第6話「突然の来客」

「ただいまー……」


 いつもよりそっと玄関の扉を開ける。玄関を確認すると靴が二足ある。一つは妹の日向のもので、もう一つは……母のものだった。


(あれ? 母さんもう帰ってきてるのか?)

「おかえりー、お兄ちゃ……ん!?」


 パタパタと足音を立ててやってきた日向が突然立ち止まって固まる。目線は僕ではなく、僕の隣にいる人に向けてのものだった。


「あ、こ、こちら、同じクラスの沢井さん……」

「……どうも、沢井です」

「あ、沢井さん、こっちは僕の妹で……」


 日向は口を開けたまま、僕と沢井さんを交互に見る。


「……あ、その、あの、い、妹の日向です……あああ、兄が、おおおお世話になって……」

「……い、いや、無理しなくていいから」

「……お母さーーーーん!!」


 日向はそう叫ぶと、リビングの方へバタバタと走って行った。


「ご、ごめん、妹騒がしくて……」

「いや、全然……大丈夫」

(でもそうだよなぁ、僕が友達を連れてくることなんてそうそうないし、しかも連れてきたのが女子だったら日向もびっくりするよなぁ)


 日向がバタバタと足音を立てて行った後、奥から「何よ~?」という声とともに二人の足音がこちらに聞こえてきた。


「――あら? あらあら、お友達?」


 ゆっくりとそう言ったのは僕の母さんだ。仕事が早く終わったのだろうか、こんな時間から家にいるなんてめずらしいなと思った。


「あ、こ、こちら、同じクラスの沢井さん……」

「……どうも、沢井です」


 僕と沢井さんは先程日向に言った言葉をそのまま繰り返した。その日向は母さんの後ろに隠れて、こちらをチラチラと見てくる。

 

「いらっしゃい、二人ともボーっと立ってないで、上がったら?」

「あ、ああ、ど、どうぞ……」

「……おじゃまします」


 沢井さんは小さな声でそう言うと、上がって靴を揃えた。


(あ、沢井さんってそういうとこしっかりしてる……のか?)

「団吉、リビングだと落ち着かないだろうから、部屋に案内したら? ふふふ、ゆっくりしていってね~」

「なっ!? あ、ああ……部屋こっちにあるんで……」

「……うん」


 そんな感じで、僕の部屋に初めて母と妹以外の女性が入るのだった。



 * * *



「あ、そこに座って……」

「……ああ」


 部屋の真ん中にあるテーブルの横にクッションを置いて、沢井さんを案内した。やばい、何もかもが初めてでどうしたらいいのか分からない。

 沢井さんは座ると、辺りをキョロキョロと見回しているようだった。


「……ん? どうかした?」

「あ、いや、男子の部屋にしては綺麗だなーと思って。あと本が多いんだな」

「ああ、本読むの好きだから、つい買っちゃうんだよね……」


 僕の背を超える高さの本棚に、漫画や小説をぎっしりと詰め込んでいる。教科書やノートは机の上の棚に入れているが、最近本が増えすぎて本棚に入らなくなってきた。


「……エロ本とかあるんだろ?」

「なっ、そ、そんなものはないよ!?」

「ふふっ、冗談だよ」


 沢井さんはクスクスと笑う。


(あれ? やっぱり笑った時の沢井さん、けっこう可愛――)


 コンコン。


 部屋の扉をノックする音が聞こえた。僕が「はい」と返事すると、日向がお茶の入ったコップをお盆に乗せて持ってきた。


「……どうぞ」

「あ、ありがとう日向」


(…………じー)

「……?」


 日向はお茶をテーブルに置くと、なにやら沢井さんのほうをじっと見ている。沢井さんも自分が見られているのに気づいたのか、日向を不思議そうな目で見る。


「……日向? どうした?」

「……ううん、何でもない。ごゆっくりー」


 日向はそれだけ言うと、パタパタと足音を立てて部屋から出て行った。


「なんだ? あいつ……」


 妹の考えていることが全く分からない僕だった。

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