生き霊という現実

異変は7/21朝からあった。


いつもではあり得ない眠気に襲われ、朝食後気がついた時出勤時間も忘れて一瞬、寝てしまっていた。


隣の部屋にいた要子が気づき、起こしてくれたおかげで、仕事に間に合った。


その時不気味なことを言う。

狙われてるから気をつけてと、手に纏わりついている黒いものがあると言うのである。


いつもならしないのに、帰宅時に電話で安否確認を求められた。

仕事中は特に異変もなかったのだが、帰宅前に電話をしたが要子の話を聞き取れない。


何度かやり取りした末、今度は通話ができなくなった。

まるで誰かに妨害されているが如く。



その間、要子は体験する。

自宅玄関の鍵の開く音と共に、二階へ上がってくる足音を聞いたのである。


しかし私はまだ帰宅途中であり、実際に自宅玄関の鍵を開け、二階に上がってきた者はいない。

そして家中、異臭がしたそうだ。


その匂いを要子は知っている。

叔母の匂いである。


そして居間に置いてある姿見の鏡の中から、「出せー!」とばかりにドンドンしている叔母の姿を要子は見ている。



要子は小さい頃から叔母に可愛がられたこともあり、しばらく叔母の所で生活をしていた事があったからだ。

その叔母とはトラブルとなり、今は関係を絶っているが執着されていた。


そして叔母にとっては、私たちの全てが妬みの対象となり、特に『家』と言う部分で僻む発言を何度となく聞いている。

「あんな立派な家を建てられて、いいよね」と。


常に比較し、自分を卑下して何になるのかと言う話である。


他人の努力は認めず、全て今ある結果しか見ない。

それを叶えるために積み重ねてきた努力を全く知ろうともしないのである。


私からするとバカバカしい話。


しかし思考が闇に囚われている存在にとってはそれが全てになる。

そして悔しい、妬ましいと生き霊を飛ばす。


鍵が開く音が聞いたことは、実はこれが初めてではなく、4度目となる。

挙げ句の果て、私の使っていた鍵すら消えた。


流石に気持ち悪いと、鍵を変える工事をした。

今の鍵は、リアルに合鍵を作られている可能性も高い。



その後、稲杜氏と話をした。

稲杜氏は「我は水難の神だからなぁ、あの辺、力の強い人達いるしなぁ」と言う。


叔母は私の母の妹であり、母と繋がっている以上、元々父に憑いていた嘉氶さんでも無理だと。

結果、白羽の矢が立ったのは、稲杜氏の保護観察役の硝鶴さん。


「どうしたい?」硝鶴さんに言われた。


私は、やめてもらいたいけど、自分が悪いとも考えないだろうし、周りを妬み続けている結果何も変わらないだろうという話をした。

その上で、道理を理解して、他人に危害を加えない程度になってほしいと言う想いを伝えた。


そして本来は叔母に還るべき罪や罰まで、本家を代表して、当主である妹に行っていることも知らされた。


ここ最近、妹は体調を明らかに崩していた。


自分が引き寄せた未来として、慢性閉塞性肺疾患を発症しており、さらに耳石が動いたことで誘発される目眩。

エアコンの効いた部屋にいると、冷凍室にいるような感覚になるほど、体温調整が狂うような状況が発生し、まともに起きていられない日もあった。


神職にありながら、これまで神に背く様な行いをしてきた妹。

明らかに天罰ではあるのだが、叔母の分の罪や罰まで負っているとは思わなかった。



叔母は以前、自分の経営している店が一番大切な場所と話していたが、それに対して言われた。

「いずれ潰れる店でも、それを早めれば納得いくのか?」と。


そして、「現状では魔に魅入られすぎて正常な思考には戻れない。それなら動きを封じるまで」と言われ、納得した。


さらに硝鶴さんは言う。

「ならば簡単なことを引き起こそう。要子も同じ目にあった様に、叔母のスマホを壊せばいいだろう」と。


スマホはある意味、生命線だ。

実は要子のスマホは、要子が見ている目の前で突然画面が割れた事があった。


そして硝鶴さんは言う。


「その未来を引き寄せたとしても、お前は人を恨むんじゃない。恨まれ妬まれたとしても、お前は決して恨むな。お前が真っ直ぐだからこそ、稲杜が真っ直ぐでいられる。叔母への復讐を願ったなら、同じようにお前を闇落ちさせるしかなかっただろう。そして多くの神がお前に力を貸すのは、お前が真っ直ぐに獣道であっても歩こうとするからこそ。自分を信じて進め。今不安でも、やがて芽をひらく。報われる日が来るだから自分を信じ、そして進め」と。



鏡は自分の真の姿を映す。

自分を信じて、そして歩けと諭された。

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