第11話「みんなで勉強」

(はー……今日もなんか疲れたな)


 家に帰って、すぐベッドで横になってしまった。今日は朝早くから学校に行って、色々なことがあり過ぎて疲れてしまった。ここ数日疲れてばかりのような気がするので、少しゆっくりしたかった。

 

(でも、もじもじしていた沢井さん、けっこう可愛――)


 ピロローン。

 

 ボーっと沢井さんのことを考えていた時、突然スマホが鳴ってビクッとしてしまった。

 

(あれ? 誰だ……?)


 スマホを見ると、その沢井さんからのRINEだった。


『今日はありがと』


 その一文と共に、猫が「ありがとう」というプラカードを持ったスタンプが送られてきた。


(やっぱり沢井さん、猫が好きなのかな)


 聞いてみたいところだったが、聞くと逆に怒られるんじゃないかと思って、聞かないことにした。


『いやいや、大したことはしてないから……』

『いや、嬉しかった』

『そっか、それならよかった』


 何度かRINEのやりとりをしていて、ふと思う。

 

(あの沢井さんとRINEするなんて、よく考えたら不思議な感じだよな……。沢井さんもRINEするんだな)


『分からないことあったら言ってね、教えるから』

『うん、ありがと』


(あれ? そういえば火野も勉強教えてほしいと言っていたような……まぁいいか)

 

 

 * * *

 

 

「団吉ぃ……さっきのとこさっぱり分かんねぇよぉ~」


 次の日の終礼後、後ろから火野の力ない声が聞こえてきた。

 

「ああ、ちょっと難しかったかもしれない」

「だろー? もう何が何だか。すまん、今日ここに残って教えてくれねぇか?」

「ああ、いいよ」


 特に用事もなかったので、僕と火野は残って勉強していくことにした。

 

「団吉はすげぇよなー、お前数学の天才か何か?」

「いや、高梨さんと同じこと言うなよ……」


 じーっ。


 火野の後ろの方から、何やら視線を感じたような気がした。

 

「ここなんだけど、もう何やってるかさっぱりでさ」

「ああ、途中をすっ飛ばすとわけわからなくなるから、一つずついくぞ」


 じーーっ。

 

 やっぱり火野の後ろの方から視線を感じる。

 ふと見上げると、沢井さんがいてこちらの方を睨んで……いや、見ていた。

 

(ん? 沢井さん? 何だろう……?)


 沢井さんは慌ててスマホを取り出すと、何かを打ち始めた。

 すると、僕のポケットでスマホが震えた。何だろうかと見てみると、沢井さんからのRINEだった。

 

『私も、』


 その一文だけが僕のスマホに表示された。読点で終わっているあたり、もう少し何かを打ちたかったのかもしれない。

 

(私も? どういうこと……あっ、もしかして)

 

 僕はガタっと急に立ち上がって、こちらを見ている沢井さんに向かって話しかけた。

 

「よ、よかったら沢井さんも一緒に、勉強していかない?」


 いきなりそんなことを言い出す僕に、きょとんとした顔の火野。

 

「沢井? ああ、いたのか、一緒にどうだー?」


 後ろを振り向いた火野がこっちにおいでと手招きする。

 

「よ、よかったら……だけど、どう?」

「……うん」


 沢井さんは小さく頷くと、自分の椅子を持って僕たちのところへやって来た。

 

「おー、やっぱり人数いた方がなんか燃えるもんがあるな!」

「なんだよ、何かの争いかよ」


 ケラケラと笑う火野と僕を見て、沢井さんも少し笑っていた。

 

(あっ、笑った沢井さん、けっこう可愛――)


「おやおや? また不思議な組み合わせだ」


 昨日の朝と同じようなセリフを言いながら、高梨さんがやって来た。

 

「おー、高梨も一緒にどうだ? 今団吉に数学教えてもらってて」

「おお、いいね、私もまた分からないところあるんだー」

「おし、四人になったな、机ひとつじゃ狭いから近くの四つをくっつけるか」


 そう言いながら、火野と高梨さんがガタガタと机を動かす。

 

「はーいいね、みんなで勉強するとなんか燃えるもんがあるね!」

「いや、高梨さんまで何かの争いしたいの?」


 ケラケラと笑う火野と高梨さんを見て、沢井さんもまた少し笑っていた。

 

(あっ、笑った沢井さん、やっぱりけっこう可愛――)

「……ん? なに?」


 ふと沢井さんと目が合ってドキッとしてしまった。

 

「あ、い、いや、なんでもない……」


 心の中を読まれたような気がして、慌てて目をそらした。

 何考えてるんだろ……今は勉強勉強……。

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