27話+ 『超苺』視点(3)


 27話+ 『超苺』視点(3)


 『コワモテのチンピラ』に連れていかれたのは、

 地下にある裏カジノ。


 ここでは、地上とはレートが10倍以上違う……

 ここでは、文字通り命を賭(か)けた勝負も行われている……


 ――みたいな『シリアスな話』をしているけど、

 俺にとって、そんなことは、どうでもよかった。


 大事なことは、俺の前を歩くデビナの『うなじ』が艶(なま)めかしい、という一点のみ。

 デビナは『顔面が悪魔的で怖すぎる』という欠点を除けば、本当に、カワイイ女子だ。

 毎日でもながめていられるね。


 なんてことを思いつつ、

 長い階段を下りて、

 裏カジノにたどりつくと、

 そこには、『死の気配』が漂(ただよ)っていた。


 鉄火場(てっかば)って感じだった。

 こういう雰囲気は嫌いだ。

 血なまぐさくてイイ事なんて、一つもない。


 俺は、『上のカジノ』みたいな、

 カワイイ女の子がキャピキャピしている空間が好きだ。



「セミハラとか言ったな。お前の『挑発(ちょうはつ)』を、『上』は、承諾(しょうだく)した。そっちの手下も含め、全員の命を賭(か)けてもらうぞ」



 ぜんぜん、話を聞いていなかったから、

 正直、状況がよくわからない。


 どうやら、師匠が、『このカジノの裏を仕切っている裏組織を挑発したようだ』ということぐらいは分かっているのだが、それ以上は、何も分からないし、興味もない。


 そんなことより、俺にとって大事なことは、

 『地下にも、バニーガールはいてくれた』という『魂(たましい)の救(すく)い』のみ。


 よかった。

 裏カジノは『闇社会の最前線』だと聞いていたから、

 もしかしたら『ガチムチのオッサンばっかりかも』と不安でしょうがなかった。


 俺は、裏カジノ全体に『にらみ』をきかせるフリをして、

 この場にいるバニーガールのスリーサイズを目算していた。

 全員、非常にグッドだった。

 やはり、かわいい女の子は良い。

 心が癒される。

 ぶっちゃけ、かわいくなくてもいい。

 女の子は、女の子である、というだけで素晴らしい。



 ……などと思っていた時のこと。



 奥にいるバニーガールの一人が、

 フラっと、よろけて、

 『運んでいたお酒』を、客に向けて、こぼしてしまった。


 酒をこぼされた『スキンヘッドのマフィア』は、

 怒りをあらわにして、

 バニーガールの顔面に拳を入れた。



 ガツンと、肉がはじける音が鳴り響いた。



 ――気づいた時、

 俺は、




「ぎぃいいゃあああああ!!」




 ――その『スキンヘッド』の右腕を引きちぎっていた。


「うぁあああっ!! ああああっ! オレのぉおお! オレの腕ええぇえええええ!!」


 『スキンヘッド』が悲鳴をあげている。


 ……大の男が、腕一本で泣きわめくなよ、みっともねぇ。


 イラっとした俺は、さらに、スキンヘッドの左腕を、足で砕(くだ)く。



「ぎぃいいやぁああっ!! ぃいいいいいい!!」



 『小さな虫』をもてあそぶように、

 俺は、スキンヘッドから、四肢(しし)を奪い取った。


 周囲の人間がドン引いている。

 どうでもよかった。


 女の子の悲鳴が聞こえた。

 怖がらせて、悪いね。

 でも、このスキンヘッドは許せないから、ちょっとだけ我慢してね。


 最後に、トドメとして、

 スキンヘッド頭蓋骨(ずがいこつ)を、

 かかと落としで砕(くだ)いてやろうと思ったところで、




「超苺(こいちご)、そのへんで勘弁(かなんべん)してくれ。まだ、交渉が終わっていない。殺しは、交渉が決裂(けつれつ)した時だ」




 背後から、師匠の声が響いた。


 正直、まだ物足りないが、

 セン様から、『極力、師匠の指示にはしたがうように』と言われているので、

 俺は、スキンヘッドを殺すのをやめて、

 殴られたバニーガールに、


「………………治癒(ちゆ)ランク12」


 回復魔法をかけておく。

 彼女の『殴られた場所のアザ』が綺麗に消えた。


 俺は『顔にキズがある女の子』も美しいと思える。

 女の子は、どんな状態でも美しい。


 ――けど、当人としては、顔にアザがのこるのはイヤだろう。

 しずんだ顔をしている女の子は美しくない。


「あ……ありがとう……ございます……」


 感謝をされてしまった。

 別に必要ない。


 俺は俺のためにやっただけだ。

 女の子は、存在してくれるだけでありがたい。



「おれの部下が大変失礼なことをした。あやまるよ、悪いねっ」



 師匠が、そう言うと、

 俺たちを、この裏カジノに案内した『コワモテ』が、


「き、貴様ら……こんなマネして……ただですむと……」


「まずは、交渉してから……のつもりだったんだけど、まあいいさ」


 師匠は、苦笑いしつつ、

 そのコワモテの首を、右手で、ガっと掴み、


「デビナ、ボウ、クロート、超苺……ここから逃げようとしたヤツは、すべて殺せ」


 師匠の命令にうなずく一同。


 最初からそのつもりだったので、わざわざ命令する必要も、うなずく必要もない。

 だから、今、師匠がやったことは俺たちに対する命令ではなく、

 敵に対する『威嚇(いかく)』である。


 あえて、ここにいる全員の前で『宣言(せんげん)』することで、

 全員の動きをにぶらせている。


 師匠は、こういう『こまかいこと』を好む傾向(けいこう)にある。

 ここにいるのは、バイトでバニーをしている子以外、全員、悪人なのだから、

 最初から、『女の子』と『要人』以外の小物は、サクっと皆殺しにすれば早いのに、


 まずは、『マフィア的な恐怖』で相手を威圧(いあつ)することからはじめる。


 そのへんの感性が俺には分からない。



「言っておくが、おれたちがその気になれば、ここにいる全員を秒で殺せる。だが、殺戮(さつりく)を目的にきたわけじゃない。というわけで、『話の分かるヤツ』のもとまで連れていけ」



 そう命令しながら、コワモテの首をギリギリと絞(し)めていく。


「か……かはっ……ナメるなよ……小僧……」


 あのコワモテ、なかなか気合が入っている。

 首をしめられた状態で、

 師匠に歯向かっている。


 師匠をなぐったり、攻撃魔法を使ったり。

 どうにか、師匠の腕から逃れようと必死。


 けど、弱すぎて無意味。

 存在値150程度のザコじゃあ、師匠をどうにかすることはできない。


 『セン様ほどの器』ではないが、

 師匠(せみはら)も『相当な輝き』の持ち主。


 あのコワモテ程度のカスでは相手にならない。



「ぐっ……て、てめぇ……ナニモンだ……っ」



「蝉原勇吾。偉大な王の配下をしている者だ」


「魔王の側近……この国の魔王軍に、てめぇみたいなヤツはいなかった……他国の者か……貴様、バカか? この国の魔王『ユズ』は、六大魔王に匹敵(ひってき)する力の持ち主だぞ……こんなマネして……戦争になるぞ」


「いいねぇ。ぜひやりたいねぇ」


 真っ黒な笑みを浮かべる師匠。

 ああいう、『イカれた笑顔』をうかべさせたら世界一。


 ちなみに、魔王『ユズ』のことは、事前に、ある程度の調べがついている。


 つい最近、先代の魔王を殺して、魔王の座を奪い取った女。

 けっこう美人だが性格が悪いことで有名らしい。

 奴隷の少女を買っていたぶるのが趣味だそうだ。


 俺は、女の子はみんな美しいと思っているが、

 しかし、そういうクズだけは女の子として認めていない。


 魔王ユズは、ただのクズだ。

 今すぐにでも殺しにいきたいが、師匠に止められているので我慢している。



「ぐっ……うぅ……わ、わかった……話を聞く……だから、離(はな)せ……」



 師匠の『交渉』は無事成立した。


 俺たちは、この『裏カジノにいる全員』から、

 ぶじに『ヤバい連中』だと認識(にんしき)された。


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