第35話「これからも」

 もうすぐ花火があがる時間になろうとしていた。

 出店巡りをしていた高梨さんと日向と真菜ちゃんが戻ってきた。わたあめだけでなく、手には色々持っている。


「えっ、まさか高梨さんこれ全部……?」

「そそ、二人のためならねー。みんなの分も買って来たから、食べよー」

「ええっ、ご、ごめん、日向、ちゃんとお礼言ったか?」

「うん、言ったよー、ありがとうございます高梨さん」

「ああ、いいのいいの、気にしないでー。お姉さんに任せておいて、ふふふふふ」

「高梨さん、やっぱりちょっと怖い……」


 ドーン、ドーン――

 

 花火が打ち上がり始めた。色とりどりの花火が、夜空を明るく照らす。

 大きな音に最初はびっくりしていた日向と真菜ちゃんだったが、綺麗な花火を見て笑顔になっていた。

 

「お兄ちゃん、やっぱり迫力あるねー」

「ああ、日向も何度か来たことあるだろ?」

「そうだけど、みんなで来るとやっぱり楽しいなーって思って」

「ああ、そうだなぁ」


 ドーン、ドーン――

 

 きれいな花火だなぁ……って、見とれている場合じゃない。ここはそろそろ……と思って、絵菜に話しかける。

 

「そろそろ、あの二人を二人きりにしようと思うんだけど」

「あ、ああ、分かった」


 絵菜に伝えた後、僕は日向の手を取り、絵菜は真菜ちゃんの手を取り、「ちょっと場所変えよう」と伝えてそっとその場から離れた。

 

「え? お兄ちゃんどうしたの?」

「お姉ちゃん? お兄様?」

「ごめんね、あの二人、大事な話があるから」

「大事な話?」

「うん、火野がね、高梨さんに自分の気持ちを告白するんだ」


 日向と真菜ちゃんが「ええ!?」と驚きの声を上げた。僕はスマホを取り出し、火野にRINEを送る。

 

『あとは、頑張れ』


 そのRINEが既読になるのを見て、僕はもう一度心の中で頑張れと祈った。



 * * *



 しばらく僕と絵菜と日向と真菜ちゃんの4人で花火を楽しんでいたら、僕のスマホが震えた。RINEの送り主は火野だった。


『サンキュー! もう戻ってきても大丈夫だ』


「火野が戻ってきても大丈夫だって言ってるけど、どうする? また合流する?」

「うん、火野さんと高梨さんがどうなったか知りたい!」

「はい、私も知りたいです」

「い、いいのかな……二人にしなくて」

「どうだろう、大丈夫って言ってるから、問題ないんじゃないかな……」


 たしかにここで戻っていいのかなと思ったが、どうなったか知りたいのは僕も一緒だったので、火野と高梨さんの元へと移動した。

 火野がこちらに気づいて右手を振っている。よく見ると、左手は高梨さんの手を握っていた。

 

「あ、もしかして……もしかするのか?」

「ああ、なんとか自分の気持ちを伝えることができたよ」

「そうかそうか、二人ともおめでとう! ……と言うのは変なのかな、ごめん、こういう時どう言えばいいのか分からなくて」

「あはは、サンキュー! これも団吉のおかげだよ」


 そう言って火野が右手を出してきたので、僕は固く握手した。

 

「高梨さん、よかったね」

「え、えへへ……なんだか恥ずかしいけど、うん、嬉しい。日車くん色々ありがとね」

「よ、よかった……ドキドキした」

「あはは、絵菜もありがとね」

「「おめでとうございます!」」


 日向と真菜ちゃんがハモって同じ言葉を言うので、みんな笑った。

 

「もう! 二人とも可愛いんだからー! ありがとー。日車くん、絵菜、二人とも私にもらえないかしら!?」

「ふええ!?」

「ええっ!?」

「た、高梨さん落ち着いて……やっぱりそれは無理があると思う……」

「うん、それは無理だと思う……」


 僕と絵菜がそう言うと、高梨さんは「えー、やっぱりダメかー……」と残念そうな声を出した。本当に年下の女の子が好きなのね……。

 

「ま、まぁ、付き合うことにはなったんだけどさ、団吉も沢井も、そして日向ちゃんも真菜ちゃんも、これまで通り仲良くしてもらえるとありがたいなーと思ってさ」

「そそ、これまでも、そしてこれからもよろしくって感じで、どうかな?」

「ああ、もちろん、これからもよろしく」

「ああ、私も、よろしく」


 火野がグータッチしようと手を出してきたので、みんなでグータッチした。なんだか球技大会の時を思い出す。そういえばあの時高梨さんは火野のカッコよさに惚れてしまったんだっけ。

 

 ドーン、ドーン――

 

 一段と大きな花火が打ち上がった。まるで二人を祝福しているようだなと思った。

 

「次は、団吉の番だな」


 火野がこっそりと僕に話しかける。

 

「ええ!? ま、まぁ……うん、そうだといいな」

「なんだよ、待ってる人がいると思うんだけどなー」


 そう言って火野はケラケラと笑った。

 もしそういう時が来たとして、僕は火野みたいにちゃんと自分の気持ちを言うことができるのだろうかと、少し心配になった。

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