君に贈る讃美歌

アキノリ@pokkey11.1

讃美歌の鳴る高台

そもそも僕、飯島透(いいじまとおる)は恋をした事は無い。

だけどまあある程度は恋というものを分かっているつもりでいる。

でも大きな事は分からない。


それはどういう意味かと言えば.....例えばだけど。

恋愛の心とか分からない。

隠されると分からない。

つまり女の子が僕を好きっていうのが分からない。

だけど.....幼馴染の山辺春香(やまべはるか)は違う。


何が違うかといえば好きって事を隠しきれてない。

僕の事が好きって事を、だ。

どれぐらいかといえばずっと僕の後を付いて来るぐらいに。

それで好いていないとかなったらおかしいのでは無いだろうか。


「.....」


取り敢えずこれは勘だけど好きってのには間違いないと思う。

だから僕は勘だけに勘で動き始めた。

つまり春香の気持ちを引いたり押したりしてみようと思って。


もどかしい動きを始める事にしたのだ。

取られてしまう恐怖とかは無い。

多分春香は僕を一途で好いている.....と思う。


あくまで僕から好きとは言わない。

だけど春香に告白はしないで好いている様な.....そんな動きをする様にした。

曖昧な感じで終わらせるのは如何なものかな、って思ったし。


それに僕達は卒業間近なのである。

つまり2月25日を迎えている。

3月9日が卒業式だ。


片思いだろうけど1年は経った。

もう良いだろうし.....それに。

何だかそうしたくなったしね。


「ね、ねえ。透。今日も一緒に帰ろう」


「ああゴメン。今日は塾なんだ。だから一緒に帰れない」


目の前の春香を見る。

春香は桜の髪留めを着けたボブヘアーの美少女。

つまり顔立ちが結構整っている学校中にファンが居る様な美少女。


だけど僕にはかなり接し方が冷たい。

いや。それは冷たいとは言わないと思うけど。

これ多分ツンデレに近いと思う。


「また塾?最近塾多くない?」


「そうだね。でもこれでも高3だよ?春香も塾があるよね」


「.....あるけど.....」


あからさまにしょんぼりする春香。

僕はその春香を見ながら、でも春香が一緒に帰りたいって言うなら塾の時間は遅らせる事が出来るよ?、と言ってみる。

だけど春香は、そ。そんな事をしなくて良いから!、と否定して帰ってしまう。

僕と春香はもうこのやり取りを結構している。

1週間ぐらい。


僕は一体何をしているのか?

それは春香の気持ちと僕の気持ちを押したり引いたりをしているのだ。

春香の口から好きって言わせたい、と思っている。

つまり春香の中のゲージを溜めているのだ。


「とは言ってもキモいよな。僕も。良い加減にしないと」


そんな感じで僕は嘘っぱちの塾の道を辿る。

僕は塾はもう必要無いんだけど塾に通っている事にしてある。

県内の大学に推薦で受かっているから、だ。


今は必要無いんだけど.....でも。

これもゲージの為だ。

仕方が無いのだ。

僕から.....告白するのは恥ずかしいから。



「ねえ。今日は一緒に帰れる?」


「.....そうだね。一緒に帰ろうか」


そんな感じで押したり引いたりを繰り返して早2月28日。

僕は春香を見てみる。

春香はモジモジしていた。

もどかしい気持ちになっている様だった。

計画通りだな、って思う。


「春香?どうしたの?」


「いや。嬉しいなって.....あ!別にアンタと一緒に帰るのが好きとかそんなんじゃ無いから!!!!!」


「いやいや。分かってる。僕ははるかに好かれる訳がないからね。多くのファンが居る春香様に」


「.....そんな.....事は.....無いけど」


春香を見る。

そんな春香は恥ずかしいのか頬を朱に染めている。

僕はその春香を一瞥してから帰る。

そして下駄箱の所までやって来てから.....そのまま外に出て空を見上げる。

すると春香がこんな事を言ってきた。


「ねえ。透。学校もう直ぐ卒業だね」


「そうだね。今は学校に一応行っているみたいな感じだから」


「そ、卒業したら一緒に大学だね」


「そうだねぇ」


そんな会話をしながら押したり引いたり。

僕はボロを出さない様にした。

そのもどかしさ故か春香は震えていた。

朱に顔を染めながら、だ。

僕は苦笑する。


「ねえねえ。.....私って綺麗?」


「いきなり何を言っているのかな?」


「私は貴方の隣に立てるかな」


「立っているじゃないか。今もずっと」


そういう事を聞きたいんじゃないけど.....、的な感じで僕をジッと見る。

ゴメンな春香。

僕から告白はどうしても無理だ。

君のことは好いているけど。

だけど恥ずかしいんだ。


と思っていると。

あ.....ローファーが破れた、と春香が言ってくる。

僕は驚きながら春香を見る。

春香は、ゴメン。腰を痛めているから代わりに見てくれない?、と言う。

僕は、良いよ、と言いながら腰を屈めてみる。


その時だった。


「.....!?」


「.....」


いきなり春香が僕の両頬を持った。

そしてそのままキスをしてくる。

見晴らしの良い通学路の所で。

あまりの大胆さに僕は真っ赤に染まる。

これは予想外だった。


「ちょ!?」


「もう我慢出来ない。ずっと私を溜めて楽しい?」


「.....それはつまり.....」


「知っているんだよ?私は。塾も無いし私から意図的に逸れていた事も」


「.....!」


「勘だけど当たっていたんだね」


何でそんな事をするの?私の事嫌い?、と尋ねてくる春香。

僕は堪らず、そんな事は無いよ、と答える。

それから、悪い事をしてしまったのか?、と考えてしまった。


意図がズレた様だし。

だけど春香は、私は貴方が好きだから。これからは意図的に逸れるならずっと追い掛けるから、と赤面で言ってくる。

僕は真っ赤になった。


「.....貴方から好きって言われるまで」


「.....!」


「好きって言われるまで諦めないから」


「春香.....」


「大学生になっても。社会人になっても。お年寄りになっても。私は愛している」


「.....い、いや。そ、そこまで.....」


だって絶対的に好きなんだもん。

と言ってくる春香。

そして僕をジッと見据える。


絶対に透を離さないもん、と言いながら。

僕はあまりの事に赤面せざるを得なかった。

全く思考が及ばない。


「エヘヘ。でも約束のキスをしたんだからもう大丈夫だよね」


「約束って。.....でも春香。ゴメン」


「何が?」


「僕はずっと馬鹿な事をしたね」


「うん。気にしないで。多分そうだろうってそう思ったし。それに.....そうされるなら仕返ししようと思っただけだし」


「.....」


やっぱり僕はこんな食いついてくる春香が好きだ。

だけどこの気持ちは卒業式までとっておこう。

春香には敵わない。


だから卒業式になったら。

春香に告白しよう。

そう思いながら僕はこの高台から目下に見える海辺を見つめた。


fin

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