第20話「相談」

「日車く~ん……どどど、どうしよう……」


 目の前で高梨さんが顔を赤くして困ったような顔をしている。

 昨日、球技大会が終わって家に帰ると、高梨さんから個人的にRINEが送られてきた。

 

『日車くん、明日、ちょっと時間あるかな?』


 グループRINEではなく個人的に送られてくることがめずらしかったが、次の日の土曜日は特に用事もなかったので、高梨さんと会うことした。

 そんなわけで僕たちは、駅前の喫茶店に来ている。美人の高梨さんと二人きりで会っているこの状況に僕は少しドキドキした。

 

「ど、どうしたの? なんか相談があるってRINEで言ってたけど」

「あう、いや、その、あの……」


 どこか歯切れの悪い言い方をする高梨さん。いつもサバサバしていて言いたいことはハッキリと言う人なので、こんな高梨さんは見たことがないなと思った。

 ふーっと大きく息を吐いた高梨さんは、話を続けた。

 

「あの、さ、火野くん、なんだけど……」

「へ? あ、火野?」

「うん……その、火野くんさ、す、すすす好きな人とか、いるのかな……?」


 顔を真っ赤にした高梨さんがおそるおそる聞いてくる。

 

「火野に、好きな人……?」

「……うん」

「どうだろう、付き合っている人は今はいないと思うけど」


 高身長でイケメンの火野は、中学時代も女子によくモテた。でも僕が知る限り、彼女がいたのは一度だけ、しかもかなり短い期間だった。告白もけっこう受けていると思うが、ほとんど断っているのかもしれない。

 

「そ、そっか、今まで付き合った人とかいた?」

「一度だけ中学の時にいたなぁ。でもすぐ別れたみたい。何があったのかは知らないけど」

「そ、そうなんだねー……」


 高梨さんはそう言うと、ふーっとまた大きく息を吐いた。

 

「中学の時はサッカー部で、けっこう女子に人気あったよ。まぁカッコいいもんなぁ」

「そ、そうだよねー……カッコいい……」


 顔を真っ赤にした高梨さんは、あははと笑いながらももじもじしている。

 

(あれ? もしかして……)


「もしかして、高梨さん、火野のこと……」

「……うん、好きに、なっちゃって……」


 もじもじした高梨さんは、なかなか僕の目を見てくれない。

 

「だって、めっちゃカッコよくて、昨日もたくさん女の子にキャーキャー言われてたけど、その、それが面白くなくて……」

「ああ、たしかにカッコよかったよ。男の僕でも惚れそうだった」

「だよね、だよね? なんか、意識したら急に話せなくなっちゃって……」


 そうか、それでいつもノリよく火野とも話している高梨さんが、なかなか火野と話さなかったのか。

 

「なんか、こんな気持ち久しぶりで、どうしたらいいのか分からなくなって……」

「そっか……思い切って高梨さんの想いを伝えてみる?」

「い、いや、せっかくみんなで仲良くやってるのに、もしフラれたらなんか気まずいというか……」


 たしかに、火野がこれまで他の人の告白を断ってきたとなると、高梨さんの告白も断ってしまう可能性はある。

 

「うーん、難しいな……」

「だよね……うわぁぁん、私、どうすればいいんだろう……」

「でも、せっかくの気持ちを押し込めてしまうのももったいないよ?」

「う、うん……そうだよね……」

「……分かった、ちょっと火野のこと探ってみるよ。本当に彼女いないのかとか。何かあったら教えるから」

「あ、ありがとう……」

「だから、これまで通り普通に接していけばいいと思うよ。あと――」


 僕は高梨さんの目をまっすぐ見て、続けた。

 

「好きな人がいて、好きって言える高梨さんがとても素敵だよ」


 そこまで言って、僕はハッとした。やばい、さすがに気持ち悪い一言だった。高梨さんだったら可愛いとか素敵とか言われて慣れているかもしれないけど、今の一言は小説や漫画の読み過ぎだって笑ってスルーしてほしい。

 そんな気持ち悪い一言を聞いた高梨さんは、顔を真っ赤にして、

 

「……絵菜の気持ち、ちょっとだけ分かる気がするなぁ」


 ぼそぼそと小声で言うので、何を言っているのかハッキリと聞こえなかった。

 

「え?」


 泣きそうな顔をしていた高梨さんが、急にパァッと明るくなった。


「こ、こんな顔してちゃダメだよね、うん。あーなんかお腹すいたな、パフェでも食べようかなー」


 急に食に走る高梨さんを見て僕は笑ってしまった。それにつられて高梨さんも笑った。

 それにしても、これが恋心ってやつか……僕にも誰かを好きになったり、好きになってもらったりする日が来るのかな……とぼんやり考えるのであった。

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