38話 女の子を、とことんボコボコにするセンエース。


 38話 女の子を、とことんボコボコにするセンエース。


「な、なに……その力……ど、どういうこと……ありえない……なんで、そんな……『今の私より上の力』なんて絶対にありえない……だ、だって、私、龍の女神を吸収したのよ……この世界で最強の神を吸収して……アダムも……蝉原の弟子も……エグゾギアも使っているのに……な、なんで、その私より……あんたの方が……はるかに大きいの……」


「さあ、知らん。仮に、詳細(しょうさい)を知っていたとしても、てめぇに詳しく教えてやるつもりはないけどな」


 そう言いながら、

 俺は、ユズのもとへと歩いて近づいていく。


 すると、ユズは、


「く、くるなぁ!!」


 そう叫びながら、

 右手を俺に向けて、

 異次元砲を放ってきた。


 すさまじいエネルギー量のビーム攻撃だが、

 今の俺にとっては、レーザーポインターをあてられているのと変わらなかった。


 ほとんどノーダメージの俺を見て、

 ユズは、


「ひ、ひぃいい! な、なんでぇえ! 異次元砲を使ったのに! なんで!!」


 あまりの恐怖で腰をぬかすユズ。


 俺は、そんな彼女に向けて、


「さんざん、ボコボコにしてくれたな、クソ女……覚悟しろよ。何度でもいうが、俺は聖人じゃねぇから、さすがに、ここまでしてくれたテメェに、なんらかの慈悲(じひ)をかけたりはしねぇ」


 そう言ってから、

 瞬間移動で、彼女の背後(はいご)を奪い取る。


 体が死ぬほど軽い。

 『絶死のアリア・ギアス』を積んでいた時よりもはるかに鋭(するど)く動ける。


「泣いて謝っても許(ゆる)してやらねぇが……そもそも、『泣いて謝る』なんてダサいマネ、お前はしないだろうな」


 そう言いながら、俺は、『聖剣をもっていない方の手』で、

 ユズの脳天を、ガツンッと、なぐりつける。


「ぎゃあああああっ!」


 剣を使ったら、一撃で切り裂いてしまうからな。

 そんなことは許さない。

 『世の中』と『人の命』をナメくさったお前には、

 ちゃんと地獄を知ってもらう。


「ユズ……中学の時から、てめぇのウワサは聞いているぞ……」


 そう言いながら、

 俺は、何度も、彼女を殴りつける。


「障碍者(しょうがいしゃ)の女の子を、ヤンキー数人に襲わせて自殺させたってウワサ……正直、半信半疑(はんしんはんぎ)だったが……お前を深く知ったことで確信した。お前はやるよ。そのぐらい。お前は、マジで最低だ。こわれすぎている。人間じゃねぇ」


 俺は、何度も、何度も、何度も、

 彼女を殴りつける。


 ボコボコにされてイラついたのか、

 ユズは、また、ヒステリックを再開させる。


「わ、私はぁああ! 壊れてるんじゃねぇええ!! 私以外が壊れてんだぁああ! 私を不快にさせるのがダメなんだよぉおお! そんな当たり前の話が!! なんで、わかんないんだぁあああ!」


 ユズは、俺の連続パンチからどうにか抜け出すと、

 瞬間移動で、俺の背後をとろうとした。


 けど、全部見えている。

 正直、今の俺には、遅すぎる動き。


 背後にまわったユズに、

 俺は、正面を向いたまま裏拳をいれた。


「ぶへぁああああっ!」


「……本物の悪人は改心なんてしない……理屈としては理解していたつもりだったが、『生(なま)もの』をみると、また違う感想をいだくな……」


 奇怪(きかい)なものを見る目で、ユズをにらみながら、

 俺は、


「お前さぁ……『ちょっとは反省しよう』とか、本当に、わずかも思わないのか? 『しないんだろうなぁ』とは思っているけど、こんだけ、とことん制裁(せいさい)を受けているんだから、多少は、『はしゃがなければよかった』とか思わねぇの?」


「はぁ……はぁ……」


 ユズは、ズタボロのまま、

 殺人鬼のような顔で俺をにらみ、


「私は……何も……間違っていない……」


 ギリギリと奥歯をかみしめて、

 天をにらみ、


「このクソ陰キャを殺す力がほしい! 神様! 聞いているでしょ! 私が大事でしょ! これまで、ずっと、大事にしてくれたもんね! だから、助けてくれるでしょ! 私、死にたくない! だから、助けて!!」


 ワガママを叫ぶ。

 とんでもない女だ……


「プラチナスペシャル!! プラチナスペシャル!!! プラチナスペシャルゥウウウウ! 叫んでんだから、ちょうだいよぉおおお! こいつを殺せる力をよこせよぉおおおおおおお! なんで、何も言わないんだよぉおおお! クソぼけぇえええええええええ!!」


「……プラチナスペシャルは、叫んだらもらえるんじゃなく、目覚めた反動で、つい叫んでしまうものだろ……」


 なんて、俺が、普通のことを言っても、

 そんな言葉は、彼女の心には届かない。


「うるさい、うるさい、うるさい、うるさぁあああああい! 私に説教するな! 何様なんだよ、てめぇ! ほんと、イラつくんだよぉおお!! クソうざいぃいいい!」


「……説教? そんな高尚(こうしょう)なこと、するつもりはねぇよ。俺は、かるくおしゃべりしながら、物理でお前をボコボコにしているだけだ。あと、さっきからずっと、てめぇの方が、よっぽどうるせぇ」


 そう言ってから、

 俺は、ユズの腹部に、思いっきり拳をたたきつけた。



「ぶっはぁああああああああああああっっ!!」



 パワードスーツの耐久値(たいきゅうち)を削(けず)り切ったのか、

 ユズをおおっていたスーツは、スゥっと消えた。


「う……うげっ……う……うぇええ……っ うげぇええ……っ」


 白目をむいて、

 ドボドボと血を吐くユズ。


「く……そ……ボケ……しね……」


 最後の最後まで、ユズは、クズ女のまま、俺をにらみつけている。


 そんなバカ女に、

 俺は言う。


「俺はなぁ……『悪人は改心なんてしない』と思っている。だから、反省をうながしたりはしない。悪を信条としているヤツは、死ぬまで悪のままだから、反省させようとしてもムダ。……それを理解した上で、あえて、お前にだけは言ってやる」


 そう言いつつ、

 俺は、

 ユズの髪の毛をガシっとつかんで、


「さすがに、ちったぁ、反省しろや、ボケぇ」


 そう言い捨ててから、

 俺は、ユズの頭を思いっきり、地面にたたきつけてやった。


 ガツゥウウンッッ!!


 と、『顔面を砕く勢い』で、

 けど、『死にはしないギリギリ』をせめた。

 一回だけでは足りなかったので、

 ガツゥンッ!

 ガツゥン!

 ガツゥン!!


 と、合計、8回ほどたたきつけたところで、



「……っ……ぁ……っ」



 ユズは、ピクリとも動かなくなった。


 完全に気絶したのを確認してから、

 俺は、


「セイバー……このカスに吸収された酒神たちを、奪い返すことってできる?」


 と、俺の『中』にいるセイバーに聞いてみた。

 すると、


「だいぶ、繊細(せんさい)なムーブになるな……一瞬、体、かわってくれ」


「あいよ」


 主導権をセイバーにゆずる。

 その直後、セイバーは、

 ぶつぶつと、


「悪鬼羅刹(あっきらせつ)は表裏一体。俺は独(ひと)り、無間(むげん)地獄に立ち尽くす。どこまでも光を求めてさまよう旅人。ここは幾億(いくおく)の夜を越(こ)えて辿(たど)り着いた場所。さあ、詠(うた)おう。詠(うた)おうじゃないか。喝采(かっさい)はいらない。賛美(さんび)も不要(ふよう)。俺は、ただ、絶望を裂(さ)く一振りの剣であればいい」


 厨二力全開のポエムを詠唱(えいしょう)しはじめた。


 やばいな……俺も、たいがい、厨二と呼ばれるが、

 こいつは、俺を置き去りにしている。


「それでは、独善(どくぜん)的な正義を執行(しっこう)するとしよう。たゆたう『血で穢(けが)れた杯(はい)』を献(けん)じながら。――俺は……聖なる死神セイバーリッチ」


 そこで、ポエムをいったん区切ると、

 セイバーは、

 デスサイズを召喚してから、

 ゆっくりと、ふりかぶり、




「――『ヒーロー見参』――」




 そう言いながら、ユズの体に向かって、

 デスサイズをふりおろす。


 ズバァアアッッ!!


 と、ユズを一刀両断するセイバー。

 あ、死んだ……

 と、思ったが、

 しかし、ユズの体に傷はなかった。


 チラっと、デスサイズの『刃』の部分を見てみると、

 なんだか、ユラユラしている『魂っぽい何か』が七つほど付着していた。



 そこからも、セイバーは、

 何か、複雑そうな『儀式(ぎしき)』であったり、『魔法』であったりを駆使(くし)して、酒神たちを復活させようと努力している。



 最初から、セイバーが『エグい存在』であることは、なんとなく分かっていたが、

 どうやら、セイバーは、俺が想像していた以上に、ハンパない存在らしい。

 ちなみに、俺のヘブンズキャノンも、さっきの一振りでサクっと回収したっぽい。

 セイバー、どんだけ有能なんだ……


 ……数秒ほど、セイバーが頑張ったことで、


「――よし、OKだ。セン、変わるぞ。ここから先はお前に任せた」


「いや、任せたって……俺、なんも出来ねぇよ。全部、ちゃんとやってくれ」


「よみがえらせる作業は終わった。あとは、酒神たちに、ヒーローとしての器をしめせ。それがお前の仕事だ」


 そう言うと、

 セイバーは、俺の許可なく、勝手に主導権を返してきた。


 俺にできることなど何もないので、

 『え、どうしたらいいの?』と立ち尽くしていると、

 俺の目の前にある、七つの『魂』が、

 グニョグニョとうごめいて、

 人型に変化していく。


 ほんの数秒で、

 彼女たちは、元の姿に戻った。

 どうやら、本当に、セイバーは、完璧に仕事を終わらせていたらしい。


 最初に目を覚ましたのは、

 雷の闘衣(とうい)をまとった女――アダム。


 彼女は、

 意識を取り戻すと同時、

 俺のことをジっと見据えて、


「……バカ女の中で……ずっと、あなた様を見ていました……その時……私は、不敬(ふけい)にも……あなた様を『包んで差し上げたい』と、そんな不遜(ふそん)なことを……考えてしまいました……それほどまでに、あなた様の尊さが愛(いと)おしい……」


 凛(りん)とした、大きな目。

 アダムは、スっと、片膝をつき、


「あなた様の尊き雄姿(ゆうし)……あますことなく拝見(はいけん)させていただきました。心技体。すべてにおいて、あなた様は完璧だった。この世に存在する他の何よりも美しかった」


 アダムは、恍惚(こうこつ)の表情というか、

 トロンと、トロけてしまいそうな顔で、

 美しい『大粒の涙』を流しながら、


「この上なく尊き御方(おかた)……どうか、このわたくしめを……」


 震えた声で、


「あなた様のシモベの一人に……その『輝かしき末席(まっせき)』に加えていただきたく存じます」


 そんなことを言ってきた。

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