37話 1001年目に挑戦しようとするセンエース。


 37話 1001年目に挑戦しようとするセンエース。


 俺はユズを拘束(こうそく)しようとした。


 と、そこで、ユズが、


「……う、ぅうう……くそぉ……なんで……私が……こんな目に……」


 ギリギリと、歯ぎしりの音も聞こえてくる。

 どうやら、ユズは、

 本当に、なぜ自分がボコボコにされたのか、

 わかっていないようだった。


 ガチで、イカれた女だな……

 ヤバすぎる……

 気色悪ぃ。

 もはや、人間とは思えねぇ。

 ……まあ、人間ではなく、魔人になっているわけだが……

 正直、それ、関係ねぇ。


 こいつがクソなのは、こいつの本質だ。


「どいつもこいつも……許さない……カスども……生きる価値のないグズども……殺してやる、殺してやる……殺して……」


 ここまできて反省しないってのが、ほんと凄いな。


 蝉原も、反省はしないが、『反省するフリ』だけは見せていた。


 それすら出来ないプライドの高さ……

 プライドの高さというか、マジでバカなだけか……



 なんて、

 あきれていると、



「……ぇ……ぁ……ははっ……」



 急に、ユズが笑い出した。

 頭がバグったかと思ったが、

 どうやら、そうではなかったらしい。


「やっぱり……私は……天に……愛されていたぁあああ!」


 ユズは、突如(とつじょ)、天を仰(あお)いで、

 ノドをからす勢(いきお)いで、



「プラチナァアアアア!! スペシャルゥウウウウウッッ!!」



 あ、やばい……

 と、思った時にはもう遅かった。


 俺にも、『ユズに開いた覚醒』の『音』が聞こえた。


 ――プラチナスペシャル『レディ・ジャイアニズム』、開眼――

 ――効果:『あんたのモノは私のモノ。私のモノは私のモノ』



「つかえるものは全部!! 私のものだぁああああ! よこせぇえええええええ!!」



 そう叫ぶと、

 ユズの方に光が集まっていく。


 その光の出所(でどころ)は、『俺』と『酒神』と『アダム』。


 俺には、何が起こっているか、イマイチ、分からなかったが、

 『奪われた彼女たち』は、どうやら理解しているようで、


「……きゅ、『吸収』を……奪われた……っ! そ、そんな!」


 アダムがそう叫んだのと同じタイミングで、


「やばい! 『ラッキー・ニルヴァーナ』を奪われた! セン! 逃げなさい!!」


 酒神が、そう叫んだ。

 いつもの赤ちゃん言葉じゃなくなっている。

 本気で焦(あせ)っているのが伝わってきた。


 と、そこで、気付く。


「あれ……ヘブンズキャノンが……」


 さっきまで生(は)えていたのに、なぜか、消えてしまった。

 その瞬間、ようやく『あ、奪われた』……と、理解できた。

 死ぬほど不愉快(ふゆかい)な感覚だった。


 そこで、ユズが、


「――アダムぅう! あんた、さっき、私に、タイマンで負けたよなぁあああ!」


 そう叫びながら、


「はっはぁ! 吸収ぅう!!」


 アダムにおそいかかる。

 アダムは、抵抗しようとしているが、


「ぐぅうう!!」


 バトルスーツの素早さがエグすぎて、

 逃げきれず、そのまま、

 アダムの体は、バトルスーツの中へと溶けていった。



「お、おお……が、合体した? ……そんなこともできるのかよ……すげぇな……」



 と、普通に困惑(こんわく)していると、


「1001号!! てめぇもだ!!」


 さらに、ユズは、アダムの時と同じく、

 あのモブヅラ――『1001号』のことも吸収してしまう。


 それだけにはとどまらず、


「そっちの女どもぉおお! お前ら、蝉原勇吾の弟子だなぁ! 見たことあるぞぉおおお! お前ら、たしか、存在値700を超えているよな! いいエサだぁああ! もらうぞぉおおおお!」



 恐ろしく素早い動きで、

 まずは、酒神、そして、マリ、アルブムと、

 勢いにまかせて、吸収しまくっていく。



「ちっ……っ!」



 存在値2の俺に、止めることはできなかった。

 どうにか止めようと、右往左往(うおうさおう)はしてみたが、


 ユズの動きが異次元レベルではやすぎて、何もできない。



「……はっはぁあああああああっっ!! 見ろぉおお! 今の私は! とんでもない強さになっているぞぉおお! エグゾギアのコアと同化させたことで、最大出力が1000を超えた!! 存在値1300ぅうううう! はっはぁあああ! 強すぎぃいい!!」



「……うわ……マジかよ……」


 ユズのエグさにひいていると、

 そこで、俺の中にいるアポロが、


「セン様、逃げてください」


 そう言いながら、俺の中から出てきた。

 光が集(あつ)まって、実体になる。


「……おい、アポロ……体、大丈夫なのか?」


 俺の体から飛び出してきたアポロは、

 なんだか、具合が悪そうだった。

 おそらく、まだ完全には回復していない。


「もう一度、『絶死のアリア・ギアス』を積めば、あの化け物が相手でも、どうにか、時間を稼ぐことはできるでしょう。さあ、はやくお逃げください。あなた様だけは死んではいけない」


 と、アポロがそう言ったところで、


「また、いいエサ、みっけぇええええ!!」


 ユズが、アポロにおそいかかった。


「ぐっ! 世界よ! この闘いで『終わり』でいい、だか――」


 アポロは、絶死を積もうとしたが、

 その行動は、ユズの前では、あまりにおそく、

 アポロも、ユズに吸収されてしまう。




「はっはぁああああああああああ! まだあがるぅう! 存在値1500ぅうう!! はっはぁ! まさか、今の女! 龍の女神かぁああ! おもいがけない最高のエサぁああああ! 私、運も実力も最強ぉおおおおお!」



 それを見ていた俺は、

 頭をかきながら、



「……カス女が……ブクブクと、膨(ふくら)らみやがって……」



 俺は、両の拳をギュっと握りしめる。

 そして、ユズに吸収された『彼女たち』に向けて言う。


「心配しなくても、必ず奪い返すから……ちょっとだけガマンしてくれ……いや、ちょっとじゃないか……だいぶかかるかもしれないが、まあ、なんであれ、絶対に、とりもどすから」


「……ああん? おい、そこのエサにもならないカスぅ……まさか、まだ、私と戦うつもりか?」


「闘うつもりじゃない。殺すつもりだ。お前は、俺から、大事なものを奪い取った。かならず、全部、返してもらう」


「シッポを奪われたお前に何ができるって?! あぁん?」


 おお、おお、煽(あお)ってくるじゃねぇか。


 ナメんなよ。


「シッポなんざ、ただの飾(かざ)りだ。俺の、本当の切り札は、別にある。そして、そっちは、まだ奪われてねぇ。だから、俺は、まだ、舞(ま)える」


「へぇー、ちなみに、どんな切り札ぁ? 私、気になるぅ」


「……根性」


「……はぁ?」


「昔から、根性にだけは自信があるんだ。才能もないし、ツラも悪いし、運もよくねぇ俺だけど……『歯を食いしばって耐えること』に関していえば、この世の誰にも負けない自信がある」


「……あんたさ……」


 そこで、ユズは、

 声のトーンをおとして、


「……ほんと、吐き気するほどキモいんだけど……」


 そう言って、俺に殴りかかってきた。


 ガツンッ!!

 と、全身に衝撃(しょうげき)が走る。


 強大なダメージを負う俺の体。

 死ぬほど痛ぇ。

 メンタルにかかるダメージもえぐい。



 ……けど、心が折れる気配は一ミリもねぇ。



「ぺっ……」



 俺は、血を吐いてから、目に殺気を込めて宣言する。


「いくぞ、ユズ……殺してやる」




 ★




 ユズの一撃一撃は、本当に重かった。

 とにかく痛くて仕方がねぇ。

 ダメージ量だけで言えば、

 俺、すでに、1億回くらいは死んでいる。

 しかし、俺の心は、一ミリも冷えていなかった。


 むしろ、『死ぬほどの一撃』をうけるたびに、熱くたぎる。


「おら、どうした、クソ女……もっと気合いを入れて殴ってこいよ。その程度で、俺が死ぬわけねぇだろ」


 そう言ってやる。


 最初の方はノリノリで俺を殴っていたユズだが、

 しだいに、


「な、なんなの……あんた……まさか……ほんとうに、不死身? そ、そんなわけ……」


 だんだんと、ビビリだしてきている。

 どうやら、俺の『本当のヤバさ』が分かってきたらしい。


 だから、最初に、言っただろ?

 ヘブンズキャノンなんざ、ただの飾(かざ)りだって。


「あんた、キモい! ほんと、キモい!!」


 そう言いながら、俺を圧殺(あっさつ)しようと、

 必死になって攻撃してくる。


 すべての攻撃が『死ぬほど痛い』……が、

 しかし『それ以上の感想』は特になかった。


「覚悟しろよ、ユズ。お前ごときじゃ、永遠に俺を殺せねぇ。10年でも、100年でも付き合うつもりだから、とことん絶望しやがれ」


「お、お前みたいなカス男に、いつまでも付き合うほど、私は安くないし、ヒマじゃないんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」


 ユズは、そう叫ぶと、


「――『レディ・ジャイアニズム』!! 『あいつを不死身にしている力』を奪い取れぇえええ! つかえるものは、全部、私のものだぁああああ!!」


 レディ・ジャイアニズムが本気で牙をむいてきた。

 俺にきざまれている『絶対的主人公補正』が揺(ゆ)らいでいるのを感じる。


 ユズのスペシャルは、ガチで、かなりエグい性能を誇っていた。

 『絶対的主人公補正だけは、奪い取れないだろう』と思っていたのだが……


「うぐぅう……カスがぁ……こびりつきやがってぇええ! ウザいんだよぉおお! 抵抗するなぁああああ! 私に服従(ふくじゅう)しろぉおお!!」


 ヒステリックにワガママを叫ぶユズ。


 結果、最終的には、


「はぁ……はぁ……ちっ……完全には奪い取れなかったか……しかし、半分は奪い取ったぞ」


 俺の『絶対的主人公補正』の半分が奪われた。


 性能が半分になったのを感じる。


「これで、もう、あんたは不死身じゃない」


 そう言いながら、俺に殴りかかってくる。

 ガツンと重たいのをもらった。

 けど、俺は死んでねぇ。


「げほっ……ぐっ……そ、その表現は正しくないな。『ちょっとでも折れたら死ぬようになった』ってだけ。逃げたいとか、死にたいとか、ほんの少しでも思ったら死ぬようになった……それだけの話だ」


 折れない限り、死なない。

 その特性自体は変わらねぇ。


 だから、何度殴られても関係ない。

 てめぇの攻撃で折れるほど、俺はザコじゃねぇ。


「じゃあ、『心の底から死にたい』って思わせてやるよぉおお! とことん痛めつけてやるからなぁあああ! 10年でも、100年でも付き合うんだろ? 100年かけて、死ぬまで殺してやる。なかなか死なないいいオモチャとして、最後の最後まで、いたぶりつくしてやるよぉおおおお!」


 ヒステリックにボッコボコにしてくる。

 すべての攻撃を受け止めながら、

 俺は、


「はっ……100年で終わると思っているところが甘いな。……ぺっ……俺は、1000年かけて、お前を殺す方法を探すつもりでいるぞ」


「口だけは一丁前だな! クズの特徴(とくちょう)だ! あはははぁっ!」


 ユズは、自分を鼓舞(こぶ)するように高笑いを決め込んでから、

 さらに、暴力の質を高めてくる。


「1000年かけたところで、お前みたいなクズが私に勝てるわけねぇだろ! ボケぇええ!」


「まあ、確かに、今のお前は、なかなかエグいから、1000年じゃ、厳しいかもなぁ……『1000年かけても、勝てませんでした』ってオチになる可能性は非常に高い。けどなぁ……」


 俺は、

 とびっきりの覚悟を目に込めてにらみつける。



「その時は、当たり前のように、1001年目に挑戦してやる。俺の覚悟をナメんなよ、バカ女」



 と、俺が、宣言をかました、

 その時だった。






「……見つけた……俺の片割れ……」






 めちゃくちゃ厨二くせぇ恰好をしたヤツが現れて、そう言った。

 黒いフードをかぶり、左手にデスサイズ、右手に聖剣を持った死神。


 その死神は、俺の近くまで歩いてくると、

 ボロボロの俺を見て、鼻で笑い、


「おいおい、センエース。お前、俺の『片割れ』なんだから、あんなカスみたいな女に苦戦なんてするなよ。恥ずかしいぜ」


「えっと……どちらさん?」


「俺は、聖なる死神セイバーリッチ。お前のペルソナだ」


「……ちょっと、何言っているかわかんねぇんだけど……」


「ようするに、『俺』は『お前の力』だから、うまく使ってくれや」


 そう言いながら、

 セイバーリッチは、

 俺の胸に、手を置いて、


「センエース。お前は『すべての生命の頂点』に立つ男だ。あんなカスに負けるなんて、絶対に許さない」


「いや、もともと、負ける気は毛頭なかったんだけど」


「じゃあ、こう言いかえようか。あんなカスに苦戦するな。鼻歌まじりの楽勝で決めろ。それこそが、『すべての生命が夢見た、たった一つの希望』であるお前の責務(せきむ)だ」


 最後にそういうと、

 セイバーリッチは、おれの中へととけていく。


 気づいた時、

 俺の手は『邪悪な聖剣』を握っていた。


 何を言っているのか分からないと思うが、

 俺の手の中にあったのは、確かに、

 『聖なる死神の邪悪な聖剣』だったのだ。



「……すげぇな、おい……これを装備した瞬間、俺の存在値が……なんか、エグいことになってねぇ?」



 そうつぶやくと、

 俺の『中』にいるセイバーリッチが、


「さすがだ、センエース。お前と一つになったことで、基礎存在値が3000まで上昇した。たぶん、今の俺が『神の力』を使えば、存在値『17兆』ぐらいは余裕だな」


「……存在値17兆? なんだ、その『小学生でも遠慮(えんりょ)するレベル』のインフレ数字は……」


「気にするな。それより、さっさと、女どもを奪い返せよ。大事なんだろ、あいつに奪われた女、全部」


「命令するなよ、腹立つから。お前がすげぇヤツなのは、なんとなくわかったし、助けてもらえて、普通にありがたいとは思っているが……でも、俺の行動は、俺の意志で決める」


「……めんどくせぇ野郎だな……わかった、わかった、好きにしてくれ。事実、主導権(しゅどうけん)はお前にある」


 そこで、俺は、ユズに視線を向けた。


 すると、


「……ひっ!」


 と、悲鳴を上げて、あとじさりをする。

 あのバカ女でも、

 さすがに、今の俺が、エグすぎるってことぐらいは分かるらしい。


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