第25話「一緒に」

 夕飯を食べ終わった僕は、自分の部屋でスマホを手に取った。

 お風呂に入る前に沢井さんにRINEを送っていたので、何か返事が来ているかなと思って見てみたら、

 

『うん、分かった』


 と、RINEが送られてきていた。

 

『ごめん、ご飯食べてきたよ。何か用事あった?』


 昼にスーパーで会った時に何か言いたそうな感じだったので、その時のことを思い出しながら聞いてみた。

 すると、1分もしないうちに返事が返ってきた。

 

『今度の日曜日、空いてる?』


 日曜日? その日はバイトもないな……特に用事もないので、

 

『うん、空いてるよ』


 と、返信してみた。すると今度は2、3分くらい経ってからRINEが来た。

 

『あの、もしよかったら一緒に出かけないか?』


 あーなるほど、一緒にお出かけのお誘いだったんですね。

 

 …………。

 

 ……って、えええええ!?

 

(い、一緒に出かけないか? これって、二人でってことだよね? みんなで出かけるんだったらグループRINEの方で言うだろうし、二人でってことは、それって……)


 頭の中でぐるぐると考えてしまった。どんなに考えても出てくることはただひとつ。

 

(これ……ででで、デートになるんだよな……?)


 プルプルと少し手が震えてきた。何と言って返信しようか迷っていたら、突然スマホが鳴った。RINEの通話がかかってきたからだ。相手はもちろん――

 

「も、もしもし」

「もしもし……」


 電話の向こうから沢井さんの声が聞こえる。

 

「あ、ど、どうしたの?」

「あ、ごめん、既読ついたけど返事がなかったから、どうかしたのかなと思って……」


 しまった、ぐるぐると考えすぎて返事が出来ないでいたのだった。

 

「あ、ごめん! ちょっと考え事していて……」

「そ、そっか、その……あの、や、やっぱり、嫌……か?」


 沢井さんがおそるおそる聞いているような感じがした。

 

「い、いや、そんなことないよ! うん、日曜は空いてるし、その……嬉しい、です」

「そ、そっか、よかった……」


 そこまで話して、少しだけお互い無言の時間が流れた。あれ? 前通話した時もあったような。

 

「……でも、私なんかと一緒でいいのか?」

「え? う、うん、もちろん。沢井さんこそ、僕なんかと一緒でいいの?」

「うん、日車と、一緒に……いたく……て」


 最後の方の声が小さくて、よく聞き取れなかった。

 

「そ、その、観たい映画があって、一緒にどうかなと思って」

「あ、映画か、いいね、行こう行こう」

「隣町のあの大きなショッピングモールでいいか?」

「うん、大丈夫。そしたら駅前に11時くらいに集合でいいかな?」

「うん、分かった」


 沢井さんが続けて、「その、あの……」と何か言いたそうにしていたので、待つことにした。

 

「その……ありがと、楽しみにしてる」

「うん、僕も楽しみにしてるよ」

「うん……じゃあ、また……あ、またRINEしていいか?」

「うん、いいよ、僕も送るね」


 通話が終わると、先程よりもさらにドキドキが増してきた。

 

(や、やばい、女の子と二人で出かけるなんて初めてだ、そ、そうだ何着ていけばいいんだろうか、いつも安い服しか着てないし、そんなオシャレな服なんて持ってないような……)


 大慌てで僕はタンスの中を色々と漁る。出てくるのはいつも着ているシンプルな服ばかりだったが、一着だけ、ちょっとオシャレかな? と思う服が出てきた。

 

(これでいいかな……うーん、服を買ったほうがいいのだろうか……)


 コンコン。

 

 突然部屋のドアをノックする音が聞こえてドキッとした。「はい」と言うと、

 

「お兄ちゃんどうかした? なんかガタガタ音がしてたけど……って、どうしたの服がいっぱい出てるけど」


 と言って日向が部屋に入ってきた。

 

「あ、いや、その、オシャレな服なんて持ってたっけと思ってな」

「オシャレな服? なに、デートでもするつもり?」

「あ、ああ……どうやらそうなってしまったみたい」

「あはは、そっかデートか……って、ええ!? でででデート!?」


 最初にデートって言ったのは日向なのに、なぜそんなに驚くんだ……。

 

「え、で、デートって、だ、だだだ誰と!? 火野さん!?」

「なんで火野とデートになるんだよ……さ、沢井さんだよ」

「え、え!? さ、さささ沢井さんと!?」

「ああ、なんか映画観に行かないかって誘われたから……って、それデートだよな? 僕の勘違いか?」

「え、映画って、デートじゃんそれ……」


 そこまで言った日向が、今度は頬をぷっくりと膨らませてこちらを見ている……かと思ったら、突然抱きついてきた。

 

「な、なんだよ日向」

「……やだ、お兄ちゃん行かないで」

「なんでだよ……もしかして寂しいのか?」

「そ、そんなこと……ないもん……」

「分かったよ、日向とも一緒にデートするから、な?」

「うん……そして、私に沢井さんをちゃんと紹介して」

「あ、ああ、分かった、機会があればな」


 くっついて離れない日向の頭を、僕はそっとなでてあげた。

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