第六感探偵 マッスル咲澤

紫風

探偵は筋肉で閃く

「私は、マッスル咲澤さきざわ。好きなものはメロンパンだ」

「菓子パンは天敵では?」

「メロン肩というだろう」

 素晴らしい三角筋(肩の丸いとこ)のことですね。じゃあメロンでもいいのではなかろうか。メロンパン肩とかいいかもしれない。網目に日焼けするといい感じ。


 申し遅れました。私は泉竹いずみたけ。咲澤教授のゼミ生です。

 専攻はまあ置いといて。私は時々、教授の手伝いをする。

 バイト代は体で払ってもらう。決して、いかがわしい意味ではない。

 というのも、この教授、筋肉のことで頭がいっぱいなのだから。


 私は、趣味の絵描きである。いわゆるオタクというやつだ。

 美術学校に行っていない趣味の絵描きでも、ある程度のレベルになると、デッサンを意識する。デッサンを勉強するうえで、ガチめにやるなら、骨と筋肉を頭に入れる。最低でも、頭蓋骨くらいは考える。

 ガリヒョロでも、たぷんたぷんでも、筋肉はあるのである。筋肉のない人間はいない。その上を、脂肪が覆っているか否かというだけの話である。

 僧帽筋、三角筋、大胸筋、腹斜筋、前鋸筋。

 上腕二頭筋、上腕三頭筋。

 ああ、筋肉は美しい。


 なんて言ってられっか。筋肉は骨と違ってややこしいんだ。筋肉の外側に筋肉があり、それが斜めに付いたり思いもよらないところと繋がっていたり。

 その辺は解剖図で見るとして、自ゼミの教授が筋肉バカもとい筋骨隆々なのをいいことに、デッサンを取らせてもらうのをお願いし、その見返りで手伝いをしているのである。


「そろそろお客が来る時分かな」

「お客様ですか? 予定表にはありませんでしたけど」

「アポはないけどね。きっと来る」

 どういうこっちゃ。

「その腕橈骨筋わんとうこつきんを伸ばして、新聞を取ってくれたまえ」

「腕ですね。はい」

 私は、腕を伸ばして、新聞を取り上げる。


 この近所で、殺人事件が起きたらしい。

「見てごらん。犯人は被害者の、胸鎖乳突筋きょうさにゅうとつきんを傷付け……」

「首筋を斬りつけ」

胸腰筋膜きょうようきんまくを一突き」

「背中の心臓の裏辺りを一突き」

「なかなかやるな、泉竹くん」

「恐れ入ります」

「で、これがお客とどういう繋がりが」

 と、トントンとノックの音がした。


「記者さん」

 渡された名刺を見て、私は思わず口に出してしまった。

「そうなんですよ、咲澤教授には常々お世話になっていて」

 どういうお世話をしているんだろう。

「生徒さん、知ってますか。咲澤教授は、一部で有名なんですよ」

「はあ」

 筋肉でか。

「咲澤教授は、『マッスル咲澤』という名の探偵さんなんですよ」

「へえ!?」

 教授の顔を見ると、うんうんとうなずいている。

「なんでも、話をするとピタっと当たる、いわゆる『安楽椅子探偵アームチェアディテクディブ』というやつで」

「へえ!?」

 安楽椅子。腹筋台だろそれ。

「正直、警察の方もあんまり当たるんで、最初は疑ったそうなんですが、今ではこっそり頼りにしてるんですよ。まあ表立っては訊きに来れないんで、私のような記者に使いっ走りを頼むんですよ」

 へへへ、と記者は笑った。

「見返りは捜査情報ってやつですかね」

「おっ、生徒さん、刑事ドラマお好きで?」


「では、話を聞かせてもらおうか」

 記者さんと教授が話をしている間、隣でぼーっと聞いている。いいんだろうか、私まで聞いて。まあ、警察の人じゃないし。いっか。

「分かった。この人を調べろと伝えてくれたまえ。後、凶器はこの辺に捨てただろう」

「了解っと! 早速電話してきます」

 記者さんは一旦ゼミ室の隅に行って、どこかに電話を掛けている。きっと懇意の刑事さんだろう。


「すごいですね、教授にそんな推理力があったとは」

「推理力じゃないんだよ、第六感さ」

「第六感?」

 この脳筋に、考える脳みそとプラスして第六感なんかあるのか!?

「そう、話を聞けば、この脳みそがぴぴっと答えを導き出すのさ」

「そうなんですよ。先生は、『第六感探偵 マッスル咲澤』って呼ばれてるんです」

 途中から会話に参加した記者さんは、じゃあまた来ますね~、と茶を飲み干してそそくさとゼミ室を後にした。

「『第六感探偵 マッスル咲澤』」

「そう、私は、マッスル咲澤! 好きなものはメロンパン!」



□▲〇




「あてずっぽじゃないんですか」

「ぴぴっと来るのさ、このシックスパックで!」

「シックスセンスですね」


END.


*********************

作者注:早々にオチがバレそうだったので、短めにしました。

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第六感探偵 マッスル咲澤 紫風 @sifu_m

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