第36話「火野の想い」

 俺は、人生で一番緊張していた。

 今日は花火大会の日。今までなんとなく言えないでいたが、今日は違う。高梨に、自分の気持ちを伝えようと思っている。

 これまで4人で仲良くやってきたので、もしフラれたらと思うと怖くて何も言えないでいた。でも、このままじゃいけないような気がした。

 ちなみに団吉と色々話している中で、高梨は今彼氏はいないということを聞いた。でも高梨は美人で人気もある。イケメンの男が放っておくはずがない。団吉は大丈夫だと言ってくれたが、俺はちょっと焦りのようなものも感じていた。

 何と言おうかなどと考えているうちに、河川敷までやって来た。まだ誰も来ていないようだ。

 

(い、いつも通りだ、自然に、自然に……)


「あ、ひ、火野くん、やっほー……」


 声をかけられて振り向くと、高梨が浴衣姿で立っていた。めちゃくちゃ綺麗でなかなか直視できなかった。

 

「お、おっす、早かったな」

「う、うん、早く着いちゃった。日車くんたちはまだ?」

「あ、ああ、まだ来てないみたい」


 所々言葉に詰まってしまう。い、いつも通り自然に話すんじゃなかったのか……どうした俺。

 

「た、高梨、浴衣似合ってるな……」

「あ、ありがとー……その、火野くんも、か、カッコいいよ」

「そ、そうか、サンキュー……」


 自分の顔がどんどん熱くなっていくのが分かった。やばい、この空気に押しつぶされそうだ。

 

「あ、あれ日車くんたちじゃない?」

「え、あ、ほんとだ、おーい!」


 団吉たちに手を振った。向こうも気がついたらしく、こっちにやって来る。団吉たちが来てくれてありがたいと思った。

 ……って、そんなんじゃダメだ、しっかりしろ俺。

 

「おーっす、さすが花火大会だな、人多いなぁ」

「やっほー、みんな揃ったね……あ! 日向ちゃん可愛いー! 真菜ちゃんも可愛いー!」


 そう言って高梨は二人の頭をなでていた。そういえばこの前日向ちゃんに会った時から高梨のテンションが高かった。年下の女の子が好きなのだろうか。ま、まあ、イケメンの男が好きっていうよりはいいよな……。

 沢井の妹さんとは初めてだったので、挨拶をした。真菜ちゃんというのか、礼儀正しい子だった。ちょっとだけ赤くなっていたのは気のせいだろうか。

 高梨は変わらずテンションが高く、日向ちゃんと真菜ちゃんを連れて出店の方へ行ってしまった。沢井が高梨は一人っ子だから年下の女の子が好きなのかもしれないと言っていた。そうか一人っ子なのか……。

 そう思っていると、団吉が話しかけてきた。

 

「そういや火野、僕たちはそのうち離れるから、その後は頑張れよ」

「え!? い、いや、さ、沢井が聞いてる……」

「さっき来る時に話したから大丈夫。日向と真菜ちゃんも連れて行くから」

「そ、そうか……な、なんか緊張するけど、頑張るよ」


 やばい、緊張が一気に押し寄せてきた。こういう時こそ平常心で……。

 高梨と日向ちゃんと真菜ちゃんが戻ってきてすぐに、花火が打ち上がり始めた。色とりどりの花火が夜空を照らす。

 しばらくボーっと眺めていると、いつの間にか団吉たちがいなくなっていることに気がついた。そのうち離れると言っていたけど、本当だったのか。高梨と二人きりになる。俺の心臓はドキドキがおさまらなかった。

 その時、俺のスマホが震えた。RINEの送り主は団吉だった。

 

『あとは、頑張れ』


 俺は心の中で「おう」と返事をした。

 

「きれいだねぇ……」

「あ、ああ、そうだな、迫力あるな」

「うん……あ、あれ? 日車くんたちがいない?」

「ああ、ちょっとトイレ行くとか言ってたような」


 チャンスは今しかない。俺は覚悟を決めた。

 

「あの……さ、高梨」

「ん?」

「聞いてほしいことが、あるんだけど」


 俺は高梨の方を向いて、高梨の綺麗な目をしっかりと見た。


「その、俺、高梨のことが……好きです。よかったら付き合ってくれませんか?」


 言った。ついに言った。

 初めて自分から告白した。告白を受けたことはあったけど、告白をするのはこんなに緊張するものなのか。足が少し震えていた。

 返事を聞くのが怖かった。もしかしたらフラれるかもしれない。でも、それでもいいと思った。

 高梨は驚いたような顔をしていたが、俺の目を見て答えてくれた。

 

「……はい、私も火野くんのことが好きです。こんな私でよければ、付き合ってください」


 いつもの「やっほー」という軽い感じではなく、しっかりと、自分の言葉で答えてくれた。

 ……え? 今火野くんのことが好きって言った? え? 本当に?

 

「……どうしたの?」

「あ、い、いや、フラれるんじゃないかと思ってたから、その、びっくりしているというか……」

「ふふっ、火野くん好きだよ、大好き」


 高梨はそう言うと、俺の手を握ってきた。

 

「私もね、ずっと言いたかったけど、フラれるんじゃないかと思って怖かったんだ。だから、言ってくれて嬉しかった」

「そ、そっか……俺たち同じこと思っていたんだな」


 俺が思わず笑うと、高梨もクスクスと笑っていた。

 その後、団吉たちが戻ってきて祝福された。日向ちゃんと真菜ちゃんが「おめでとうございます!」とハモって言うのが可愛かった。

 

 ドーン、ドーン――

 

 一段と大きな花火が打ち上がった。俺はそれを見て、勇気を出して言ってよかったなと思った。

 同じように花火を見ていた団吉に話しかける。

 

「次は、団吉の番だな」

「ええ!? ま、まぁ……うん、そうだといいな」

「なんだよ、待ってる人がいると思うんだけどなー」


 団吉には本当にお世話になりっぱなしだ。こいつが友達で本当に良かった。

 それにしても団吉の奴、気づいてないのかな? まぁ、団吉にもこういう時が来たら、俺はちゃんと支えてあげたいなと思った。

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