第15話「妹と妹と」
「ただいまー……って、あれ?」
球技大会まであと二日となったこの日、家に帰ると日向の靴と、見慣れない靴があることに気がついた。
(友達でも来てるのかな……?)
「お兄ちゃんおかえりー」
「あ、こんにちは、お邪魔してます」
リビングに行くと、日向ともう一人女の子が座っていた。
制服が日向と同じなので、同じ学校の子なんだろう。黒くて長い髪が特徴的な可愛い女の子だった。
「あ、こんにちは、いらっしゃい」
僕がそう言うとその女の子は立ち上がり、僕の方を向いて深々と頭を下げた。
「はじめまして、
「おーい真菜ちゃん、その挨拶はなんか違うんじゃないかなぁ?」
「……あ、やっちゃった」
女の子がテヘっと舌を出した。
「あ、はじめまして、日向の兄です」
「お噂は日向ちゃんからよく聞いております。なんでも日本一、いや世界一のお兄様だとか」
「ちょ!? ま、真菜ちゃん!?」
日本一? 世界一? よく分からないが、日向はいつもどんな話をしているのだろうか。
「ごごご、ごめんねお兄ちゃん、真菜ちゃんは頭がよくて黒髪が似合ってて可愛くていい子なんだけど、どこか抜けているというか……」
「あ、そ、そうなのか……あはは」
慌てた日向がフォローするが、あまりフォローになってないのはここだけの話。
「……? 日向ちゃん、世界一、いや宇宙一カッコいいお兄様がいるっていつも話してるよね」
「ま、まぁそうなんだけどね、あはは……」
世界一? 宇宙一? よく分からないが、日向は本当にいつもどんな話をしているのだろうか。
「そっか、真菜ちゃんか」
……あれ?
さっきこの子、自己紹介の時なんて言ったっけ……何かが引っかかるのだが……。
「真菜ちゃん……沢井、真菜ちゃん……?」
「……? はい、そうですが」
「……? お兄ちゃん?」
さ、さわい、沢井……?
「……あ、いやあの、真菜ちゃん、もしかしてなんだけど、お姉ちゃん、いたりする……かな?」
頭の上にハテナが浮かんでいた真菜ちゃんが、一気にパァッと明るくなった。
「はい! 姉がいます。沢井絵菜って言うんですけど……って、あれ? お兄様はご存知なのですか?」
あーやっぱり、お姉ちゃんがいるのね。
……って、えええええ!?
「そ、そうなんだね、あはは、いやはや、なんというか、世間は狭いというか……」
「あれ? 真菜ちゃんお姉ちゃんいたの?」
「うん! とっても可愛いお姉ちゃんがいるよ!」
明るい表情でとても嬉しそうに話す真菜ちゃんが可愛く見えた。
「お兄様は、お姉ちゃんのことご存知なのですか?」
「ああ、まぁ……うん、同じクラスでね」
「まあまあ! そうだったのですね! いつも姉がお世話になっております」
そう言うと真菜ちゃんは深々と頭を下げた。うん、今度はお世話になっておりますの使い方間違っていないと思う。
「あ、あはは、いやいやこちらこそ……お世話になってます」
「なんだー、お姉ちゃんがいたのかー……って、あれ?」
笑顔だった日向の表情がどんどん曇っていく。
「……お、お兄ちゃん、この前来た人、さ、沢井さんって言ってなかった……?」
「……ああ、あの人が真菜ちゃんのお姉ちゃん」
部屋中に日向の「えええええー!?」という驚きの声が響き渡る。
「えっ、お姉ちゃん、ここに来たことがあるんですか?」
「ああ、まぁ偶然にも、一度だけね」
「そうだったのですね! それはそれは、どうもありがとうございます」
日向はまだ口をパクパクさせている。いやまぁ僕も驚いているから気持ちは分からないでもないけど。
「よかった……お姉ちゃん、お兄様みたいな素敵な人とお友達なんですね」
ホッとしたのか胸をなでおろし、優しい表情を浮かべる真菜ちゃん。
「あ、まぁ、僕はそんな素敵な人ではないけどね……あはは」
「私、心配していたんです。お姉ちゃん、いつも一人で誰かと遊んでいる感じでもないから……でも、お兄様がお友達ならなんだか嬉しいです」
(そういえば、沢井さんも妹さんがいるってこの前言ってたような……)
(ああ、いるよ。私と違ってしっかりしてる)
ふふっと微笑んで話す沢井さんを思い出した。
真菜ちゃんは、お姉さんのことをとても想っている、心配性で優しい子。
たぶん、お姉ちゃんも真菜ちゃんのことが大好きなんだと思う。
「なので、これからもお姉ちゃんと仲良くしてあげてくれませんか?」
「あ、ああ、もちろん。こちらこそよろしく」
そう言って僕と真菜ちゃんは丁寧にお辞儀をし合った。やっと元に戻ったのか、日向が「二人とも固い固い」と笑いながら言うので、僕と真菜ちゃんもつられて笑った。
「あ! 私たちクッキー作ろうとしてたんだった! 真菜ちゃん作るよ!」
「あ、うん! 作ろ作ろ!」
「おー、そうなのか、頑張ってね」
(沢井さん、しっかりしてる……かどうかは分からないけど、とてもいい子だね)
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