第24話「バイト」

 夏休みのバイトが始まった。

 近所のスーパーで品出し、レジ、清掃などを行うことになっていた。初日から優しい先輩が色々と教えてくれた。

 なぜこのスーパーにしたのかと言えば、高校生でも雇ってくれて家から近かったからというそれだけだったが、店長もいい人そうだったし、先輩も優しくてここにしてよかったなと思った。けっこう単純なものである。

 

「高校生? 若いのに偉いわねぇ、うちの子も見習ってほしいくらいだわ」


 休み時間にパートのおばちゃんと一緒になり、色々と話した。僕と同じくらいの歳の子がいるらしく、いつも遊んでばかりでちっとも勉強しないと嘆いていた。勉強と言えば夏休みの課題もけっこう出たが、そちらは集中して取り組んでさっさと終わらせようと思っている。

 

「よう、勤労少年。頑張ってるかー?」


 床の清掃をしていたら、後ろから声をかけられた。振り向くとそこには火野と沢井さんと高梨さんがいた。

 

「え!? なんでみんないるの」

「いやー、働きぶりを見に来ようと思ってさ、沢井と高梨にも声かけたら、行きたいって言うからみんなで来てみた」

「そだよー、日車くん頑張るねぇ。私は夏休みを満喫……と思わせて、部活に入ったから大変だよー」

「あれ? 高梨さん部活に入ったの?」

「そそ、バスケ部に入らないかって勧誘されてねー。球技大会で目立ちすぎたかな」


 たしかに球技大会では高梨さんは大活躍だった。そういえばバスケ部の子が隣のクラスにいたな……と思い出した。

 

「そっか、遊んでる暇ないね」

「まぁね、でも楽しいからいいかな。先輩も同級生も優しいし、やりがいがあるよ」

「いいよなぁ、俺も怪我がなかったらサッカー部入ってるんだけどなー」

「火野くんは無理しないこと! 球技大会で頑張り過ぎだよ」


 高梨さんに言われて、火野ははいはいと返事した。二人ともいつもと同じように接しているみたいで安心した。

 

(でもこの二人、ずっと自分の気持ちを相手に伝えないままなのかな……それももったいないよな)


「あら、お友達?」


 休み時間に一緒になったパートのおばちゃんが話しかけてきた。

 

「こんにちは! はい、友達が頑張っている姿を見に来ました」

「あ、すいません、話してしまって」

「いいのよ、今お客さん少ないから大丈夫よ。もう少ししたら多くなる時間だけどね。日車くん清掃終わったら裏に来てくれる?」

「はい、分かりました」


 いいわねー若いって、とおばちゃんは笑いながら裏の方へ行った。

 

「じゃあ、そろそろ俺たちは行くわ、頑張ってな」

「ああ、ありがとう」


 火野と高梨さんが手を振りながら帰ろうとしていたところ、沢井さんが僕に近づいてきた。

 

「あ、後でRINE送っていいか?」

「あ、うん、いいよ、大丈夫」

「ありがと……その、頑張って」

「うん、ありがとう、もう少し頑張るよ」


 それだけ言うと、沢井さんは火野と高梨さんの元へ走っていった。

 

(何だろう? 何か言いたかったのかな……)



 * * *



「お疲れさまでしたー」


 夕方になり、僕は従業員のみなさんに挨拶をして外に出た。まだまだ日差しが残っていて暑さを感じる。

 バイト中はずっとカバンの中に入れていたスマホを取り出し、RINEを確認する。四人のグループRINEに色々とメッセージが届いていた。

 

(なるほど、ここで三人で話し合って来たんだな)


 三人のやりとりが面白くて見ていると、沢井さんから個別にRINEが来ていることに気がついた。

 

『お疲れさま』


 RINEが送られてきた時間を見ると5分くらい前だった。

 

(帰ってから沢井さんに返信してみるか……)


 返信は帰ってからすることにして、僕はポケットにスマホを入れて歩き出した。スーパーから家までは歩いて10分くらいだが、この10分でも外を歩くとじわじわと汗をかいてくる。早く帰ってシャワーでも浴びたいなと思った。

 

「ただいまー」


 家に着くと着ていたシャツが汗で濡れていた。夏は嫌いではないが、この暑さはどうにかしてほしいと思う。

 

「あら、おかえりー」

「お兄ちゃんおかえりー」


 母さんと日向が夕飯の準備をしているところだった。お肉が焼けるいいにおいがする。

 

「団吉、初めてのバイトはどうだった?」

「まぁ、それなりに忙しかったけど、あっという間だったかな。みんな優しくて安心したよ」

「そう、無理しすぎないようにね」

「お兄ちゃんの初めてのバイト代で、何買ってもらおうかなー」

「なっ、お前、人が頑張って働いてるというのに……」

「ふふふ、安いものにしておくから、お願い~」


 日向が僕の右腕に絡みついて甘えた声を出してくる。こいつ、そのうち彼氏ができたらこうやって甘えるのだろうか……。

 

「えー、お兄ちゃんだからお願いしてるんだよー」

「なっ!? 人の心が読めるのかお前……」

「ふふふ、顔に書いてあるよー」


 そう言って日向は僕の頬をツンツンと突いてくる。なんだこの妹は……恐ろしいなと思った。

 

「団吉、先にお風呂に入ってきたら? 汗かいたでしょう」

「あ、ああ、そうするよ」


 絡みつく日向をなんとか引き離し、母さんに言われた通り僕はお風呂に向かう……前に、沢井さんにRINEを送ろうとスマホを取り出した。

 

『今日はありがとう。ごめん、お風呂とご飯の後にまた連絡します』


 送ったのを確認して、僕はお風呂へと向かった。

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