第7話「妹の想い」

「……ううん、何でもない。ごゆっくりー」

 それだけを言うと、私はお兄ちゃんの部屋を出た。


 お兄ちゃんが、友達を家に連れてきた。

 しかも、男友達じゃない。女の子だった。


 肩まである金色の髪に、膝上のスカート、少しではあるが化粧もしているその女の子は、昨日お兄ちゃんと買い物に行った時に見た怖そうな人だ。間違いない。

 でも、昨日お兄ちゃんはこの人を隠れるようにして避けていた。それなのにどうしてうちに来たのだろうか。一日で仲良くなった? そんなことあるわけがない。


(もしかして……お兄ちゃんも、ふふふ不良になったの……?)


 そう考えて、私はブルンブルンと首を振る。あの目立つのがあまり好きではないお兄ちゃんが不良になるなんて考えられない。昨日も私と手をつないでくれた。いつもの優しいお兄ちゃん。


(もしかして……あの人に脅されたとか?)


 そう考えて、私はまた首を振る。何か言われたとしてもなぜうちに来るのかさっぱり分からない。


「――あら? そんなところで何してるの?」


 お兄ちゃんの部屋の前で考え事をしていたら、お母さんが不思議そうな目で私を見ていた。私はお兄ちゃんたちに聞こえないように小声で話す。


「お母さん、お兄ちゃんどうしちゃったんだろう……」

「さあ……でも団吉がお友達を連れてくるなんてめずらしいわね」


 いつものゆっくりとした口調でお母さんはそう話す。


「何か、悪いことでもしちゃったのかなぁ……」

「あら? そんなに心配なの?」

「べ、べ、別に、心配なんてしてないよ!」


 本当は心配だった。もしかして、お兄ちゃんを取られてしまうのではないかと――


(ううん、大丈夫、お兄ちゃんは悪いことなんて絶対しないから!)


 そう思って、私はリビングに戻ってお菓子を食べ始め……

 

(……でも、やっぱり気になるー! 二人で何やってるんだろう……)


 してはいけないと思いながらも、私はお兄ちゃんの部屋の前をうろうろしたり、聞き耳を立てたりしてみた。

 すると、『この問題は~』とか、『そこはこの公式を~』とかお兄ちゃんが話しているのが聞こえてきた。

 

(あ、あれ? もしかして、勉強してるの……? やだ私ったら、悪いことしてるのか、いいいイチャついてるんじゃないかと……)


 そこまで考えて、自分の耳が熱くなっているのが分かった。

 

(なんだ、勉強してるのか……私ったら心配し過ぎかなぁ)

「あら、そんなに気になるなら、日向も入っていけばいいのに~」


 またお母さんが私を見てニコニコしながら話しかけてきた。

 

「べ、べ、別に、気になってないよ!」


 私は何も聞いてませんと熱くなった耳を手で隠しながら、リビングに戻ってお菓子を食べ始めた。

 

(うん……大丈夫、お兄ちゃんはお兄ちゃんだもん!)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る