかったのだろうか。
「よう、おはよう、早いな」
教室に入ると火野がもう来ていて、話しかけてきた。
「ああ、おはよう、なんか早く起きたんで、早めに来てみた」
「そっか、俺もだ。あー休みが終わっちまったな、寂しいような」
「まあそんなもんだ。そういえば課題は終わったのか?」
「ああ、なんとかな。団吉のおかげで古文と数学はバッチリだったんだが、物理が最後まで残っちまってな……物理の先生怖いからヒヤヒヤしたぜ」
ああ、そういえば……と言って火野が話題を変える。
「東城さんには連絡したのか?」
「あ、ああ、RINE送ってちょっと話した。落としたのはお母さんの写真と形見だった。あと、アイドルやってるって……」
「あ、アイドル!? へぇーすげぇな」
「メロディスターズっていうアイドルグループに所属しているらしい。まだ地方で活動しているみたいだけど、ライブとかやってるのかも」
「そっかー、年下なのにすげぇな。そのうちライブにぜひ来てください~なんて呼ばれたりしてな」
「えっ!? ま、まぁ、なくはない……のかな、よく分からんが」
「やっほー、なになに、何の話してるの?」
急に話しかけられてビクッとした。高梨さんがニコニコしながら僕たちを見ている。隣には絵菜もいた。
「あ、ゆ、優子か、いや、何でもない……」
「えー、何か二人で話してたじゃん、なになに?」
「あ、い、いや……ひ、火野が物理の課題に苦戦したって言ってて……」
「ああ、そうそう、物理難しくてさ……」
「あー、物理はたしかに難しかったね、私も苦戦したよ。絵菜はどうだった?」
「物理は後に残るのが嫌だったんで、最初に終わらせた……でもかなり難しかった」
「おーい、始業式あるんで、そろそろみんな体育館に移動してくれー」
先生の一言で、みんなが体育館に移動し始める。よかった……なんとか絵菜と高梨さんにバレなかった。でもなんか隠し事があるみたいで後ろめたい気持ちになるな……。
* * *
「よーし、二学期も始まったことだし、席替えでもやるかーどうだ!」
ホームルームで、うちのクラスの担任、
「くじを用意してきたから、出席番号順に引いていってくれー」
出席番号順か、僕は日車の「ひ」だからけっこう後ろの方だ。まあ、残り物には福があるという言葉を信じることにしよう。
うちのクラスは40人で、窓側から1列6人ずつ座ることになっている。一番端の廊下側は4人だ。窓側から順に1番、2番……というように番号が振り分けられている。
せっかく席替えをするなら、火野や絵菜や高梨さんと近い席がいいなと思った。話せる人が近い方がありがたい。
「沢井は12番だなー、よし次ー」
4人の中で一番早い絵菜が引いた番号は12番だった。窓側から2列目の一番後ろだ。ということは、窓側の6番、3列目の18番あたりだと絵菜の隣になるからいいなとぼんやりと考えていた。
「高梨は6番だなー、よし次―」
高梨さんが引いた番号は6番、窓側1列目の一番後ろだった。あれ? ということは絵菜の隣だ。
「次ー、日車ー」
僕の番が回ってきた。18番はまだ埋まっていない。僕はおそるおそるくじを引く。
「日車は11番だなー、よし次ー」
あっ、18番じゃなかった。絵菜の隣じゃないのか……って、あれ? 11番ということは、絵菜の前だ。
「火野は5番だなー、よし次ー」
出席番号で僕の次の火野は5番、窓側1列目の後ろから2番目だ。あれ? ということは僕の隣で、高梨さんの前だ。
「おい団吉、次は隣だな! ……って、よく見たら俺らの後ろって優子と沢井じゃね?」
後ろから火野が話しかけてくる。そう、僕たち4人はなんと窓側の後ろに固まる形となった。こんな偶然あるのかとびっくりしてしまった。
「みんな決まったな、じゃあ移動してくれー」
先生が言ってみんなワイワイと移動を始める。なんとなく話せる人が一人でも近い方がいいなと思っていたが、まさか4人が集まるとは思わなかった。
「やっほー、なんかみんなうまいこと集まったね、こんなこともあるんだねぇ」
「ああ、びっくりした、みんなの日頃の行いがいいんだな! 団吉の隣だから、分からないことあったら聞きまくれるぜ」
「私も近いから聞けるー、いやーいいもんだね!」
「いやいや、ちゃんと授業に集中しようよ……」
ふと後ろを見ると、絵菜が耳を赤くしながら、
「だ、団吉の後ろだ……よかった」
と、ぽつりとつぶやいた。
「うん、絵菜も近くてよかったよ」
そう言うと絵菜は「うん」と言って頷いた。なんか楽しくなってきたなと思って前を向くと、何やら視線を感じた。
「日車くん隣になったわね、よろしくね」
そう言われて右を見ると、なんと大島さんが座っていた。僕の左隣は火野だが、右隣は大島さんになった。
「あ、大島さん、隣になったんだね、よ、よろしく……」
「ふふふ、明日のテスト、負けないわよ。絶対に……」
そうだ、明日はテストだった。楽しいなって言っている場合じゃなかった。なんか大島さんの負けないオーラみたいなものが見えた気がした。
う、うーん、テストで闘争心出されてもな……僕は適当に頑張ろうと思った。
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