第43話 選択肢25ー2肯いた(40話選択肢より)
肯いた。
リリィの顔が、輝く。
「……」
オーナーはため息を吐いた。
「わかりました。あなたたちが共に、この館で暮らすことを認めます」
「ありがとう。お兄様……!!」
「ありがとうございます」
リリィと共に、私はオーナーに頭を下げる。
オーナーは、ポケットから取り出した鍵で、私の手錠を外してくれた。
「まずは、あなたが暮らしていたところから、洋服等、最低限、暮らしに必要な品をお持ちいただけますか?」
「あの、私はここで暮らせるのですよね。その、どのくらい費用が掛かるでしょうか」
「あなたには、リリィの身の回りの世話をお願いしようと思います。使用人の部屋を用意しますし、給金もお支払い致します」
「……」
給金は、どの程度貰えるのだろうか。
贅沢を言える立場ではないが、やはり気になる。
私が口ごもっていると、オーナーは微笑した。
「お支払いする給金は、このあたりで支払われる一般的な給金よりも高いと自負しています。安心してください」
「ありがとうございます!!」
これで、仕事を辞めるとクライヴの父親に言って、あの屋敷を出られる。
「早く帰ってきてね」
私を見つめてそう言うリリィに、肯く。
「リリィはこれから仕事だ。きちんとお客様の相手をすること」
「わかっているわ。お兄様」
「では、一緒に行きましょう」
オーナーに促され、私はリリィに手を振って部屋を出た。
娼館を出て、屋敷に戻る。
与えられた部屋に置いている荷物は、手提げかばん一つにおさまる程度の量しかなかった。
「……」
私は鞄を入り口のドアの付近に置き、クライヴの父親であり、私の雇い主であるノーリッシュ氏の書斎に向かった。
……ノーリッシュ氏は、突然、辞意を示した私を責めることもなく、受け入れてくれた。
使用人の入れ替えが激しいことはよくあることなのかもしれないし、クライヴの世話をする人間が長続きしないことが多いのかもしれない。
……雇い主にとっては、使用人は、替えのきく駒ということだろうか。
とにかく、これで、心置きなく新しい仕事に就ける。
私は手提げかばんを持ち、ノーリッシュ邸を後にした。
……娼館に戻って来た。
中に入ると、案内人が私をリリィの元へと連れて行ってくれた。
どうやら、リリィの仕事は終わっているようだ。
布で仕切られた部屋に入ると、リリィが向こう側から姿を現す。
「ウィル!!」
私に抱きついてきたリリィを、抱き止める。
「本当に来てくれたのね。ずっと一緒にいられるのね。嬉しい……!!」
「私も、嬉しいよ」
「……」
リリィは私をじっと見つめて、口を開いた。
「ねえ。ウィルは、いつも、そういう口調なの? 友達と話す時も、そうなの?」
「どうして?」
「少し、言葉遣いが堅苦しいような気がしたの。わたしの、気のせいなら良いのだけれど……」
リリィがそう言うのは、私の『一人称』が原因なのかもしれない。
私は、仕事をする上で癖になってしまった『私』を変えるか変えないか、考えることにした。
これからは、自分のことを俺と言うことにしよう。
「気に掛けてくれてありがとう。リリィ。ゆっくり、馴染んでいくよ。俺たちにはたくさん、時間がある」
「そうね。そうよね」
『一人称』の言葉を聞いたリリィは、嬉しそうに微笑んだ。
娼館での生活は、穏やかなものだった。
リリィの世話といっても、部屋の掃除は掃除婦がやり、食事を作るのは料理人で、服を洗濯するのは洗濯係だ。
俺はリリィ宛ての手紙を開封して、リリィの目に触れて良いものは彼女に、そうでないものはオーナーに届け、リリィと自分の分の食事を彼女の私室に運び、そして、食べ終わった食器を厨房まで下げる。
俺は……。
選択肢26
1良い仕事に就けて嬉しい(鳥籠の鳥【男主人公編】43話→ 鳥籠の鳥【男主人公編】45話へ)
2こんなに優遇されて良いのだろうか(鳥籠の鳥【男主人公編】43話→ 鳥籠の鳥【男主人公編】48話へ)
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