第23話「相談再び」

 今日は終業式の日。長かった一学期も終わり、明日から夏休みとなる。

 長い休みを迎えるということで、素直に喜ぶ者、山のように出た課題に頭を抱える者、部活に力を入れようとする者、クラスメイトの色々な反応が見られた。

 僕は夏休みは近くのスーパーで短期のアルバイトをすることにしている。たまたま募集を見つけ、高校生でも本当に大丈夫だろうかとおそるおそる応募してみたら、面接をしてくれた店長がとても明るくいい人で、「ぜひ来てくれ」と強く言ってくれたのでお世話になることにした。

 こんな僕でも頼ってくれる人がいるんだな……と、なんだか嬉しくなった。

 

「よう、帰ろうぜ」


 後ろの席から火野が声をかけてきた。

 

「そうだ、これからハンバーガーでも食べに行かねぇか? ついでに相談があるんだが……」

「ん? ああいいよ、相談って何だ?」

「まぁ、それは後で話すよ」


 そういえば、先日高梨さんからも相談を受けたなと思い出していた。二人ともいつも通り話しているみたいだけど。


(まさか、火野も恋バナ……? そんなまさかな)



 * * *



「はぁ……俺どうすればいいんだろう……」


 ハンバーガー屋にて、二人とも注文したハンバーガーを受け取って席に座ると、いきなり火野が大きなため息とともに声を出した。

 いつも明るく元気で、ハッキリと話す火野がこんな声を出すなんて、めずらしいなと思った。

 

「どうした? 悩み事か?」

「ああ……どうしても気になって仕方ないんだ」


 気になって仕方がない? 何のことだ?

 

「なんか深刻そうだな、何があった?」

「ああ、深刻だよ……こんな気持ちになったの久しぶりで、どうしたらいいのか分かんねぇんだ」


 ……あれ?

 たしか、高梨さんも同じようなこと言っていたような……気のせい……か?

 

「火野、お前まさか……」

「ああ、どうやら恋してるみたいなんだ……」


 なるほど、やっぱり恋ですか。

 

 ……って、えええええ!?

 

「え、え!? こ、恋!?」

「そうなんだよ、どうしたもんかなと。ふとした時にその子のこと考えてしまうんだよなぁ」


 ハンバーガーにかぶりついていた火野が、どこか遠くを見る目でぼそぼそと話す。

 

「それはそれは……なんというか、火野にしてはめずらしいな」

「ああ、本当にこんな気持ちになったの久しぶりなんだ」

「そうか……聞いていいのか分からんが、その、あ、相手は誰なんだ……?」


 これは……火野に好きな子がいるとして、それが誰であっても、これから高梨さんにどう言えばいいのかと頭の中でぐるぐる考えた。

 おそるおそる聞いてみると、火野は「あの、その……」と言いづらそうにしながらも、

 

「……た、高梨なんだ……」


 と、小さな声で話した。

 

「……ああ、なるほどね、高梨さ……え!? 高梨さん!?」

「ああ……最近どうしても気になっちゃって。普通に話すしRINEもするんだけど、気がついたら高梨のことよく考えてる自分がいてな」


 全然違う子の名前が出てくるのかと思った僕は、思いっきり驚いてしまった。

 

(え? 高梨さんは火野のことが好き、火野は高梨さんのことが好き、これって……)


 なんだよ君たち両思いなのかい、と思わずツッコミを入れそうになってなんとか踏みとどまった。危ない危ない。こういうことは簡単に話してはいけないことくらい僕でも分かる。

 

「そ、そうか……思い切って火野の想いをぶつけてみるか?」

「いやー、高梨って、か、可愛いし、イケメンの男がいっぱい寄ってきてそうじゃないか? 彼氏くらいいてもおかしくないよなーと」


 おーい火野くん、自分の顔を鏡で見たことないのかな? 君も十分に爽やかイケメンだよ羨ましいよちくしょう。

 

「それに、せっかくみんなで仲良くやってるのに、もしフラれたら気まずくなっちゃうなーと……」


(い、いや、せっかくみんなで仲良くやってるのに、もしフラれたらなんか気まずいというか……)


 火野の言葉を聞いて、高梨さんの言葉が頭の中で再生された。二人ともフラれるのが怖くてあと一歩踏み出せないでいた。たしかにフラれると今までのように仲良くというのも難しいのかもしれない。

 

「うーんそうか……分かった、ちょっと高梨さんを探ってみるよ。彼氏いないのかどうかとか」


 もはや探る必要もなかったが、とりあえずこう言わないといけない気がした。

 

「ほ、ほんとか!?」

「ああ、だから火野はこれまで通り普通に接していけばいいと思う。それに――」

「あ、ああ……」

「好きな人がいて、好きって言える火野はカッコいいよ」


 また高梨さんの時と同じようなセリフを言った僕は、同じように恥ずかしくなった。やっぱり今の一言は小説か漫画の読み過ぎだって笑い飛ばしてほしかった。

 

「そ、そうかな……へへ、なんか恥ずかしいけど、悪いことじゃないよな!」

「ああ、全然悪くない」

「お、おう、ありがとな! やっぱ持つべきものは親友だな!」


 火野はそう言うと右手を差し出してきたので、僕も右手を出して固く握手した。

 親友……か。僕は友達が少ないけど、こういうのも悪くないなと思った。沢井さんや高梨さんも僕のことを友達だと思ってくれているだろうか。

 それにしても、まさかこの二人が両思いだったなんて。ニコニコしながらハンバーガーを食べる火野を見て、僕にも恋をする日が来るのだろうかと考えると、また胸がチクリと痛んだ。

 

(この感じは、もしかして……)

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