第14話「話し合い」

 あれから二時間、僕たち四人はカラオケを思う存分楽しんだ。

 アイドル系の曲で攻める高梨さんとロックバンド系の曲で攻める火野を中心に盛り上がり、僕と沢井さんもたくさん笑った。

 

(なんだ……沢井さんもああやって笑えるんだな……)


 クラスだと笑ったりする姿を見たことがないので、たくさん笑っている沢井さんがとても新鮮だった。

 

(そして、笑ってる沢井さん、けっこう可愛――)


 ピロローン。

 

 ベッドで横になりながらボーっと考え事をしていると、スマホが鳴った。

 

『今日は楽しかった! また行こうね!』

『おう、めっちゃ歌ったー、楽しかったよ!』

『絵菜には負けない!』

『俺も団吉には負けない!』


 火野と高梨さんが次々とグループRINEに送ってきた。負けないってなんだよとクスっと笑って心の中でツッコミを入れながら、僕もRINEを送る。

 

『楽しかったよ、沢井さんはどうだった?』


 まだ一言も送っていない沢井さんに聞くようにしてみた。するとすぐに、


『楽しかった、また行きたい』


 と、沢井さんから送られてきた。その一文の後、猫が「ありがとう」というプラカードを持ったスタンプが送られてきた。

 

『おや、沢井は猫が好きなのか!?』


 火野の奴、僕が聞きたくても聞けなかったことをさらりと聞きやがった! これだからイケメンは困る……。

 

『うん』

『そかそか、俺はどっちかというと犬派かな!』

『私は猫派かなー、猫可愛いよねー』


 いや、誰も聞いてないよと、またクスっと笑って心の中でツッコミを入れながら、僕たちはしばらくRINEで話し合った。

 

 

 * * *

 

 

 ある日のホームルームで、月末に行われる球技大会のメンバー分けの話し合いが行われた。

 話し合いと言っても、みんな自由に席を移動して、あれがいいとかこれがいいとか勝手なことを言っている。うちの高校はとことん自由だなと思う。まとめる学級委員は大変だろうけど。

 

「団吉はソフトボールか。俺はサッカーだ」


 後ろの席から火野が話しかけてきた。男子はソフトボールかサッカー、女子はバレーかバスケからいい方を選ぶという感じだった。僕はどちらでもよかったが、ソフトボールの方がなかなか決まらないということで、そこに無理矢理入れられた。

 

「団吉と同じチームになれないのは悲しいが、元背番号10の血が騒ぐぜ!」

「お、おう、ていうか足は大丈夫なのか?」

「まぁ、一日くらいだったら大丈夫だ。最近調子いいみし


 そう言って火野はパンパンと右足を叩いた。火野は中学の頃、一年生の時からレギュラーで試合に出続けていて、かなり上手だと聞いたことがある。

 久しぶりのサッカーで燃えるものがある……のかは分からないが、火野の熱がぐんぐん上がっていくのが分かった。

 

「やっほー、今火野くんの声が聞こえたけど、二人はバラバラなんだね。私と絵菜は仲良くバスケだよー」


 そう言いながら高梨さんと沢井さんが僕たちの席に来た。


「おー、そうなんか、応援行くぜ!」

「ありがとー。ふふふ、元スモールフォワードの血が騒ぐぜ!」


 なぜか高梨さんも燃えるものがある……らしい。イケメンと美人の思考回路がよく分からなかった。

 

「高梨さんはバスケ部だったの?」

「そそ、中学の時やってたのよー。私背が高いじゃん? 誘われてそのままねー。こう見えて県大会でいいところまで行ったんだから」


 高梨さんは僕と同じくらいの身長なので、170センチくらいだろうか。たしかに女子にしては高身長だった。

 

「マジかー、俺も中学最後の大会思い出すなぁ。まぁ、無理しすぎて怪我しちまったけどな」

「え、それで火野くんサッカー部に入ってないのか。大丈夫なの?」

「おう、一日くらいだったら大丈夫だよ」


 火野はまた右足をパンパンと叩いた。

 

「あ、沢井さんは……バスケ経験あり?」


 高梨さんの後ろでもじもじしていた沢井さんに話しかけてみた。

 

「……バレーかバスケって言われたら、バスケかなって思って」

「絵菜は私と一緒がよかったんだよねー、このこのー可愛い奴めー」

「い、いや、別にそんなんじゃないし……」


 高梨さんが沢井さんの腕をつかんでツンツンしていると、沢井さんは恥ずかしそうに下を向いた。

 でもまぁ、できればよく話す人が近くにいてほしい気持ちは分かる。僕もやっぱりサッカーがよかったな……と思った。

 

「まぁそんなわけで、いっちょ頑張ってやりますかー!」

「おー! いいねぇ燃えるねぇ! 私たちも応援いくからねー!」


 高梨さんが沢井さんと手をつないでブンブン振っていたが、沢井さんはやっぱり恥ずかしそうにしていた。

 

「が、頑張ってね」

「あ、ああ……」


 沢井さんと目が合ったので話しかけると、沢井さんはもじもじしながらコクリと頷いた。

 

(沢井さん……ほんとに大丈夫かなぁ)

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