第32話「課題」

 夏休みのある日、家で課題を片付けていると、スマホが鳴った。どうやらグループRINEのようだ。

 

『団吉ぃ~、夏休みの課題が終わらねぇよぉ』

『あー私も! 分からないところが多すぎるー!』

『私も』


 三人とも課題忘れずにやっているんだな……と思ったが、どうやらあまり進んでいない様子。

 返信をどうしようか迷って、とりあえず提案してみた。

 

『そうか、じゃあみんなで集まってやるか?』

『おお、団吉先生、お助けを~!』

『私もお助けを~!』

『私も』


 さっきから絵菜は『私も』しか言ってないなと思って笑ってしまった。みんなで勉強か……場所をどうするかなんだが、図書館などではあまり声を出せないから、教えることができないなと思った。学校でもいいけど、この暑い中に学校というのもなんだかなぁ。

 うーん……と考えて、ひとつひらめいた。

 

『そうだなぁ、じゃあうちでやるか? リビングとテーブル使えば4人座れないこともないし』

『えっ、いいのか? 団吉ん家久しぶりだなー! 日向ちゃんいるのか?』

『夏休みだからたぶんいると思うよ』

『えっ、なになに、日車くん妹さんいるの? 会いたーい!』

『よっしゃ決まりだな! 明日でも大丈夫か?』

『ああ、母さんは仕事だし、僕はバイト休みだから大丈夫。じゃあ1時頃駅前集合でいいか?』

『了解! おやつ持ってくぜー!』

『あ、私もなんか持ってくー!』


 ……あれ? 絵菜からRINEが来ないなと思っていたら、個別にRINEが送られてきた。

 

『また行くことになった……』

『ああ、ごめん、ちょっと遠回りだけど、駅前まで来てくれる? 迎えに行くよ』

『うん、分かった、楽しみにしてる』


 直接来てもらってもよかったけど、みんなに『なんで?』と思われるのも嫌かなと思って、絵菜も駅前に来てもらうことにした。

 ま、まぁ、RINEの時と同じくバレるかもしれないけど……。

 

 

 * * *

 

 

 次の日、僕は1時に間に合うように駅前へ向かった。

 高梨さんが『ごめん! 電車遅れてて5分くらい遅れるー!』と言っていたので、まぁのんびり行けばいいかと思っていたが、1時よりも早く着いてしまった。

 とりあえず座って待つかと思って日陰のベンチに腰掛けていたら、火野がやって来た。

 

「おーっす、早いな、俺も早く着いてしまったが」

「ああ、さっき来たとこ」

「高梨は遅れるって言ってたな、沢井はどうだろうか」

「どうだろう、歩いて来るからそんなに遅れないとは思うけど」


 火野と二人になったので、そういえばと思って話しかける。

 

「そういや、高梨さんにはまだ気持ちを伝えてないのか?」

「あ、ああ、なかなかタイミングがなくてな……RINEでたまに話したりはするんだけど」

「そっか、まぁ焦ってもいいことないしな」


 心配しなくても君たちは両思いですよと言いたくなるところを、ぐっと我慢した。やっぱりこういうことは他の人が言ってはダメだ。


「でも、今度花火大会あるじゃんか? そ、その時に誘って、思い切って言おうかなと思って……」

「おお、そうか、うん、いいタイミングなんじゃないか?」

「そうだよな、そ、それとさ、その花火大会に団吉と沢井も来てもらいたいというか……」

「ええ!? そこは二人じゃないのか」

「い、いや、最初は二人もいてもらった方が安心するというか……頼む! この通り!」


 そう言って火野は頭を下げてきた。

 

「う、うーん……分かったよ、行けるようにするよ」

「そ、そうか! ありがとう!」

「あ、二人ともいた……」


 突然声をかけられて、僕と火野は同じようにビクッとしてしまった。気がついたら絵菜がいた。

 

「あ、さ、沢井か、おっす。あとは高梨待ちだな」

「あ、ああ、そうだな、もう少ししたら来ると思うが」

「……?」


 少し慌てる二人を不思議そうな目で見る絵菜。聞かれたかな……いや、別に聞かれても悪いことではないけど。いつかは分かるんだし。

 それから5分くらい経って高梨さんがやって来た。なぜか大きめのリュックを背負っている。

 

「やっほー、ごめーん! 遅れたー!」

「いや、大丈夫……だけど、高梨さん大荷物だね」

「そそ、全教科分持ってきたからねー、この際だからいろいろやっつけてしまおうと思って。あとお菓子と、プリン買ってきたよー」

「マジかー、俺は古文と数学しか持ってこなかったわー、沢井は?」

「私は、数学と英語持ってきた……」

「まあまあ、ひとつでも終わらせたらいいんじゃない? じゃあ行こうか」


 僕と絵菜、火野と高梨さんに分かれて歩き出した。家までは歩いて15分くらいだが、やっぱり今日も暑い。昼間の日差しはきついものがある。

 僕は後ろの二人に聞こえないように、絵菜に話しかけた。

 

「そういえばさ、今度の花火大会、火野がみんなで行かないかって言ってるんだけど、絵菜はどう?」

「えっ、ああ、うん、たぶん行けると思う」

「そっか、よかった。たぶん火野からみんなに声かかると思うから」

「うん、分かった」


 それにしても、ついに火野も気持ちを伝える気になったか。うまくいくといいな。いや、うまくいくはずだけど。

 そんなことを考えていると、また胸がチクリと痛んだ。

 

(やっぱり、この感じは……)

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